記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

広島で「オッペンハイマー」を観た

この記事は、映画「オッペンハイマー」の内容に触れており、一部ネタバレを含みます。


先日、映画「オッペンハイマー」を観に行った。
オッペンハイマーは2023年に公開されたアメリカ映画だが、公開当時は日本公開が未定だった。
私はこの映画のことを、イギリス在住のころのすけさんの記事で知った。

ころのすけさんの記事を読んで、もしオッペンハイマーが日本で公開されたなら観てみたいと思った。
いち日本人として、そしていち広島市民として、見ておかなければならないと強く感じたのだ。

その後、オッペンハイマーの日本公開が決定した。
3月12日には日本初の一般向け試写会が、被爆地の広島と長崎でおこなわれた。
試写会に参加した人の感想はさまざまな意見があったらしい。
なかでも、元広島市長の平岡敬さんの「核兵器の恐ろしさが十分に描かれていないと思った」という意見は新聞で取り上げられ、原爆の描写については賛否両論あった書かれていた。

この平岡元市長の意見や映画の詳細については、下記のWeb記事でとても丁寧に書かれてある。
参考:広島の試写会に参加した映画監督・作家の森達也さんの記事。

前置きが長くなってしまったけれど、映画で核兵器の恐ろしさが十分に描かれているかについてや、いち広島市民として映画を観た私の感想を書いていきたいと思う。

まず、映画の作中で「核兵器の恐ろしさが十分に描かれていたか」について。
「核兵器の恐ろしさ」が「核兵器というものはこんなにも大きな力を持っていて、人類にとって脅威となる存在です」という意味ならば、十分に描かれていたと思う。
作中に登場した爆発の描写や、作中後半でのオッペンハイマーの動揺や良心の呵責などで巧みに描かれていた。

ただ、平岡元市長が言いたかったのは「広島や長崎の惨状を映像として取り上げて描いてほしかった」ということだと思う。
私は試写会の現場にはいなかったため、新聞やメディアを見ての憶測には過ぎないのだけれど。

少なくとも私は、広島や長崎の惨状を描いてほしかったと感じた。
なぜなら、映像のインパクトは強いから。
作中では、原爆による被害状況の描写はオッペンハイマーが原爆投下後の現地状況報告を受けた際の会話によるものだけだった。

そんなことを思っていたけれど、先ほど紹介した森達也さんの記事を読んで、あえて直接的に描かなかった理由も一理あるなと思った。
原爆投下後の惨状をあえて直接描かなかったことで、直視できないほどの悲惨さと、オッペンハイマーの弱さを描いたのだと。
どちらの意見も共感できるし、映画を観た人それぞれが何らかの形で感想を抱いたのであれば、「問題提起」という意味でこの描写でよかったというのが最終的な私の意見だ。

印象深いシーンは他にもある。
マンハッタン計画の最終実験である、トリニティ実験後の描写だ。
トリニティ実験は成功し、大爆発の後にマンハッタン計画の関係者一同が歓喜するシーンを見て、頭を強く殴られたような気がした。
私は彼らが生み出した原爆によって起こった結末を知っている。
その結末がどんなに悲惨で、おびただしい数の人が命を落としたか知っている。
命を落としたり被害にあったりした人の中には、私の友人・知人の親戚もいる。
歴史上の同じ出来事でも、立場が違えばこうも感じ方が違うのかとショックで呆然としてしまった。
互いの正義を主張しあう、戦争の本質を見たような気がした。

オッペンハイマーを観てよかったか?ときかれたら、間違いなく「よかった」と私は答える。
一番の収穫は、多面的に歴史を知るという経験ができたことだ。
被爆地の広島から見た原爆と当時のアメリカから見た原爆。
共感できないことも、理解できないこともあるけれど、どちらかの視点だけでは見えてこないこともあるのだと思った。

オッペンハイマーを観た日、私は平和記念公園に立ち寄った。
ここ1年くらい、平和記念公園は平日でも人だかりができるほどの多くの観光客が来園している。
ちょうどその日は海外からの団体観光客がほとんどだった。
そのグループのひとつに、参加者のほとんどがおそらく60歳以上だろうという団体ツアーのグループがあった。
欧米系の国から来た様子で、杖をついている人も数人いた。
みな真剣な表情で原爆ドームを見上げ、ツアーコーディネーターの話を聞いていた。

杖をつくほどの高齢で、遠い日本までやって来るのはどんなに大変だっただろう。
そのグループの年代から察すると日本は敵国だと教えられた人も、もしかしたらいたのかもしれない。
どれも私の勝手な想像だけれども、もしそうだとしたら、そういった方々が平和記念公園を訪れたいと思ってくれたことをうれしく思う。
私がオッペンハイマーを観たいと思ったように、その方々もまた、多面的に歴史を知りたいと思ってくれたのだから。

平和記念公園の石碑「ノーモア・ヒロシマ」と原爆ドーム



この記事が参加している募集

#最近の学び

182,021件

#映画感想文

68,192件

いただいたサポートは文章力向上のためのテキストや資料などの書籍費として使わせていただきます。楽しめる記事を書くことで皆さまに還元できたらいいなと考えています!