【禍話リライト】仏壇双子人形
恐怖には様々な形がある。
特に恐怖症は多種多様だ。身近なのは先端恐怖、高所恐怖など、身に覚えがある人も多いだろう。他にはピエロ恐怖や人形恐怖がある。これらは、少しでも理解できる人とそうでない人の差異が激しい。人形愛好家と人形恐怖症の人との隔たりは深く、広い。
もちろん人形は人の形を模して造られた器物だが、普段ない場所に人形があると、不穏さの密度が増してしまう。
【仏壇双子人形】
今年40代に入るAさんには、一人で祖父母の家へ行った記憶があるという。小学校5年の夏休みのことだそうだ。
両親に託されたお供え物を持って、田舎の駅へと着いた。祖父に迎えに来てもらい、二人で父の育った家へと着く。つつがなく例年通り、無事に仏壇へと供えることができた。
ただ、一つだけ不思議なことがあった。大き目の仏壇の隅に、女の子の人形が二体あったことだ。見比べるとそっくりで和のテイストのものだったという。
違和感は感じたが、近く亡くなった子供はいないと思うし、親戚に双子がいたという覚えもない。もちろん、すべての親戚を網羅しているわけではないが、いれば知っているだろうとは思う。
「何だろう」とは思うものの、お参りを済ませた。
例年、祖父母はそろって迎えてくれるのだが、今年は祖母が風邪気味だということで、昼食も食卓で軽くとったのみで、すぐに寝室に引っ込んだ。「せっかく来てくれたのに悪いね」と白い顔で挨拶をするのみだった。
祖父も、Aさんの面倒を見るとともに、祖母の看護もしなければならず例年に増してバタバタしていた。仏壇の人形のことは疑問に思ったが、聞くタイミングを逸していたという。
夕飯を囲みながら昼と同じく、すぐに祖母は寝室に戻った。ようやく落ち着いた時間が来たので、祖父に聞いてみた。
「じぃちゃんさ、仏壇にそっくりな人形が飾ってあったけど、あれ何なの? 今年から急にあるけど、何かの風習なの?」
祖父は、箸を持った手を止めて、真顔でこちらをジッと眺めた。内心、『聞いちゃいけないことだったのかな』と不安になるくらいの長さだったという。体感時間は5分を超えるような沈黙の後、ボソリと述べた。
「いや、あれは微妙に違うんだよ」
すぐに、箸を動かし始める。肩透かしを食らったようだが、先ほどの長い沈黙もあって、それ以上聞けなくなってしまった。
食後に風呂に入り、客間にしつらえられた布団に寝転ぶ。
田舎の夜なので、窓を開けていれば冷房などいらない。今から30年ほど前のこと、大したゲーム機はなかったが、手持無沙汰で携帯用ゲーム機にのめりこんでしまった。
普段なら、口うるさい母が「もう寝なさい」と雷を落とすのだが、自分一人のこと、思わず遅い時間になってしまった。
ふと、壁掛け時計を見ると夜中の12時を回っている。いつも寝る時間をはるかに超えてしまっており、内心少し反省をした。長らく小さな画面を眺めていたせいで、目もショボショボする。
さすがに眠る準備のため、トイレに行くために、田舎家の常夜灯の灯った廊下を進む。
祖父母の寝室を通ると中から話し声が聞こえた。具合の悪い祖母を気遣っての会話なのかなと、そのままトイレへ向かった。
当然だが、帰りも同じ場所を通る。
磨き上げられた木目の浮かぶ廊下の薄暗い中を歩きながら、聞くとはなしに先ほどから続く祖父母と思われる声に耳を傾けた。
すると、祖父の声が聞こえた。
「何が違うのか話してないから、いいじゃろう」
いつもの矍鑠としたもの言いとは違ってひどく弱気な物言いに聞こえる。
それがあまりに不自然で、思わず声の聞こえる障子を開けてしまった。
中は常夜灯がうすぼんやりと点けられているだけで、布団が二つ延べられており、祖父母がそれぞれ寝ているのがいつもの構図だ。
しかし、その時は、布団の上にじいちゃんとじいちゃんが向き合って座っており、一人の祖父が、もう一人の祖父に怒っている様子だったという。
そして、その二人が障子を開けたAさんを同時に見た。
「ごめんなさい!」
大声で謝ると、客間へと慌てて駈け出した。
後ろ手で擦りガラスの障子を閉め、電気を消して布団に横になるものの、変なものを見てしまった興奮と驚きでとてもじゃないが眠ることはできない。何度も見たものが本当なのか自問自答する。
20分、30分とゴロリゴロリと寝返りを打っているうちに気が付いた。
廊下の薄明かりに二人の人影が浮かんでいる。背の高さを鑑みるにどう見ても、祖父が二人廊下に並んでこちらをうかがっているようだ。
そちらを見ないようにして、寝たふりをしていると、そのまま寝入ってしまったようで、気付くと朝だった。
急ぎ帰り支度を整え、恐る恐る朝ごはんの食卓へ向かうとすっかり元気になった祖母が和食を並べていた。祖父の様子を聞くと、「風邪をうつしちゃったようで、寝込んでいる」とのこと。
急いでご飯をかきこむと、「お世話になりました」と帰ろうとした。
「ごめんね、体調不良でお構いもできず」
祖母の声を背中で聞いて玄関に向かうと、途中で仏間の様子が目に入る。仏壇は、お盆のこの時期なのにぴったりと扉が閉められていたという。
「かぁなっきさん、僕が見たじいちゃん二人も、どこか微妙に違ったんですかね」
Aさんは、話の最後にこう締めた。
翌年以降のお盆に家族で帰省した時は、全くおかしな点はなかったという。意味は未だに分からない。
〈了〉
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出典
元祖!禍話 第十二夜(2022年7月16日配信)
25:19〜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/738709258
※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
下記も大いに参考にさせていただいています。
禍話 簡易まとめWiki
https://wikiwiki.jp/magabanasi
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