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【和綴じ製本】写真展の作品を綴じて写真集を作る

こんにちは、UMA(ゆま)です。note投稿8回目になりました。まだまだサクサクとはいきませんが、今回もよろしくお願いします!


今日は、写真展で展示した作品をそのまま綴じて本にしたというお話をさせてください。

その写真展は、3月に新宿のお寺、経王寺で行った「記憶の方舟」です。2019年から2020年にかけて福島県大熊町で撮影した写真を展示しました。大熊町は福島第一原子力発電所の所在地で、被災地の中でも住民の帰還が最も困難な町の一つです。

私は震災以来、福島の写真を撮っていて、このシリーズが4作目になります。

展示そのものに興味を持ってくださった方はこちらをご覧いただくとして……

今日は写真展が終わってから作った写真集のことを書きます。

私は製本も長くやっていて、自分で手製の写真集を作っています。大きさや形から紙、表紙の素材までこだわって、自分の「好き」を詰め込めるのは、手作りならではの喜び。時には表紙の素材を一冊ずつ変えたりすることもあります。

展示に合わせて作ることが多く、作った写真集は会場で販売するほか、SNSを通してお申し込みいただいています。和紙や和柄の生地を使い、和綴じの手法で綴じた写真集は海外の方にも好評です。一冊一冊作った本は自分の子どものようなもの。長い旅をした本たちが、外国の知らない街に降り立ち、手に取られていると思うとわくわくします(今までで一番「おお!」と思ったのはプエルトリコでした。思わず地図を開きました)。

これまで作った本はまたいずれご紹介したいのですが、今回は、3月の写真展で展示した作品をそのまま綴じた写真集(↓)をご紹介します。

サイズは約460 mm x 340 mm x 30 mm。私が作った中では一番大きいです

私はもともと紙、それも和紙が大好きで、3月の写真展ではその「和紙愛」が高じて、ほぼ和紙だけを使って展示をしました。まずプリントは、福島県二本松市で漉かれている「上川崎和紙」に乳剤(今はもうないフジのエマルジョン……わかってくださる方いるかなー?)を塗って自分の暗室で現像しています。

大熊町にて。保育園の園庭にあった遊具

この紙を使うようになったのは、震災後の福島の写真を普通の印画紙にプリントすると、なんだかやたら「つるん」というか、表面的な感じになってしまって、私が現地で感じた「土地にこもっているもの」が表現できなかったからでした。

そこで、土地の土、水、木--言ってみれば土地の力の結晶である、同じ福島の和紙を使うことを思いつき、やってみるとそれが想像以上にしっくりきて、3つ目のシリーズからこの手法にしています。

上川崎和紙は強靭なところが魅力で、平安時代から「みちのく紙」として宮廷文学の書き手に愛用されていたとか。数時間の水洗にも耐えるところが頼もしい。

3枚重ねの和紙を使用。普通の印画紙より定着も水洗も長めにしっかり。それにしても、写真は水の中で泳いでいる時が一番美しいと思う。自家現像の至福のひととき

それを今回の展示では、自分で手漉きした和紙(紙漉きも修行中なのです)をマットのようにして重ねました。ちなみに吊るした紐も紙糸(しいと)という、和紙で作ったものです(ちなみにこれは買いました)。

「記憶の方舟」@経王寺展示風景
展示資材はほぼ和紙のみ。和紙以外に使ったのは糸の端を引っ掛ける押しピンくらい

そして、その上川崎和紙プリントと手漉き和紙マットをそのまま「四つ目綴じ」したのが今回の写真集。写真集というよりはオリジナルプリントコレクションブックという感じでしょうか。

写真がわずかに透けて見えるほど薄い和紙にキャプション(日英)を印刷して、各写真の前にはさんでいます

表紙は濁りのない黒が美しい会津木綿です。会津木綿も福島つながりで使い始めました。福島県西部の伝統織物である会津木綿は厚みがあり、丈夫で、かつては野良着にも使われていました。

無地と縞柄があります。どちらも深い色合いが美しく、縞模様の色合わせなんてため息もの(織物好きの方にはぜひ見ていただきたい!)昔からの織物工場が減って、一時は存続の危機もあったようですが、数年前から若い人たちが工場を引き継いで頑張っているようです。

表紙は黒の会津木綿、糸は製本用の絹糸

和本を包むケースは「帙(ちつ)」といいます。3面あって、中央に本を載せて、左右からパタンパタンと包みます。芯は2mm厚さのボール紙。今回、外貼りの布は裂地(きれじ)という掛け軸などに使う織物。裂地は金や銀の糸が入った地味派手なものが多いのですが、今回は写真の雰囲気に合わせてマットなものを選びました。内貼りの紙は、知り合いの方からいただいて、いつか使いたいと思っていた柿渋染の和紙。

柿渋染の和紙。実際はもう少し赤みがかって見えるかも
英語が入っていて横書きなので和本ですが左開きです

留め具は「こはぜ」といいます。これも一つ一つ手作りされているもの。材料は木、竹のほか、牛骨、さらには象牙(!)でできているものもあります。今回は煤竹(すすだけ)という100年以上たった古民家から採取した竹でできたものを使いました。自然に燻された色が味わい深い。

こはぜをつける紐を作るのが結構めんどくさい(笑)

四つ目綴じは糊を使わないので、また展示する時は、糸を解いてばらせばOKです。本のまま展示して、見にきてくださった方に、ご自身で開いて、手ざわりごと味わっていただく「ブック展」も来年くらいに向けて企画中です。

一箇所切ればするする解ける四つ目綴じ

「1点もののオリジナルプリントなのにそんなことしていいの?」と言っていただくこともありますが、このシリーズの写真はガラスの入ったフレームにとじこめるのはちょっと違う気がしています。それになにより、ページをめくりながら、1点ずつ物語を追うというのは、本好き、写真集好きにとってはなによりの愉しみ。その途中でプリントにダメージが生じたとしても、それはそれでいいんじゃないかなと思ったりもしています。


最後まで読んでいただきありがとうございました。少しでも引っかかるところを感じていただければうれしいです。

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