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【禍話リライト】甘味さん譚「肉のメモ」

 何度かリライトさせてもらっているが、禍話レギュラーの甘味さんという女性がいる。
 廃墟で甘い物片手に宿泊をして、幽霊とのエンカウントを楽しむという奇特な趣味をお持ちの方で、背筋が凍る話を多く提供されている。
【禍話リライト】甘味さん譚「コロコロと髪」|竹内宇瑠栖 (note.com)
【禍話リライト】甘味さん譚「椅子の廃墟」|竹内宇瑠栖 (note.com)
 これは、人怖の話。

【甘味さん譚「肉のメモ」】

 甘味さんによると、廃墟で怖いのは、やはり人が居ることだという。彼女が廃墟に入ると、時々違法に住み着いている人が居る。しかし、それはほとんどが男性で女性を見ることはほとんどない。
 まあ、深く考えるまでもなく危険度の問題だ。
 そもそも、法律違反でもあるのだが。

 とある山中にある温泉施設の廃墟の噂が、甘味さんの耳に入った。バブルがはじけたときに、取るものも取り敢えず夜逃げしたようなところだったという。フロントには、当時の宿帳のような顧客情報がそのままずっと残されているようなところだと聞かされた。
 とりあえず、そこへ行ってみようと休日の昼間に下見に赴いた。
 ホテルは、5階建ての立派な建物だったが、壁はボコボコに、扉は持ち去られていた。しかし、部屋の中は意外に荒らされてはいなかった。
 あちこち見回ったが、全然怖くない。もちろん、幽霊が出そうな気配は欠片もない。奥へ奥へ進むものの、先人の探索者が荒らした気配ばかりがある。
 特に日中は、怖さが微塵もない。
『このままだと、夜に来ても怖くないな』、そう思い始めた。
 しかし、一つ気になることがあった。
 入口から点々とメモ用紙のようなものが落ちてるのだ。それも、かなり細かくちぎられていて、書かれている文字は判然としない。それがあちこちの階にばらまかれている。
 しかも紙の状態から時代は、それほど時間が経っていないものと推察された。
 しばらくして、一部文字が読めるものがあったが、「買い物リスト」と読めた。しかし、近くにスーパーなどない。
 もちろん、甘味さんはケガや汚れ防止で手袋をしている。

 中を見回っていると、3階だけちぎり方が甘く、他の階よりもメモが大きい。『読めるな』と思って1枚拾ってみる。
 それはどうやら他と同じく買い物メモで、
「ヒキ肉
 こまぎれ肉
 ひき肉」
ーーと書かれていた。まず、挽肉が重複している。
 少し離れたところに同じような大きさのメモがあったので、それも見てみると、全く同じことが同じ筆致で書かれていた。
 他に落ちているメモも、同じような気がして、手に取ることをやめた。
「やだなぁ」
 思わず独り言が口に出る。このフロアだけちぎり方が甘い、ということは、この階にそのメモに関する誰かが居るのではないかーーそう直感で思ったのだという。
 お化けの気配は慣れているので、分かる。この建物は、気配がない。
 しかし経験から、こういうところに潜んでいる人の気配は気が付きにくいのだという。過去にも、『こんなところに人が居たんだ!』と驚かされたことがままあった。
 少し奥に進むと、雰囲気が暗い。他のフロアは、窓から光が差しこんでいて、明るかったので違和感を感じた。
 3階だけ奥に進むにつれて暗さが増す。扉は、ここを荒らした先人たちによって無くなっており、光を遮るものはないはずなのだが、あきらかに光量が足りていない。人為的に窓などをふさいでいることが推察された。つまり人が居る。
 心理状態がヤバくなってしまっている人の中には、異常に光の量にこだわる人がいる。そういう人なのかもな、と思いつつ、思っただけでは癪なので、さらに奥へと歩を進めた。
『完全に人が居るとなったら、帰ろう』
 この時はそう思っていた。
 ふと、以前別の廃墟でホームレスが壁に向かって一人酒盛りをしているのを目撃したことを思い出した。その時も、防音がそれほど良くない廃墟なのに、ある部屋に入ると突然こちらに背を向けたホームレスが、「〇〇だよなぁ」と壁に話しかけていたのだという。
 もう少し進む。すると、うっすら物音と声が聞こえてきた。
 声は女性だ。
 廃墟に女性は珍しい(甘味さんも女性なのだが)。
 音をたてないように、ゆっくり近づくと中年女性の声だと分かった。
「ん~ひき肉」
「ん~こまぎれ肉」
と言っている。かなり気持ちが悪い。
 普通の人なら、ここで踵を返すところだが、甘味さんは正体が気になった。声の調子から、万一何かあったとしても勝てるという根拠のない自信もあったからだという。
 音源と思しき部屋を物陰から見ると、そこは、ほとんど光の差し込まないように窓に何か貼られた部屋だった。その光量に乏しい部屋の中で、極限までパンパンに何かを詰め込んだスーパーの袋に手を突っ込んで、髪の毛ぼさぼさの女性(と思しき人影)が上記の「ん~ひき肉」「ん~こまぎれ肉」という言葉を繰り返している。
『よし帰ろう!』
 すぐに判断して、その場を後にした。
 建物を出て、その部屋を外側から見ると、どうやら段ボールのようなものを貼り付けて暗くしていることは分かった。

 後日甘味さんは、「もし、取っ組み合いになっても勝てたと思うけど、刃物とか持ってても嫌だから、泊まるのは止めました」とかぁなっきさんに伝えたという。
 もちろん、その女性は人間だとは思うし、頭のおかしい人が嫌がらせをしているのだとは思うが、怖いものは怖い。
                           〈了〉

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出典

禍話インフィニティ 第二夜(2023年7月1日配信)

17:05〜

※しかし、は、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

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