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業界未経験かつ社会人歴2年目の男(31)が教えてくれたシンプルすぎる採用基準

過去の実績を重視しすぎると、採用はうまくいかない。実績がピカピカな人材を採用することは容易ではないし、そもそも一部の大企業を除いては見合った給与を支払うことも簡単ではない。働く側の視点でみても、実績がない分野への挑戦の道が閉ざされてしまうことになる。昨日まで銀行員だった人が、今日からマーケティングの仕事ができる世界の方が生きやすい。

では、どのような基準で評価すべきなのか。2020年1月のある人物と出会いがヒントとなり、一つのシンプルな採用基準をまとめてみた。当初は個人的なメモにとどめていたが、多くの人が抱える共通課題に思えたので一般公開し、ツッコミを受けならが精度をあげて...(言い訳)

タナケンというプロデューサーとの出会い

これは余談になるが、私の仕事の仕方は少し変わっている。ほとんどの仕事がプロジェクト単位だ。メンバーもお付き合いする会社も毎回がらりと変わる。固定メンバーのもと数年単位で難題を乗り越えていくという働き方に憧れないわけではないが、プロジェクト単位ゆえの良さもある。とにかく出会いの量が多く、良い影響やヒントを与えてくれる人との出会える確率が高い。

2020年1月、ある男と出会った。タナケンと周囲から呼ばれる彼はプロデューサーだ。業界ごとに役職の定義が微妙に異なるのが厄介だが、広告業界におけるプロデューサーは、クリエティブディレクターが考えた理想を実現するプロだ。理想のプランを実現させるための最適なチームを組み、最適な予算配分行い、最適なスケジュールを切り、最適な進行を行う。彼らなしにプロジェクトの成功はあり得ない。漫画でいう編集者のような仕事だ。締め切りの設定一つとっても、早すぎても遅すぎても駄目。プロデュースは極めて高度な技術を要する仕事で、専門職といっていい。ゆえに多くのプロデューサーは、PM(プロジェクトマネージャー)として10年以上のキャリアを積み、その職につく。

プロデューサーは専門職という思い込み

まだコロナのことなど想像もしなかった冬の終わり。タナケンから仕事の相談が入った。ある企業の新規事業を一緒に立ち上げたいという相談だった。facebookのメッセンジャーでさらっと送られてきたわりに重い仕事だなと思ったことを覚えている。彼とはこれまで仕事で一緒になったことはなく、彼が私の友人が経営する会社の社員ということで、単なる飲み仲間でしかなかった。飲みの席でも複数名の場でしか話したことはなく、同い年ということで、キャリア10年目の中堅どころというざっくりとした認識しかなかった。

そんなざっくりの認識のままプロジェクトはスタートした。始まると、すぐにタナケンのプロデュース力に驚いた。まず締め切り設定が上手い(締め切り設定にも上手い下手があるのが面白い)。ある時期、私の仕切りが悪く仕事が重なってしまい、資料提出の時間が数時間単位で遅れてしまう状況が生まれていた。それでもタナケンは動じない。あとで知らされたことだが、彼はそんな私の状況を見越して、実際の納期より少し前に締め切りを設定していたのだ。端的にいえば、嘘の締め切りだ(笑)綺麗な嘘により、円滑にプロジェクトは進んでいった。

またある時は、こんなこともあった。コロナの状況が悪化しリモートワークに切り替えたタイミングで、有志を集めて毎朝リモートヨガを始めた。そのメンバーの一人にタナケンもいたのだが、彼は基本的に不定期でしかこない。しばらく経って、タナケンが顔を出すタイミングに法則があることに気づき怖くなった。彼が来る日は、全て私が資料を提出する日だったのだ。なんという美しいプレッシャーのかけ方。そのゆるやかなプレッシャーにより、私はまんまと納期を守っていたのだ。(プレッシャーがなくても納期は守るものだが…)

タナケンのプロデュース力により、プロジェクトは日を追うごとに良いものになっていった。コロナが一旦の落ち着きを見せた、6月下旬。彼のプロデュース力の秘密を知りたくて、飲みに誘った。どんな経験を積んできたのだろう、どんな上司に教わってきたのだろう、そんな私のふわっとした予想は全て裏切られることになる。

