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モービウスが仮面ライダーだった話

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※映画「モービウス」のネタバレを多分に含みます。

 マーベル作品のヴィラン、モービウス。スパイダーマンやブレイドと敵対しているイメージが強いヴィランがなんと、主役で映画化!
しかも、「スパイダーマン」や「ヴェノム」を含めた、「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」作品としての公開である。
アベンジャーズを軸にしたMCUと近くて遠いラインで広がっていく新しいユニバースが出てきたことで、今後のマーベル映画作品世界に期待が膨らみます……………………


なんて話がしたいんじゃないんですよ!!!!!


 映画が公開されて一週間以上経過し、内容についてだったり他作品とのクロスオーバーの考察をしている人も、もちろんたくさんいる。
みんなが話したいのってそっちのネタだろうし、実際その方がワクワクすると思う。
でも、今回はそっち周りの話をせずに、自分が観賞した「モービウス」という作品で感じたものを書いていこうと思う。

モービウスのあらすじ

天才医師マイケル・モービウス(ジャレッド・レト)。彼は幼いころから血液の難病を患っていた。
同じ病に苦しみ、同じ病棟で兄弟のように育った親友のマイロ(マット・スミス)の為にも、一日も早く、治療法を見つけ出したいという強い思いからマイケルは実験的な治療を自らに施す。それはコウモリの血清を投与するという危険すぎる治療法だった。彼の身体は激変する――全身から力がみなぎり隆起した筋肉で覆われ、超人的なスピードと飛行能力、
さらには周囲の状況を瞬時に感知するレーダー能力を手にする。
しかし、その代償として、抑えきれない“血への渇望”。まるで血に飢えたコウモリのように。
自らをコントロールする為に人工血液を飲み、薄れゆく<人間>としての意識を保つマイケルの前に、生きる為にその血清を投与してほしいとマイロが現れる。
懇願するマイロを「危険すぎる、人間ではいられなくなる」と拒み続ける、マイケル。しかし、NYの街では、次々と全身の血が抜かれた殺人事件が頻発する――(公式サイトより引用)

 要約すると、病弱天才医師がコウモリの遺伝子を入れた超人になってちょっと元気になった話である。
 序盤は肌も青白くやせ細っていて杖をついてやっとの思いで歩いていたマイケルが、血色もよくなり体も引き締まり、あまつさえ空を飛ぶほど元気になっている。RIZAPとかブルワーカー並みの見違え方だ。
 そんな姿を見た親友のマイロも、もちろんその力を欲し、マイケル同様に吸血鬼となってしまう。吸血衝動(対象の血を吸いつくすため殺人そのものとして扱われている)を恐れたマイケルに対して、マイロは元気になった己を楽しみ、衝動のまま人を襲う。自分の犯した悪魔の実験のあとしまつのため、そして変貌してしまった親友を止めるためにモービウスは戦うこととなる。

ブルワーカーの広告。まったく簡・単・だ!

 実験によって人ならざる異形の存在となり、そして自分と同一の存在とも言える親友と戦う物語。このストーリーラインだとある作品が浮かんでくる。そう、仮面ライダーだ。
 仮面ライダーは1971年から続く、日本の特撮ヒーロー作品。日本の変身ヒーロー文化の魁として今なお高い人気を誇るヒーローである。
数多くの魅力を誇る仮面ライダーだが、その中にある要素としてよく語られているのが、「同胞・兄弟殺しや親殺し」という要素にある。シリーズも増えてきたことで形が変わってきてはいるが、仮面ライダーは自分の力の根源(親)と同一の存在である怪人(兄弟・同胞)と戦うというフォーマットはある程度踏襲されている。同じ組織が生んだ存在同士であったり、変身に使用するガジェットが同じであったりという具合にだ。


 その観点で「モービウス」を見てみる。
同じ実験で異形の化け物になってしまった親友同士が戦う……………………


それもう仮面ライダーじゃん!!!!!


 そう、映画「モービウス」は仮面ライダーだったのだ。
ストーリーの構成自体も仮面ライダーだが、それ以上に作品世界の中で見せてくる描写がことごとく仮面ライダー、特に2000年代前半くらいまでの所謂、初期平成ライダー作品に空気感が近い!

