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新しめのスポットたちとNYの現在地 | 10年後のニューヨーク #03

様々な国に足を運んでいると、世界が急速に成長・拡大している様子を肌感で感じる時がある。

たとえば、最近別件の乗り換えで立ち寄ったカタールのドーハ・ハマド国際空港。

最後にカタールに来たのはたしか10年以上前、奇しくも1回目のニューヨーク旅を共にした友人と、別日にトルコに出かけた時のことである。

その時はお値打ちな航空券を購入し、カタールで乗り換えのために10時間ほど暇を持て余すフライトスケジュールだった。

周辺にアジア人がおらず物珍しかったためか、UAEから修学旅行で来たという人懐っこい男子高校生たちに話しかけられたのを覚えている。

僕の父と彼の父は石油関係の会社をやっていてビジネスパートナーなんですよ、などと身の上話を聞いた後で、あちらのラウンジにお茶とかお菓子たくさんありますよ!あなたたちは行かないの?と言って学生たちは引率の先生と共にラウンジに消えていった。
(お菓子持って来てあげましょうか?とも言われたけれど、丁重にお断りした。)

この時我々が暇を持て余していたのが、旧ドーハ空港である。

トランジットだったとはいえお店はほとんど無いに等しく、甘そうな糖蜜菓子やラクダの人形の隣で型落ちのNikonがいくつかだけ展示されている、そんな空港だった。

そして現在のドーハ・ハマド国際空港。

現代的な建築が目を惹く巨大な空港はインテリアまでもが美しく、国際的なハイブランドが立ち並び、ガラス張りの天井の下で現代アートが世界中の人々を迎えている。

10年前からカタール航空は良いとは言われていたが、それが今や世界一の航空会社となり、次から次へと建設される高層ビルなど街の発展も目覚ましい。ついでにW杯まで招致していた。

乗り換えで来ただけでもこの10年での成長や国力を感じるし、すでに安定してしまった国(または成長していない国とも言う)の一員としては、こういった他国のエネルギーには目を見張るばかりだ。

そして中東とは違った立ち位置であるものの、すでに先進国随一の大都市でありながら、ニューヨークもまた独特のエネルギーや活気に満ち溢れた街だと思う。

世界中から人が集まるタイムズスクエアやその周辺は熱気すら感じるし、特に今回の滞在では、ニューヨークは今もなお急速に拡大しつつある街なんだなあと実感した。

拡大する街

街にはいろんな成長の仕方がある。

たとえば東京は、近郊を巻き込みながら「ほぼ東京」という名の拠点を着々と増やして横にじわじわ概念的な領地拡大をしているし、地下鉄や地下街が発展して下方向にも街が広がっている。これはこれで独特な構造だ。