社会人歴2年目。プロデューサー未経験。

乾杯もそこそこに質問攻めのはずが、一つ目の質問で全てが止まってしまう。「いや、僕プロデューサーやったことないですし、まだ社会人歴も2年しかないんですよね」いやいやいやいや。そんなわけないでしょ。冗談はやめてよ、としつこく同じ質問を繰り返すも、「これまでバンドやってきたんで、マジっす」と真顔を崩さない。激しく混乱した。前述の通り、プロデューサーは専門職であり、2年目そこそこの経験がない人物に務まるはずがないというのが僕の持論だったからだ。もっというと僕自身がクリエイティブディレクターという自らの仕事に対して専門職である自負とプライドを持っていた。だから、他人を評価する際も過去作品を重視してきたし、なんならタナケンが未経験という事実を相談時にもし知っていれば、断っていた可能性が高い。大事にしてきた持論が崩れそうな状況に頭がくらくらし、一気にビールを飲み干した。

なぜ、タナケンは未経験でここまでできるのか。

ビールを追加注文し、急いで論点を切り替えた。混乱を落ち着けるためにも、切り替えざるを得なかった。なぜ、未経験でそこまでできるのか。その点に絞って会話を続けた。どんな1年を過ごしてきたのか、どんなOJTだったのか。彼の答えは意外にもあっさりしていた。「多分なんですけど、」と丁寧に前置きをした上で彼は2年前に解散したバンドの話を続けた。同世代が続々と就職していく中で、彼はバンド一本でキャリアをスタートさせた。そしてメジャーデビューを果たし、何曲かはカラオケにも入っているという。それでもバンドだけで食べていけるのはほんの数十組という厳しい世界。30歳を区切りに活動に幕を閉じ、無理を言って旧友の会社へ入社したのだという。

人は変われると信じている人と、そうではない人

彼には信念があった。バンドを続ける中で周囲の景色が変わっていった話。ステージが大きくなっていった話。ファンが増えていった話。そして、振り返ったときに自分が一番変化していた話を照れ臭そうにしてくれた。そして彼のひと言が僕の後頭部を強打した。「人は変われるって信じてるんですよね」バンドを通じて人は変われると信じるに足りる経験をし、それを信じているからこそ、考えられないぐらい実直に柔軟に素直に2年という極めて短い時間を太く濃く過ごすことができたのだと思った。

飲み会は少し家から離れた場所だったが、その日は歩いて帰った。この衝撃を痛みを忘れないうちにまとめないといけないと無意識に考えたのだと思う。そして彼の思想は彼だけではなく、確度高くパフォーマンスを発揮する人の共通項に当てはまっていることに気づいた。

人は変われると信じるかどうか、という考え方はある種の宗教のようなものだ。根拠が客観的なものではないからだ。そんな宗教に30歳までに入信できたかどうか。勉強でも、スポーツでも、バンドでも何でもいい。これがタナケンが僕に教えてくれた採用基準。この宗教を信じるに足りる体験をしてきた人は、人は変われると心の底から思っているので、今現在スキルがなくても、過去の実績や学歴がしょぼくても、未来はちゃんと頑張れる。

採用基準は、人は変われると信じているかどうか。
それに足りる経験をしてきたかどうか。

人は変われると信じている人かどうかという採用基準が優れているのは、判断基準が明確であること。そしてそう信じるに足りる経験をどれだけしてきたかを深掘りしていくという判断材料が明確であること。多くの企業が学生時代に一番頑張ってきたことを質問するのは、やんわりとこの基準の重要性が無自覚的に認識されているからかもしれない。また、過去実績にこだわるとなく採用できるという意味で企業にとっては割安な優秀人材獲得につながるし、同時に働き手のキャリアを柔軟にしていくはずだ。


【告知】人は変われると信じている人、募集中。

採用基準が自分の中で明確になったところで、アシスタントを募集します(笑)NEWSというクリエイティブを投資する会社や、大企業の新規事業立ち上げ、クリエイティブディレクターとしての広告仕事など、業務範囲が膨大になってきていることもあり、個人のアシスタントを募集しています。

アイデアの出し方、提案の仕方、広告の作り方など同時に様々なシーンに同席してもらうことになるので、人は変われると信じている人であれば、短い時間の中で専門知識を身につけることができるのではと思っています。

DMにてご連絡お待ちしています。
Twitter → https://twitter.com/umedatetsuya

(補足)

もちろん採用基準に絶対や完璧はないので、あくまでも一つの個人的な仮説として捉えていただけると幸いです。皆さんの意見もぜひ聞かせてください。


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