あのしっかりと練られているようでちょっと粗くてガバい展開瞬間瞬間を必死に生きているをしていく仮面ライダーと同じSPIRITSを感じたので、どのあたりがそんなに仮面ライダーなのか、という点について話していきたいイチャモンをつけたい


ここが仮面ライダーだよ!モービウス

 改めて、映画「モービウス」の中で描写されていたものから
仮面ライダーのSPIRITSを勝手に感じた部分を上げていきたい。

  • マイケルの幼少期の天才エピソード

 物語序盤は、幼少期にマイケルとマイロが病院で出会い、友情を育んでいく過程を見せるシーンである。ここでのやり取りがあるからこそ物語を通しての二人の関係性を表していく大事な要素なんだが、その中のエピソードにマイロの医療機器が壊れて死にそうになるシーンが入る。マイケルが医者を呼ぶが、医者がなかなか来ないので、その場で医療機器をペンのバネで修理してマイロを救う。その話を聞いた担当医がマイケルを勉強のできる環境に送り、彼は医者になる経緯となる場面なのだが、よく考えてほしい。

医療機器の故障を! その場で! ペンのバネで!?

 たしかにすごい天才描写なのだが、結構なガバガバ感が高いシーンになっている。機械の構造を理解して修理したエピソードだけならいたって普通の天才描写なのだが、そこに箔をつけるために「ペンに入っているバネ」を使って直したという具体的な道具の説明を入れたことで、すごさよりも違和感のが勝ってしまう。この辺は仮面ライダーとかに出てくるやばいキャラの「あいつは昔からとんでもなかった」ぶりエピソードくらいの雑さを感じた。
 ちなみに物語後半で、マイケルが偽札工場の印刷機を改造して研究用の装置を作っている。この辺もサラッと流しているがかなりガバい。

  • 原作通りの誕生秘話 

 モービウス誕生自体の流れは原作のコミックスとの差はそこまでない。
吸血コウモリの遺伝子を体内に入れることで覚醒するのだが、それをかなり忠実に再現してしまった。なので、遺伝子入ったら即、覚醒。その周辺の科学的な根拠やメカニズムについては一切触れない。
 
一応、今の自分の身体能力であるとか、人工血液を飲んでから渇望するまでの時間などを調べる描写はあるが、なんでこうなったかのか考えることは一切しない。
 あくまでコミック原作であるし、メルヘンやファンタジーと言い切れば済む話だが、21世紀を20年以上経った2022年の作品で、コウモリの遺伝子が入っただけでスーパーパワーが手に入りましたで乗り切る強引さは、とにかく凄い。使ったコウモリが特別なコウモリでもなく、調合するのに特別な薬品や技術を用いたでもない、普通の吸血コウモリで誕生しちゃうのだ。
せめて嘘でもいいからもうちょっと根拠が欲しかった!
そのあたりの粗っぽさはとても面白いが若干のB級臭さが出てしまった印象もあり、そこが作品の空気に一役買っていると思う。
 あと、実験に踏み込む前段階でマウスで実験自体は行っているが、そのマウスの経過観察の描写がないので、もっと準備していたらマウスの方で気付けたのではないかなーとは思ってしまうし、あのマウスも吸血鬼化しているなら野放しにできないのでは???

  •  マイロの友情の湿度が高い

 作品での敵役となるのは、マイケルの親友であり同じく吸血鬼になったマイロである。マイロはマイケルのために資金援助を行うなど公私ともに助け合って生きていたが、実験の影響で吸血鬼化したマイケルを見て自分もそうなりたいと望み、マイケルの反対を押し切って吸血鬼となってしまう。
マイケルは吸血鬼になった瞬間に雇った傭兵たちを殺害してしまい、実験の恐ろしさと親友に同じ思いをさせないように拒んだのだが、マイロは杖もなく元気に見えるマイケルを羨み、その誘惑の方が勝ってしまう。
 そしてその力を得たマイロは衝動に任せて人を襲い、血を吸う。
そのことに抵抗も罪悪感も抱かず、さらにはマイケルにも自分と同様に楽しめと言って揺さぶりをかけてくる。
 子供のころから同じような難病を抱えた親友同士で、スパルタ兵を引用して「少数で大勢に立ち向かう」という言葉を何度も口にする。マイロにとっては、世界は自分とマイケルさえいればいいくらいのニュアンスで、この言葉を頻繁に用いて行動してくる。とにかく愛が重い!
明確な悪意と敵意ではなく、かなりジメ~~っとした激重感情でマイケルに絡み続けて、迷惑をかけてくるところとか本当に気持ち悪い(もちろん誉め言葉であるが……)ので、その辺もアクの強いキャラクターが敵にいて気持ち悪さを見せてくる仮面ライダーシリーズとの共通項といえるだろう。