ニューヨークはというと、どうやら上へ上へ、縦方向に成長することにしたらしい。

地価を考えれば真っ当だとも思うけれど、細く長く、太陽を求めてにょきにょき伸びてきてしまった植物のようなビルはちょっと不思議な光景だ。

そして比較的最近のこと、この摩天楼群に新しい展望スポットが2つも加わった。

まず1つめが、2021年10月にオープンした《SUMMIT One Vanderbilt》。

グランドセントラル駅に程近いこの展望台には鏡張りの部屋があり、まるで万華鏡の中にいるような体験ができる。

眺望だけでなくアートや建築も楽しめる設計となっていて、どちらかというとアトラクション性の強い、フォトジェニックな展望台だ。

個人的には写真映えする部屋よりも、外付けの全面ガラス張りエレベーターで40mほど上る体験が震えるほど怖くて気に入ったのだった。

ちなみにビルの高さは427m、エレベーターに乗るテラスは335mに位置している。

(左)草間彌生のアート作品
(右)テラスではカクテルなどを楽しめる

もう一つが、2020年3月にオープンした《Edge》。

ハドソンヤーズの100階に位置しており、三角形に突き出す屋外テラスからはニューヨークのビル群を見下ろすことができる。

ガラスの壁があるが透明すぎて守られている感はなく、ちょっと不安になるほど。そして床の一部はガラス張りで、その上を歩くこともできる。

こちらはシンプルな展望台だが、屋外ではニューヨークで1番の高さを誇る。高さは345m。

まるで数メートルでも他より高く、と競い合って作られたかのような2つの展望台。

この先も私たちは1番を求めてどこまでも高い建造物を作ってしまうのだろうな、と思わせる。

変わったものと変わらないもの

さて、Edgeから降りてくると奇妙なものに出会った。

2019年にオープンしていた《Vessel》である。まるでCGで作った竣工予定図のようにも見えるけれど、iPhoneで撮った写真だ。

蜂の巣といわれているが、松ぼっくりにも何かのさなぎにも見えるし、未来的にも有機的にも見えるデザイン。隣のキルティングのような謎の建物も相まって、近未来都市感が出ている。

不思議な建築だらけとなったハドソンヤーズを通り過ぎると、川沿いに高架線の遊歩道が始まる。

振り返るとEdgeが見える

緑が気持ち良いこの高架線は、前回来たときにも開発が進んでいたハイライン。

今はEdgeからチェルシーマーケット方面まで繋がっており、のんびり散策を楽しみながら移動することができる。

チェルシー地区に近づくと、赤レンガ作りの建物が増えてきてちょっと懐かしい気持ちになる。

このあたりには倉庫を改装したアートギャラリーが多く、10年前学生だった我々はせっせと歩いて小さなギャラリーをたくさん巡ったのだった。

10年前と変わらない景色

そしてそのままハイラインを歩いて行くと、2021年にオープンした新名所の《Little Island》にたどり着いた。

こちらは不思議な形をしている水上公園で、中に入ると緑に囲まれてなかなか気持ちが良い。

VesselといいLittle Islandといい、増殖するセルを思わせる建造物はメタボリズムのアイディアを思い出させる。

太陽とありのままの自然を愛する国に住む者としては、メタボリズムのカプセルやユニットは無機質にも思え、果たして人間らしい生活とは?などと思ってしまうのだけれど、このセルは自然と溶け込んでうまく新しい都市の形を生み出しているように思えた。

建築やメタボリズムの話は、また機会があれば。

失われ、再生するもの

最後に、初めて訪れるグラウンド・ゼロへ。私たちが痛みとともに失った大切なものの記憶だ。

ぽっかりと穴が空いたビルの跡地は、それ自体が巨大な慰霊碑となっている。

この中に知っている名前はないはずなのに、あの日の突然すぎる出来事、この場所で誰かが感じたであろう混乱や恐怖、続くはずだった誰かの毎日に思いを馳せると胸がいっぱいになって、涙を堪えるので必死になってしまった。

そしてグラウンド・ゼロの後ろで翼を広げるように佇むのはワールドトレードセンター駅、別名をオキュラスという。

真っ白な羽に包まれるようなデザインはまるで平和を象徴する鳥のようで、光が差し込む内部は祈りを捧げる教会のようだ。

増殖し、欠損し、そしてまた再生する。

街は生き物のように形を変え、欠損の痛みを感じながらもまた新たにセルを生み出して再生していく。

その源にはニューヨークという街が持つ熱気やエネルギーがあり、それを支えているのはずっと前から変わらない、この街の人々の営みだ。

10年ぶりに訪れてみて、変わったものもあったし、変わらないものもあった。またすぐに来る予定はないので、それこそ次回は10年後になるのかもしれない。

その時のニューヨークはどんな街になっているのだろうか。世界は、そして自分は。旧カタール空港で話したあの少年たちは、立派な大人になっているだろうか。

そんな風に思い出と現在地、そして10年後の未来に思いを馳せながら、今回もJFK空港を後にしたのだった。

追記 

前回の記事をたくさんの方に読んでいただけたようで嬉しいです、ありがとうございます!

きっとnoteのいくつかのまとめに掲載していただいたおかげだろうと、嬉しく思っています。

最近はニューヨーク編を執筆しながら初めてのペルーへ足を運んでいました。

この秘境旅でアンデスの文化や人々の暮らしなどが心に刺さってしまい早く書きたくてうずうずしているのですが、順番を待っている他の国々の話もあり、またひとつひとつ大事に書いていければと思っています。引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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