見出し画像

モラトリアム - J. E. マーシャ

発達心理学理論が数ある中でも、「青年期(思春期)」に注目した学者は多くいます。理論によって定義に幅がありますが、およそ13歳~20歳前あたりのその未完成で不安定な激動の時を、

哲学者のジャン・ジャック・ルソーは「第二の誕生」

ホリングワース「心理的離乳の時期」

社会心理学の父、クルト・レヴィンは「境界人(マージナル・マン)」

アメリカ心理学会を創立したスタンレー・ホールは詩人ゲーテの表現を用いて「疾風怒濤」、と呼びました。

画像1

また、エリク・エリクソンは、青年期の発達課題を「独自の存在としての自己イメージを確立すること(アイデンティティの確立)」であるとして、そのアイデンティティを探索する「モラトリアム」が許される時期であると言いました。

今は日本人のわたしたちも、日常の中で「アイデンティティ」という横文字をふわっと使いますが、その言葉を最初に "Ego-Identity(自己同一性)" という意味で使い始めたのはエリクソンなんですね。

さて、今日紹介するのは、そのエリクソンのアイデンティティ論を発展させた、ジェームズ・マーシャのアイデンティティ・ステータス理論です。

画像2

J.E. Marcia…臨床家は、いい笑顔のBioが多い

マーシャは、エリクソンの言うアイデンティティについて、「積極的に関わったか」「危機に直面したか」の二軸を使って、青年(アイデンティティ危機に向かい合う年代)の発達状態に4つのステータスがあるとしました。図に整理するとこんなかんじ:

画像3

ちなみに、心理学でいう「危機」は決してネガティブなこととは限らりません。自分を疑い見つめ直す、再構築する転機のことです。

理想的な状態は『アイデンティティ達成』。自分とは何かということを自分の頭で考えたうえで、これという目標を見つけてコミットした状態。

それに行きつく手前の状態が『モラトリアム』。自分とは何か、人生とは…と、何かに関与したい気持ちはあるけどそれが何だかわからないで悩みに悩み、揺れに揺れ、頭に汗かいている状態。…エリクソンが青年期の特徴とした状態です。

『早期完了』というのは、外部から与えられた目標に盲目的にコミットしている状態。例えば「親が医者になれっていうから医学部に行くの」とか。早い段階で目標が決まっているというのは一見、良さそうなのですが、後になって何かの拍子に箍がはずれて「10年以上この仕事してきたけど、実は全然好きじゃなかった…!」とかいって、中年だてらにジャンプして骨折とかしがちなのもこのステータスに留まっていた人たちだと考えられます。やはり、アイデンティティ獲得のためにひととおり悩むというのは、青年期の大事な特権であり課題なのです。

そして、『アイデンティティの拡散』…何もしてない状態。何も考えていない。自分がどう生きていいか分からないところにとどまっている状態。子供はいいけれど、年を経るにつれて、それは現実に追い詰められて辛いことになっていきます。

このフレームワークは1960年代のものですが、今見直しても分かりやすいというのは、やはりいい理論なんですね。

ここでわが身を振り返ってみると…うん、、、キャリアという意味では、恥ずかしくていつまでとは言えないけども、かなり長く…モラトリアムしていました。就職活動なんか確信犯的にモラトリアムしていました。我ながら、精神的に成熟するのに時間がかかるというモダン・プロブレムをきっちりかかえた現代日本人だなと思います。

それでもまあまあイイ感じにここまで生きてこられたのは、ブレ幅広く悩みながらも、一方で「要領よく」浮世にグラウンディングする力・足場を固めながら進むという生存本能が強かったからのような気がします。最初の危機は確かに15歳くらいでドカーンとあったという記憶があるけれど、その時その時で暫定的なアイデンティティをレイヤーのように重ねてきたように思います。

従って、自力で(あるいは他力を使っても)賄える範囲でアイデンティティの更新を求め、モラトリアムを重ねることは、別に青年期に限らなくてもありなんじゃないの、思考停止するよりいいのでは。(考えるのって疲れるから大変だけど)と、思ったりもします。

その力はどこで培われたのかと自分なりに分析してみると、やはり子供の頃から、いっぱい本を読んでいたことの蓄積かなと思うんですね。…それも、いわゆるビジネス書やハウツー本ではなく(そういうのは誰かが捉えた眼前の「枠組み」に則ってどうしたらという答え合わせの参考書なのだが、実際はその環境や社会の価値観というものが凄い勢いで代謝していくから常に正解なんてない、というのが、今時の”生きにくさ”の正体なのではないでしょうか)、歴史書や哲学書や小説や詩などを、玉石混交でたくさん読んできた事にあるように思います。流行だとか目の前の誰かさんの言葉とかに左右されない知恵のストックが無意識の中に根を張っていて、そのおかげで、結果として図太く、自分を踏み外さずに生きてこられました。

Thanks, 本!

というわけで、今日の結論:

悩み上等、本を読め。書店平積みのベストセラーだけでなく、古典や詩を、幅広く。

どなたさまも、ハッピーなライフキャリアを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?