スーパーヒーロー大戦いいよね……


  •  マイロの元気さ描写の発想が割かし貧困

 さらにマイロの話につながるが、力を得た後に元気になったことで
彼の生活は少しずつ変わっていく。その変貌も本来であれば力に呑まれてしまい、怪物になっていくところを見せていくのだが、少し違う。
力を得てからのマイロはなんというか……ほほえましいのだ。
病気ゆえに運動もままならず、杖をついていたマイロは健康体になるのだが、その体が元気になったことを見せていくためにウッキウキでスーツに着替えるシーンが流される。着がえる間終始ご機嫌だし、なんならちょっとポーズとかとるしキメ顔もする。完全に、筋トレとかちょっとやって筋肉ついたかなってポージングしている男子高校生とノリが同じ!
 体が健康になったことで自信がついた喜びをエンジョイする描写がポージングしながらのお着がえだし、その後の戦闘シーンなどもダンスしながら戦ったり、決めポーズをとるなどノリノリである。
 これだけならただの面白ポイントだが、まだまだマイロのウキウキ描写は止まらない。
次にとった行動は、夜に一人でバーでお酒を飲むこと!
さらには、その場にいた女性に声をかけ、酒をおごる……所謂ナンパである。

吸血鬼になってやることが、バーでナンパ!!!!!

 今まで送れなかった青春を取り戻すと考えると、やっていることは重たいのだが、そんなことよりもだ!
スーパーパワーを手に入れたからバーでナンパしちゃうのは、もう非モテの発想過ぎてしまう!
そもそもバーでやることのイメージが「女子に酒を出しておごるあちらのお客様からです」なのは、パリピ描写のイメージが貧困な感じが強く出てしまっている。この辺りもなんか仮面ライダー(というよりは東映特撮作品)に近いと感じた。

 その後の流れだが、ナンパ相手にツレがいたことでその男たちに殴られてしまう。その後、店から出た男たちを殺害するのだが、殺害の経緯も監視カメラに映ったことで正体が警察にバレるその後の展開も、かなりガバガバなせいでマイロの敵役としての株が上昇することはほとんどない。
 しかし、それでいい。マイケルへの執着と小物臭さと童貞臭さがマイロというキャラの構成要素としてとてもイキイキとさせており、作品の魅力につながっていると個人的には思っている。

 この一連のマイロの殺人描写の「なんとなく勢いでのむしゃくしゃしてやった犯行」の数々は初期の平成ライダーの怪人たちの通りがかりでいきなり襲うノリにとても近い。この辺からもライダーっぽさが出ていると思う。

上記の点に加えてそのほかにも

  • 戦闘シーンが暗いところばっかりなのは最初期のライダーや平成ライダーの初期作品らしさがある点

  • 妙に早回しとスローモーションを多用する点(これは大戦隊ゴーグルファイブの方が近いけど)

  • 少ない登場人物と割かし狭い世界で展開する物語

などといった、ほぼこじつけのような要素も加えれば、
「モービウス」が近年のマーベル作品というよりも日本の東映特撮作品である仮面ライダーの空気感に近いと思っていただけるだろう。
 一見、悪口にも聞こえてしまうかもしれないが、どちらかといえばかなり好意的に言っているつもりである。
「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」作品である以上、そのクロスオーバーが関心のメインになってしまいがちだが、マイロという面白キャラを生み出したことはとても偉大だ。好き。

 
膨大なマルチバース作品の一つとしてではなく、それ以上に単独の怪奇特撮映画として見たときに面白い部分がたくさんあると思うので、
ぜひ楽しんでほしい。

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