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ココロの声を届けろ

「キミのココロが聞こえへんから怯えてもうとる」

そう言った時の彼はとても哀しそうな顔をしていたのを、僕は鮮明に覚えている。

ことの発端は僕が、部下からの報告を受ける態度についてだった。僕は目標数字が未達成に終わった結果から、敗因と来月への対策の報告を受けていた。

彼は部下の報告を聞き終えた僕を会議室に連れて行き、そして話したのだ。

「報告受けて、改善をできた?」

いえ、まだです。報告だけで話が終わりました。何にも考えてないので困りましたよ。

僕は、少し興奮していたんだと思う。部下の改善策に対してアドバイスしても、部下は、わかりました、と返答するだけで建設的な話し合いにならない。

彼は僕の話を相槌を打ちながら聞いている。僕は話し続けた。ようやく落ち着きを取り戻したとき、彼は言ったのだ。

「なあ、相手にココロを届けてるかな。」

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僕は戸惑う。それから、アドバイスならしました、と言う。

彼は悲しみそうな顔をする。「そうちゃう。ココロの声を届けたかを聞いたんや。」

なんですか、それ。

「さっき見てたけど、部下の報告に、キミは暗い表情で頷いたり、相槌うったと思ったら『あー』とか、『まあな』とかや。」

いけないんですか?考えごとしてたんです。真剣に聞いてましたよ。僕は彼に反論する。

「あんな、キミはキミが改善したいんか?それとも一緒に改善をしたいんか?」

一緒に改善のつもりです。

「なら、なんでココロの声を届けへんのや。エエか、一緒に改善したいんやろ。」

ええ。そうです。

「敵ではないよな、部下は。」

もちろんです。

「建設的な話し合いをしたい。」

そうです。僕は言う。

「部下に恐れられる必要はない。」

もちろんです。

「それなら、ココロの声を届けなあかん。相槌のとき、思ったことを声に出して、そう思う、とか、そこはすこし考え方が違いかも、とか、その考えはいいね、とか。ココロの声を届けるんや。

相手はキミが寡黙やったら萎縮するし、キミのココロを無駄に読もうとしてまう。」

僕は報告を受けたいだけです。部下の考えを聞きたいだけです。

「残念やなぁ。部下はな、上司に報告しとる。緊張する方が大半やろ。相手の立場を忘れたらあかん。だって、キミは一緒に改善したいんやろ。」

僕はしばらく考える。それから、僕は怖かったですか、と聞いた。

「それを決めるのは部下や。」そう言って微笑む。

「安心感がないと、相手のココロは閉じたままや。開くには、自分が思う感情を伝わるように声にだして、届けないと。」

僕はもう一度部下と話します、と言った。

「反応のない舞台は、無観客と同じや。ライブのよさは反応を体感できることやで。」

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余談

僕は部下にココロの声を届け出なかった。すまない、と謝り。ただ、まだまだ下手なので、なにを考えてるか不安になったら気にせず指摘して欲しい、と話した。

部下は笑いながら、どうしたんですか、と言って笑った。

僕は言った。「ライブのよさは反応を体感できることやで。」

ヘタな関西弁ですね、と部下は言って彼のほうを一瞥した。









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