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『君たちはどう生きるか』という名の人類讃歌

宮崎駿監督のジブリ最新作。
この言葉だけでどこまでの期待と想像が膨らむだろう。

前情報は、映画タイトルと、どこか奇妙な鳥が大きく描かれたポスターの画像のみ。

このタイトルと同一の名前を持つ本を、高校入学の直前期に読んだことがある。
コペル君と呼ばれる少年を中心として話が展開しつつも哲学的で難解な本だったような印象があるが、そこまで記憶は鮮明ではない。

この本との関連性はあるのだろうか、そうだとしたら今回の映画はファンタジー色が薄めの教訓めいたストーリーだったりするのかしら。
そういった疑問も抱えながらも、それよりも大きな期待感とともに劇場へと足を運んだ。

感想の結論から言おう。

この映画は宮崎駿なりの「人類讃歌」であり、どこまでもフィクションの力を信じている人間の所業であった。

正直なことを言えば、この映画のことを理解できたかというとわからない。
人にあらすじを聞かれてもかなり悩むだろうし、とっ散らかったことを話してしまうだろうと思う。

ただなんとなく、宮崎駿は今の世界と人類を心から愛し、そして彼自身の想像の翼を力の限りはためかせた結果生まれた作品がこの映画なのだろうと、そう感じた。

物語は、戦時期に少年が母を大火で亡くすところから始まる。
宮崎駿の少年時代は、母親が病気を患い自宅に不在がちだったと聞いたことがある。
おそらくは宮崎駿自身の自伝的な意味合いも込めて、この映画では母親の不在とそれへの愛慕が強く強く表現されていた。

時代背景は戦時中であるものの、例えば同じジブリ作品の一つである『風立ちぬ』とは一線を画しているのもこの作品の特徴であろう。 

ストーリー半ばでは、眞人(マヒト)という名の少年は完全に異世界へと入り込み、義母を探し出す旅路を進んでいく。
おぞましげな鳥たちや、愛くるしいワラワラ、そしてなんといってもアオサギの存在が、この映画に豊かな彩りと魅力を与えている。

そして物語の終盤。
「大叔父」といわれる世界の主は、眞人にこんなことを懇願する。

「私を継いでくれ」
「新たな世界を創り出してくれ」

だがこれに眞人は同意しない。

大叔父は、かすかな絶望と諦念を滲ませながらもすべてを受け入れる。
「争い合い、破滅へと向かう世界に、それでも戻るというのか」と。

ここにこそ、宮崎駿の深い想いが込められているのだと私は感じた。
戦争がある世界に戻り、自身の人生に向き合って歩んでいくことを選んだ眞人。
それは、あの戦争と地続きの時代の流れを今まで突き進んできた我々を、いろんな感情を含めて抱きかかえ、肯定し、慈しんでいるからこそ生まれた人間の姿ではないだろうか。

『君たちはどう生きるか』。
それは、フィクションに魅せられた宮崎駿という一人の人間が、戦時下の記憶と母親への愛情をエッセンスにして作り上げた、大いなる人類讃歌の物語であった。

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