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【禍話リライト】枕元の眼鏡/甘味さん譚「ほら、ぴったり」

 眼鏡に関する怪談は珍しい方ではないかと思う。
 器具としては、700年以上にわたって使われており、顔の一部として認識されているのに(あるいはしているからこそか)、数は少ないのではないだろうか。
 今回の禍話では眼鏡にまつわる短い話が二つあったので、それぞれを。

【枕元の眼鏡】

 現在40代前半のAさんが佐賀へ出張へ出かけたときの話。Aさんは妻子がいるようなごく普通のサラリーマンだ。
 その晩、取引先から予想外の熱烈な歓待を受け、2次会まで高い酒を並べられ、深酒をしてしまった。投宿していた安ビジネスホテルに戻って、泥酔の中ベッドにもぐりこんだという。自分でも良く戻れたなと感心するほど酔っぱらっていた。
 朝の9時くらいに目覚ましが鳴った。結構しつこく鳴っているので、アルコールがまだまだ残る頭のまま止めて、机の上のケースから眼鏡を出して掛けた。
 そこで大きな違和感を感じた。
『全部違う』
 まず、目覚ましはホテル備え付けのものではなく、百均に売っているような簡素なものだが、そんなものを持ち込んだ覚えはない。次に、眼鏡は、寝るときにケースになど入れず枕元に置いておくのがいつもの流儀だったそうだ。つまり、目覚まし時計も、眼鏡ケースも、その中の眼鏡も全く心当たりがない。現に度数も全く合っておらず、見えにくいことこの上ない。
 Aさんはかなりの近眼だったので、掛けた眼鏡は度数が低く、あまり目の悪くない人用ではないかと思ったそうだ。手の取ったケースの色もピンクで、中年男性が好んで使うものとはいいがたい。
 今かけている眼鏡をケースに戻し、枕元の自分のものにかけ替える。
 回らない頭で最初に考えたのは、『誰か別の部屋に入ってしまったのではないか』ということだった。(冷静に考えればそんなことはないが)
 だから、確認しようと思って廊下に出て、部屋番号を確認しようとした。もちろん、オートロックで締め出されないように、扉が閉まらないように手で押さえてだ。もちろん、鍵を持って出ていればそんな心配はないのだが、そこまで考えがいたらないのは、アルコールがずいぶんと残った頭だからだ。
 確認すると、間違いなく自分が投宿した部屋だった。
 首をかしげて、再度扉を開けると、入ってすぐにあるユニットバスの扉が開いて、全く見知らぬ人が出てきた。こちらを一瞥もせずにそのままベッドの方へと歩いて行って視界から消えた。
「あっ!」
 驚いて、手を放してしまい、扉が閉まった。もちろん自動で鍵がかかる。
 そのまま、フロントへ向かって締め出されてしまったと説明し、扉を開けてもらったという。ホテルの人と部屋に戻った時には、目覚ましもケースももちろん人も残っていなかった。
 ただ、そうやって真剣に部屋を見渡すAさんの姿を、扉を開けてくれたホテルマンは「あ~あ」という表情で眺めて、出て行ったという。
 声をかけて事情を知るだろう従業員から詳細を聞きたかったものの、彼が出て行ってしまったら部屋に一人になってしまうので、急いで荷造りをしてホテルを出たという。次にユニットバスから次に知らない人が出てきたら、正気ではいられないからだったという。

【甘味さん譚「ほら、ぴったり」】

 廃墟に宿泊をして甘いものを食べることが好きな甘味さんという禍話のレギュラーの女性がいる。
 その甘味さんが、元々学校だった廃墟に知り合い数人と訪ねた。
 知り合いの男性Bさんが数人の友人を連れてきていた。その中の一人、Cさんは眼鏡だけが印象に残るようなとらえどころのない人だった。
 廃墟に入って、分かれて中を見るうちに日が傾いて夕刻に差し掛かってきた。特に特徴のあるような建物ではなかったという。
 もちろん、多人数で来ているので、甘味さんはその晩泊る予定はない。
 廃墟の中は、あちこちからゴミが持ち込まれていて、雑然としていた。
「暗くなってきたから帰ろうか」
 Bさんが皆に声をかけて、皆で合流して、入口へと向かう。
 すると、Cさんが「あ! あ~!」と声を上げて、すぐそばにあった教室に駆け込んでいった。
「何を思い出したんだ、アイツ、この部屋来てないだろ」
 Bさんとともに、Cさんの後を追う。
 教室の中は、日がずいぶんと落ちてきたこともあって相当薄暗い。そんな中で、ごみの山に向かってごそごそとCさんが手を動かしている。
「明かりあった方がいいんじゃないですか?」
 甘味さんが、手持ちのライトを照らす。
「何かあったのか?」
 丸い明りの中に浮かぶCさんへBさんが声をかけた。すると、
「これこれこれ!」
 嬉しそうに、Cさんがごみの山から眼鏡ケースを取り出した。かなりボロボロで、蓋も取れてしまっている。そこへ、自分が掛けていた眼鏡を収めてこう言った。
「ほら、ぴったり。ね~」
 それを手に、さらに奥へ向かおうとするCさんをBさんをはじめ皆で押しとどめた。そのまま、乗って来た車へ連れて行く。山間の廃墟周辺はほとんど夕日も届かず、山の端に夕日が残るばかりとなっていたが、中へ押し込んでそのまま皆で帰途へ着いた。
 Cさんは、廃墟の近くでは「戻りたい」などとかなり名残惜しそうにしていたが、山岳地帯を出て遠ざかり町に入るにつれてそうした行動はなくなったという。

 何日かして、甘味さんがBさんに会う機会があった。
「先日はありがとうございました。あの、ほらえーっと、眼鏡の……」
「ああ、Cね」
「そうそう、Cさん。あの後どうなりました?」
 甘味さんは、先に降ろしてもらっていたので、事の顛末を知らなかったのだという。
「あいつね、まだあの眼鏡ケース持ってるんだよ」
「え?」
「玄関の小棚に、鍵とか置くところあるでしょ? あそこに眼鏡ケース置いてあるんだ。だからあいつの家に行くと気まずくて」
 甘味さんは、『絶対良くない』と思ったものの、それを口には出さなかったという。ケースはブランド物でも何でもなく、そこらの百均で売っているようなものだそうだ。
                         〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第二十八夜(2024年1月27日配信)
3:50〜 枕元の眼鏡
39:15~ 甘味さん譚「ほら、ぴったり」

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
ボランティア運営で無料の「禍話wiki」も大いに参考にさせていただいています。

 ★You Tube等の読み上げについては公式見解に準じます。よろしくお願いいたします。


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