見出し画像

【禍話リライト】甘味さん譚「コロコロと髪」

 確か、二代目引田天功が過去に怖かった経験を話していた中に、ある国からオファーが来て、断って帰ったマンションの自室の玄関に断った国の国旗を持った某夢の国の鼠キャラクターが置いてあった話をされていた。これは、完全に人怖だが、そうでないものもある。
 禍話のレギュラー、甘味さんは、廃墟で甘いものを食べながら一泊することを趣味にする女性なのだそうだ。
 その体験は、背筋が凍る長編も多いが、短い話でもゾッとするものがある。
 今回は、短い話。

【甘味さん譚「コロコロと髪」】

 甘味さんがある廃墟から一人暮らしのマンションに帰ってきた時のこと。
 扉を開けて玄関に入ると、入ってすぐの小さなカーペットの上にコロコロが置いてあった。ロール状の粘着テープでゴミを取る、今や掃除道具の定番となったアレだ。
 甘味さんは、出かけるときに玄関にそんなものを置いていない。
 その証拠に、テープ部分がむき出しだ。基本、コロコロは周りにくっつかないよう容器に入れて掃除用具ばかりしまってある場所に入れてある。
 そのコロコロが、これ見よがしに置いてあるようにしか見えない。
 もちろん、この部屋は甘味さん一人暮らしだ。
 見た目としては、誰かが、それまでコロコロで掃除をしていて、ドアを開けたからあわててそのままどこかへ行ってしまった……、そんな雰囲気だったという。
 忘れていたのかもしれない、と持ち上げた途端、テープに絡みついたものが気持ち悪くて、コロコロの器具ごとごみ箱へ捨ててしまった。
 すぐに捨ててしまったため、じっくりとは見ていないが、コロコロには、赤や青に染めた人毛が付いているように見えた。
 もちろん、この部屋でしか使っていないコロコロに誰のものか分からない人毛が付いていることも気持ちが悪いし、甘味さんは髪を染めていない。そんな髪の毛をした人を招いた覚えもない。
 だが、甘味さんには、その髪に心当たりがあった。

 前日に、甘味さんが泊まった廃墟は、昔旅館だった建物だった。
 夜、昔は豪華だったろう部屋で寝袋を敷く。しつらえられているはずの什器はすべて持ち出され、ガランとした部屋で眠りについた。
 夜半、誰かの声が聞こえるーーような気がして目が覚めた。
 はっきりとした声ではない。ひそひそと仲の良い二人が話すような、それでも明らかに人の声だ。
 内心、『他も見て回ったからなあ、見てないところは……』と考えを巡らせると、今、自分が寝袋を敷いている部屋の押し入れは見ていなかった。
 押し入れを開けると、古びた布団が二組畳んでおいてあった。埃は積もっているものの、枕や掛布団など一式そろっている。その枕の上に派手な色をしたヘアウィッグが置いてあった。年代は、明らかに布団よりも新しいものだ。色は、赤と青。甘味さんは見たときに『汚い虹だな』と思うような色だったという。
 押し入れのふすまを閉めて、寝袋にもぐりこむものの、押し入れから話し声がするような気がする。例えるなら、修学旅行の夜、気の合う二人がこそこそと話し込んでいるような。
 はっきりとした声はしない。
 何となくそういう気がするというだけだ。
 それでも気になるので、ふすまを開けっぱなしにすることにした。
『目の前に知らない人間が寝ていては、ひそひそ話もできまい』との考えだったという。
 そうすると、実際に朝まで、何にも邪魔されることなく寝ることができたという。

 その後、家に帰って玄関を開けると髪の毛が付いたコロコロが置いてあった。そのことが原因だったのではないかーーと思うものの、翌日がごみの日だったのですぐに捨ててしまったという。
「じっくり見てないから、廃墟のものと同じだったか検証はしてないけど」と甘味さんは話を締めた。
                           〈了〉

──────────

出典

禍話アンリミテッド 第六夜(2023年2月18日配信)

23:00〜

禍話アンリミテッド 第六夜(Q同時視聴もあるよ)

※本記事は、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

 ★You Tube等の読み上げについては公式見解に準じます。よろしくお願いいたします。


よろしければサポートのほどお願いいたします。いただいたサポートは怪談の取材費や資料購入費に当てさせていただきます。よろしくお願いいたします。