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【禍話リライト】レシートビル

 時におかしなものを手に入れても、そのまま捨ててしまわないほうがいいかもしれない。適切な対応を求められることもある。
 それが日常で使う傘にまつわる話なら、もはや他人事とは言えない。この話が参考になれば。

【レシートビル】

 20代のAさんが数年前、仕事から自宅へ帰ってきた時に、電気代の引き落としがうまく行っていないことに気が付いた。ポストに請求が来ていたのだ。
 折悪しく、ぽつぽつと雨が降り始めてきた時だったので、振込用紙が濡れないように、玄関にあった少しいい傘を持って出た。近くにコンビニがあるのだ。
 小雨の中、入口の傘立てに突っ込んで、コンビニで無事に払い込みを済ませた。ぼんやりと店内を見渡すと、久しぶりに訪れたこともあって新商品のパンや雑誌の最新号などを手に取っている間に、長居してしまった。
 コンビニを出るとすっかり雨がやんでいたので、そのまま自宅へ帰り、しばらく経ってから傘を忘れてきたことに気が付いた。ビニール傘のように安物ではなく、惜しいので取りに戻った。
 果たして、そのまま傘立てに残っていた。雨がやんでいたのも幸運だった。「この地区の治安も捨てたものじゃないな」などとつぶやきながら家へ帰った。もちろん、傘は使わなかった。

 1週間ほどした雨の日に傘を開くと、中から紙片が落ちてきた。手に取ると領収書だった。それもコンビニの領収書ではなく、宛名も聞いたことがない会社名だった。
「何で入ってるんだろう。何かの間違いで入るもんかな」
 〇〇事務所という会社名が少し特徴的だったので、スマホで調べると、歩いて行ける範囲の距離にあった。番地でいうと隣町だ。そのまま捨てても良かったが、散歩がてら届けることにした。
 行くと、会社が入っているビルはあったが、今は使われている痕跡がなかった。つまり廃ビルだ。
 ネットの情報が少し古かったのか。
 4階建てのテナントはすべて営業していないようだった。入口の入居パネルを見ると、3階に目当ての会社が入っていたことは確認できた。
「ここなんだ。まだあるのかなぁ」
 目の前にエレベーターはあるが、動くかどうか怪しい。何より、途中で閉じ込められでもしたらややこしい。なので、階段で上がっていった。
 2階まで上がって、3階に目を向けると、階段の踊り場に段ボールの箱が置いてあった。あちこちガムテープで張り合わされており、箱の上には、貯金箱のように中に入れるための入り口の切れ込みがざっくりと入れられていた。
 よく見ると、細いボールペンでこう書かれていた。
『まるまるじむしょ』
 気持ち悪いとは思ったが、手に持っていた領収書をそこに入れて帰ったのだという。

 この後、今日まで特に変わったことはない。
 Aさんは、
「たぶん正解ルートを選んだんですよ」
と笑った。面倒くさがったり、怖がったりして行きつかなければ何か起こったのだろうか。
 今はもうそのビルはない。
 だから、『〇〇事務所』(もちろん仮名だが)の領収書が入っていたらどうしたらいいのだろうか。
                          〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第三十八夜(2024年4月6日配信)
12:12〜

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
ボランティア運営で無料の「禍話wiki」も大いに参考にさせていただいていま……

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