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【禍話リライト】花子さん譚「ひとりであそぶ」

 怪談は、日常に近い場所にあるほど恐怖が増すように思う。
 アメリカに住む連続殺人鬼よりも、夜な夜な変な音を出す隣人の方が怖い。(両方怖いが)
 そういう意味で、トイレの花子さんは学校の特定のトイレに出るのだから、こっくりさんと同じで日常のすぐ隣に潜む怪異と言えよう。
 これは、そんな恐怖に影響を受けた人の話。

【花子さん譚「ひとりであそぶ」】

 1995、6年頃、Aさんは中部地方小学生のだった。
 放課後に友人がもってきたオカルト系の雑誌に「花子さんはどの学校にもいます」と書いてあり、皆でひとしきり盛り上がった。
 トイレの花子さんとの遊び方を選び損ねると、殺されてしまうと恐ろしいことが書いてある。曰く、「おままごと」なら包丁が降ってくる、「なわとび」なら首を絞められる、一番いいのは「鬼ごっこ」と言って一目散に逃げることなのだ。
 誰言うともなく、「じゃあうちの学校のトイレにも行ってみようぜ」と言い出した。
 旧校舎の3階、雑誌に書いてあった手前から3番目の女子トイレに野郎ども5人で向かう。
 みんなで一人ずつ人気ひとけのないトイレに向かうが、特に何ともない。
「花子さんやっぱりいないな」
「時間が良くないんじゃない」
「3時33分とか聞いたことがある」
 皆が口々に好き勝手言う。
 最後に、ガキ大将のBが一人でトイレに向かった。表情からあまり乗り気ではないようだ。しばらくして首をかしげながら帰ってきた。
「おまえら、女子に頼んだ?」
「何を?」
「俺を驚かすための仕込みというか、ドッキリというか」
「してないよ、何か声がしたの?」
 聞くと、Bが向かうと、トイレの扉が閉まっていたのだという。旧校舎ではあるものの、使う人が全くいないというわけではない。
 誰か使っているのなら気まずい。
 見上げると、女子トイレの電気は付いていない。
 夕刻とはいえ、校舎内はかなり暗くなってくる時間だ。
 どうしようか迷ったが、その扉の前まで行ってノックしようとしたら、中から声がした。
「ひとりであそぶ」
 感情や抑揚のない声だったのだという。
「何それ?」
「驚かすのなら、もっとやりようがあるんじゃない」
 誰も事情を呑み込めないまま、確かめることもなくうやむやになってしまった。
 家に帰ってから、家族や兄弟に説明すると「それ怖くない」「B君大丈夫なの」などじわじわと怖くなってきた。

 皆、Bのことが心配になったが、翌日もケロッとした顔で登校してきた。
 ただ、皆と遊ばなくなってしまったのだという。
 校庭でドッジボールやサッカーなどに興じていても、姿が見えない。
 今までなら、率先して遊びに加わるタイプなのに、昼休みも、放課後も一緒にいない。
「あいつが一人で遊ぶなんて……」
 Aさんがそのことを家族に言うと、「大丈夫? 何してるか確認した方がいいんじゃない?」と問われた。
 加えて、「昼休みでも放課後でもいいから、見てきなよ」とも言われた。直接指摘されると、そうだなと思う。
 昼休みは、皆で遊びたかったので、放課後にBを尾行した。
 Bは、まっすぐに家に帰る。いつもなら商店街の駄菓子屋や公園を冷やかすのに、わき目も振らずに歩いていく。後ろからついてくるA君たちのことにも全く気が付かないようだ。
 皆でこそこそと「勉強始めたんじゃない?」「どうしたんだろう」と言い合う。
 結局、Bの家に着いてしまった。
 そのままBは一軒家の裏へ向かった。しばらくすると、奥から変な音が聞こえてきた。何かが壁に当たっている音だ。
 回ってこっそり見ると、裏庭で、Bが何かを壁に投げつけている。よく見ると、人形の首のようだ。駄菓子屋やおもちゃ屋で安くで買えるビニール製のもの。
 躊躇なく首をもぐ。そして、振りかぶって思いっきり壁にぶつけている。
 何が面白いのか分からない。
 結構近くで、友人がのぞいているのに、そのことにも気が付かないくらい熱中している。
 様子を眺めると、壁の下にいくつもの首がゴロゴロと転がっている。中にはうまく千切れずに、他の部位がひっ付いてきているものもある。
 壁に的が書いてあるわけではない。しかし、投げるたびに、「ん~8点かな」「これは……5点かな」などと言っている。
 気持ち悪くなって、その場は皆で静かに去った。

 半年ほどしたら、Bは何事もなかったかのように普通に皆の輪に戻ってきた。
 きっかけは分からない。
 満点が取れたのだろうか。
                    〈了〉

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出典

禍話アンリミテッド 第二〇夜(2023年6月1日配信)

7:10〜

※しかし、は、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

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