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うちのねこ

我が家には、2歳のねこがいる。
種類はキンカロー。マンチカンとアメリカンカールをかけ合わせた、少し珍しい品種です。
うちのこはマンチカンの特徴が強くて、短足だけど耳はくるってなってない。


はじめて我が家に来た数分後に、本気で遊ぶねこ。

2年前に何気なく覗いたお店で出会い、心を奪われてしまった。

はじめて「愛おしい」という感情を抱かせてくれた、たいせつな存在。

抱きあげると、体をまあるくして腕のなかにきゅっとおさまる。ちょこんとそろえた手を私の腕に乗せて、まんまるな目で見あげてくる。
ふわふわでやわらかくて、抱きあげるたびに泣きそうになる。
抱っこが苦手なので、数分で連続キックをお見舞いされるけど。
そんなところもかわゆい。

そんな愛しのねこが、新年早々に病院へ行くはめになったときのはなしを。

1/5、私は自宅の仕事部屋で仕事をしていた。字幕翻訳の最中だったので、イヤホンをいれて大きな音で台詞を聞いていた。

夕方近くになり、コーヒーでも飲もうかなとリビングへ行くと、おもちゃばこに入れてあるはずのねこじゃらしが床に落ちていた。
紐が切れた状態で。
持ち手の棒と紐の先についていたチョウチョだけが、ぽつんと落ちているのを見て、首筋に鳥肌が立った。

すぐにねこを抱っこすると、いつものように体をまるめて、ふしぎそうな顔で見あげてくる。

手で口を開けても、見える範囲に紐はない。むりやり口を開けられて、ねこはびっくりして腕のなかでもがいてる。

「ごめんね、ごめんね」と何度も言いながら口のなかを覗くけど、やっぱり何も見えない。
一度ねこを放してリビング中を探しまわったけど、紐はどこにも落ちてなかった。

のんびりしている時間はないと、どうぶつ病院の診察券をだすと、16時から受け付けと書いてある。この時点で、時刻は15時45分だった。
あと15分なら待てると思い、ねこをキャリーケースに入れて、決して人様には見せられない部屋着から外行きの服に着替えた。

こうして16時になったと同時に電話をかけたのに、つながらない。
よく見ると、なんとその日は休業日。
うっそだろ。
仕方なく別の病院を探して電話をかけると、院長先生がとても丁寧に対応してくださった。
ただ、そこの病院では内視鏡がないため、吐きださせる処置で紐が出てこなかった場合、また別の病院に移動することになるから、最初から設備の整っている病院に行くほうがいいと言って紹介してくださった。

紹介された病院に電話をかけると、すぐに連れてくるようにと言われた。

キャリーケースで不安そうに泣いているねこをなだめながら、慌てて病院へむかった。
病院はかなり混んでいた。1階はワンちゃん、2階がねこちゃん専用の診察室を設けている病院だったのだが、1時間ほど待ったところで、ワンちゃん用の診察室でよければと順番を優先してくれた。本当にありがたかった。

とても丁寧で、やさしい先生だった。
レントゲンを撮ってから薬で吐かせてみますとのことで、下僕はいったん診察室の外へ。
奥の部屋から、一度だけうちのこの泣き声が聞こえて、下僕も半泣きだった。

しばらくして診察室に呼ばれると、キャリーケースから「にゃああああ」と助けを求める声。
そして、手に洗面器のような容器を持った先生。

「ちゃんと出てきましたよ!」

50センチほどの紐が、まるまる出てきた。それと紐の先についていたチョウチョの残骸も少し。

こんなに長い紐が腸に達していたら、開腹手術になっていたらしい。
まだ胃にある段階で処置できたからよかった、と言われた。

私の仕事部屋はリビングの隣で、ドア一枚でつながっている。
ふだんはリビングに人がいないので、そのドアも開けっぱなしにしてねこが移動できるようにしている。
それなのに、まったく気がつかなかった。
あんなに長い紐、簡単に飲み込めたとは思えない。喉に引っかかって、苦しかったはず。
「助けて」って泣いてたかもしれないのに、イヤホンをしていたから気づかなかった。
そのせいで怖い思いをさせて、苦しませてしまった。
薬で吐くなんて、苦しいし気持ち悪かっただろうと思う。

その日の夜は、珍しくずっと膝の上で眠っていた。
不安だったのかもしれない。

今回は運がよかっただけ。
開腹手術にはならなかったけど、ねこが苦しい思いをした事実は変わらない。
ごめんね、何度謝っても足りないよ。

ねこを飼っているみなさん、きっと言われるまでもなく気をつけていると思いますが、私もおもちゃばこに入れているから大丈夫と思っていました。でもふた付きのおもちゃばこではなく、よくある上があいているボックスだったので、紐を咥えたか爪に引っかけたかして、ねこじゃらしを取り出したのだと思う。病院からの帰り道に、ふた付きのボックスをポチりました。
「おまえが言うな」という声が聞こえますが、みなさんもお気を付けくださいね。

ここからは治療後の余談なのだが、ぜひ聞いてほしい。
うちのねこは児童書のキャラクターから名前をもらったのだが、びっくりするほど知名度が低い。
個人的には『ハリー・ポッター』シリーズと並ぶくらい有名だと思っていたし、負けないくらい名作だと思っているのだが。
で、このキャラクターの名前が変わっていて、しかもフルネームでつけている(「ハリー」だけじゃなく「ハリー・ポッター」みたいに)。
だから、だいたいどこの病院でも名前を言うと受付の人が「????」って顔をする。
でも、この日は治療後に診察室を出るときに先生が「もしかして○○○のキャラクターですか?」と聞いてきたのだ!
はじめて伝わった!! はじめてわかってもらえた!!!とうれしくなった下僕は、大興奮で答えた。たぶん、めっちゃ早口でいろいろ言ったと思う。半笑いで。
あんなにやさしかった先生が、一気にぎゅんと距離をとったのがわかった。引きつった笑顔で「ああ、じゃあ……お大事に……」と言われてしまった。つらい。

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