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【禍話リライト】ホムセンからの電話

 日本では、毎年8万人前後が行方不明になっている。
 男女比は、男性6割、女性4割と男性の方が若干多い。
 もちろん、この中には高齢者の認知症によるものや、家が嫌で飛び出した若者なども含まれている。
 これは、ある人が行方不明になった時の話。

【ホムセンからの電話】

 Aさんの高校は、あまりガラのよろしくないところだった。
 先輩も卒業後に、車やバイクで乗り付けて後輩を誘って遊びに行く、そんなつながりが脈々と残されていた。

 OBにYさんという人がいた。
 時々ラリっていたので、タバコ以外に何か吸ってるんじゃないかと思うものの、それを直接言うような関係ではなかった。
 Aさんは、このY先輩によく遊びにつれて行ってもらっていたという。行くときはお定まりの派手な改造車で家まで迎えに来てくれる。
 ある休みの夕方、Y先輩から「近くのホームセンターにいるから、そこで集合して、遊びに行こう」とメールがあった。
 Aさんの家には、Y先輩と面識のある友人が二人おり「これからどうしようか」などと話していたので、ちょうどよかった。
 ただ、Aさんの家の近所にはコンビニぐらいしかなく、ホームセンターはない。どこの店を指しているのか分からない。
 知らないだけかと思って、友人に「Yさん来るっていってるけど、近所にホームセンターってできたっけ?」と聞くものの、二人とも「近所にはない」と言う。Aさんの知る一番近いところは、歩いて行けなくもないが、一般的にバスで数停留所、電車で一駅くらいの場所にあり、普段のY先輩ならそんな場所での集合はかけない。
 しょうがないので「そのホームセンターってどこですか?」とメールを送ってみた。
 しかし返事がない。
 仕方がないので、電話してみると10コールほどで出た。
「もしもし」電話にでたYさんの後ろで店内BGMが鳴っているのが聞こえた。確かにどこか商業施設にいるようだ。
「今、店ん中だけど」
「すみません、そのホームセンターってどこなんですか?」
「〇〇屋だよ」
 聞いたことがない。高校生なので、それほど詳しいわけではないがどうやらチェーン店ではないようだ。
「ちょっと、わっかんないですけどね」
「いいわ、俺がそっち行くわ、直接家の前に乗り付けるから準備してろ」
 それから、どれだけ経ってもY先輩はこなかった。
 これも珍しいことではない。途中で他のヤバい連中につかまったのかな、程度に思っていた。
 しかし、それっきりYさんは行方不明になってしまった。家族が警察に届けを出したのだ。
 町では、ちょっとした騒ぎになった。

 Y先輩の車は結局、家の近くの公園に勝手に停められており、車内には携帯や財布などが残されていた。最後の着信として残されていた記録を辿り、警察がAさんのところの事情を聴きに来た。
「お電話の時にYさんがどこにいたか分かりますか?」
「本人は〇〇屋というホームセンターだと言っていましたが」
「〇〇屋? この近くにそんな店はありませんね。同じ名前だと飲み屋くらいしか……」
「電話の途中、後ろでBGMが鳴っていました」
「どんなものか思い出せますか。何か聞き覚えのあるフレーズがリピートされていたとか」
 そんなところに注目をしていないから、うろ覚えだが、ずっと違う安っぽいフレーズが続いていたような気がした。詳しく話そうとしたが、うまく伝えられる自信もなく、またそれが決定的な証拠にはならないと諦めた。
 結局、Y先輩は行方不明者として扱われることになった。

 数年たって、今年(2023年)2月。
 就職をしてようやく仕事に慣れてきたので、彼女と同棲を始めたマンションで、夜中に来訪者があった。
 ピンポーン。
ーー玄関の呼び鈴が鳴る。オートロックのマンションではないので、部屋の前まできて、チャイムを鳴らす形だ。
 ベッドで寝ていたAさんは、寝ぼけまなこをこすりながら玄関まで行って扉を開けた。誰の姿もない。
「いねーじゃねーか」
 振り返って時計を見ると、3時を少し回ったところだった。
「えっ、イタズラ!?」
 それにしては、時間もおかしいし、逃げていく足音もしなかった。
 首をひねりながら寝室に戻ると、隣で寝ていた彼女が身を起こしていた。
「何?」
「イタズラかな、誰もいなかったけど。ごめん、起こしちゃったか」
「ねえ、Yさんて誰?」
「えっ!?」
「あんた、今寝ぼけて起き上がって玄関行くときに『しょうがねぇなぁYさんは』って言ってたよ」
 全く心覚えがない。しかし、無意識で言ってしまった可能性はある。というか、指摘されてそんな気もしてきた。何しろ普段、こんな夜中に起こされることなどないのだ。
 もちろん、高校の時の実家から何度か引っ越しているのだが、もしかするとYさんが一度訪ねてきたのかもしれないーーAさんはこの奇妙な出来事を振り返った。

 この話は、ドラッグ関係でY先輩が失踪したのだととらえられなくもない。しかし、今年に入って気味の悪いことが起きたので、怪談に類するものだろう。
 もちろん、Yさんがアパートに訪ねてきてからまだふた月も経っていないのだ。
 この話に、続報がないことを祈る。
                          〈了〉

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出典

禍話アンリミテッド 第12夜(2023年4月1日配信)

11:55〜

※本記事は、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

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