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ガチで婚活していたときに決め手になった一言

私は一時期真剣に婚活していたことがある。
当時は今のように「婚活」という単語が一般的でなく、結婚を焦るなんてみっともない・・・みたいな風潮が幅をきかせていた。
事実、私の周りで「婚活してます」なんて人は一人もいなかった。もしかしたらこっそりとしていた人もいただろうけど。

そんな中、私はちゃんと自覚的に「私は結婚するのだ」と決意して行動することが大切だと理解していた。
信頼できる周りの友人に、「真剣に結婚できる人と出会えるように頑張ってるんだ」と伝え、周りに有望な独身男性のいそうな外資系IT企業勤務の男友達に「独身で彼女ほしい人いたら紹介して。チビ・デブ・ハゲOK。なんなら全部コンプリートでも」と頼み込み、地元の飲み仲間のリーダーの男性に「誰か結婚を考えてるいい人がいたら紹介して」と頼み、勝負下着をリニューアルし、男受けメイクやファッションを研究した。

そうなるに至ったのには訳がある。

ある週末の朝、私は電車に乗っていた。
車両は結構空いていて、私は入ってすぐの席に座り、ぼおっと考え事をしていた。
ふと見ると、私の顔をじっとのぞき込んでいる人がいる。アジア系の若い男性だった。
私の顔になにか?と思い、ふと顔に手をやると私は滂沱の涙を流していた。
真っ昼間の電車の中で、私は人目もはばからず号泣していたのに全く自分ではそれと気づかずにいたのだ。

当時、私は結婚生活をなげうって独りにもどり、しばらくしたところだった。
元夫は新卒で就職した会社の同期で、同期同士のカップルで結婚したトップバッターだったので離婚も当然トップバッターだった。
彼は明るくて誰からも好かれる性格で、同期たちの前でも私への好意を公にしてはばからなかった。結果として、私たちの離婚が明るみに出たときには、私への非難と個人攻撃の集中砲火が浴びせられた。
私は離婚の理由は誰にも告げずに元同期たちとの関係を絶った。

以前だったらこんな晴れたお休みの日には車でお出かけしてたのに・・・
と、無意識のどこかでそんな思いが私の心をよぎっていたのだろう。どうやら私は気づいたら号泣しているほど弱っているらしかった。
その出来事は私に現実を認めさせるよいきっかけになった。

その日から私は行動を開始した。私の持てるあらゆる人間関係と知識と経験値を駆使して、「私を必要としてくれるだれか」を見つけるための全力の努力を注いだ。
その甲斐あってか私はほどなくして一人の男性と出会った。
結論から言うとその男性はだめんずで、私はその男性のほかにもだめんず2号、だめんず3号と連続してだめんずに引っかかり倒した。

人はなぜだめんずに引っかかってしまうか?それは心の目が曇っているからである。
私は幾晩も自分と向き合い、真剣に考えた。
どうして私は自分を幸せにしてくれない人と付き合ってしまうのか。
本当に幸せになりたいと思ってはいないのか。

そして気づいた。私には元夫への罪悪感が心のどこかにあって、自分を大切にしてくれない人に自分をつぎ込むことで何かしらバランスを取ろうとしていたのだ。
元夫をあんな風に深く傷つけてしまった私には「ふつうの幸せ」の資格がないのだと。
もうそういう思い込みは捨てて私は自分を本当に幸せにしてあげよう、と決意した。

タイトルに書いた「決め手になった一言」はそのとき職場の同僚だったUくんからのアドバイスだった。
Uくんは私の5歳ぐらい年下で、同じ部署で同じ業務を担当していた。
その業界のその会社の中では花形と呼ばれる部署ではあったが、実質は社用携帯を持たされてインシデントが起きたら夜中でも職場に1時間以内に駆けつけなければならないようなブラックな環境だった。
そんな中で私たちはいつしか戦友のような関係になった。
彼も彼女はいないようだったが、話を聞く限り彼の好みのタイプは若くてかわいいゆるふわ系の女子で、私が彼のストライクゾーンをかすめもしていないのは明らかだった。それで、仕事のできるUくんなら、こんな私の状況にも的確なアドバイスをくれるに違いないと踏んだのだ。

私真剣に結婚したいんだよね。でもなんでだかうまく行かないの。私が結婚するには一体なにをどう努力したらいいんだと思う?

すると、Uくんはいつになく黙り込んだ。
いつもなら、どんな難易度の高い問題を投げかけても「それは○○が原因だから△△したらいいよ」と迅速に的確なアドバイスをくれるのに、なぜかそのときの彼は脳内の記憶をたどるような言葉を探すような目をして、しばらく口ごもっていた。

う~ん、蝶子はな・・・パッと見悪くないんだよ。むしろまあまあな方だと思う。
でもな~、見た目だけならなんか違うジャンルのそっち系にみえなくもないんだけど、

「しゃべると残念」なんだよな・・・。


あまりのことに私は絶句してしまった。
しゃべると残念!
まさかそこが来るとは夢にも思わなかった。

彼はたたみかけるように続けた。

そうだ、蝶子は黙ってたらいいんだよ!最初から最期までずっと黙ってミステリアスに、にっこりしてたらいいよ。
そしたらなんかそういうジャンルの女だと思ってそういうのが好きなヤツが寄ってくるかもしんないよ。
まあダメもとだと思ってチャレンジしてみてよ。じゃ!

と、彼は仕立てのよいジャケットの裾を翻らせて爽やかに去って行った。
どうやらその夜も彼はどこかで合コンの予定が入っているらしかった。
人当たりがよく、話題も豊富で気配りを忘れないUくんはきっと合コンでは人気だろう。

そして私は、彼に決定打となるであろうヒントをもらえたことに興奮していた。
「とにかく黙ってる」、今の私に必要なものはそれだったのだ。
私はそのとき、そのアドバイスが私の人生を変えるものになるであろうことを確信していた。


それからしばらくして、婚活や出会いの場で徹底的に「とにかく黙る」作戦を敢行した私は、見事ひとりの男性を獲得した。
そして付き合いだしてから2週間ぐらいで結婚を懇願され、私は快諾した。

私が言いたいのは、人生には時に「思いもかけない内容だけど本当に役にたつアドバイス」というものがあるのだということだ。
自分をまっすぐに見つめて、自分が本当にほしいものは何かを見極めた上にそのアドバイスはきっとどこかからやってくる。

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