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原神のような超競合が現れても日本のスマホ市場は壊れない。マーケティング観点から読み解く

日本に「原神」が登場してからというもの、「国内市場におけるスマホRPGの見え方、作り方が変わった」と言う人もいるが本当にそうなのだろうか?

また、原神が日本市場をぶっ壊しに来たぞ。もう日本の開発会社はこれを超えるRPGを作るのは無理なんじゃないのか?」

とか言う人も中にはいる。いや、実際僕の目の前で語った人がいたけど、それは極論でしかないし、単なるゲーム業界の一面でしかない。

なぜならば、経済活動において超競合が現れるのは至極普通のことだし、世の中には一強独占だけで経済が回るということでもないからだ。

誤解内容に先に書いておくけど原神はすばらしい。これをできる、やろうと思う日本のゲーム企業はなかなかいないと思っている。できるとすればスクエニだろうか。

と、話をタイトルに戻すが、

仮に原神のような超競合が市場に現れたとしても、二番手、三番手がしかるべき戦略をもって事業を展開することは余裕でできるし、外部のマーケットから飛び出した意外な競合によって超競合が出て流れが変わることも十分にありえる。

つまり、ゲーム業界において原神のような巨大な黒船が来ようとも(この表現、多分10年周期で使っている気がしますが)、結論から言うと、ゲーム制作において悲観することはなく、頑張って継続していこうぞと言いたい(一般的には)。

もちろん、一部の人に影響はあるし、なによりユーザーが求める基準は上がってくるのは間違いない。

けれども、こういうことは例年のように起きているし、弱者の生存戦略や経営戦略はしっかりと存在しており、中小であろうと、インディーズの開発者であろうとも、しっかりと事業を成長させることはできるし、生存もできる。

今回はなぜそれが断定できるのか?ということを、マーケティングとゲーム業界の歴史と照らし合わせながらお話をしていきたい。

つまりゲーム制作者にとっては、

ビッグタイトルにビビらないで、私たちは今まで通り創意工夫をしてゲーム制作を続けていけばいいということを伝えたい。

ただし

常にマーケットのことを意識したり、ニーズの変化、プロモーション等の手法、ゲームデザインの部分で調整は必須なため、いつも以上に意識して作っていきたいということである


競走地位の戦略

経営戦略やマーケティング論で競争地位の4類型(リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャー)という考え方がある。

ゲーム業界に限らず、世の中の経済活動では強者と弱者の戦略が存在し、それぞれがシェアを確保して生きていたという歴史がある。

今回はこの競走地位の戦略を持って業界の生き方やポジショニングについても少し触れてみる。

記事内容は、ナレッジ・インサイトなどから参照している。

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出所: 嶋口充輝. (1986). 統合マーケティング. 日本経済新聞社


戦い方は資本力によって異なる

これを上位の図と合わせて、ざっくりとゲーム系で当てはめてみる。ゲーム系の選定は公開されている資本力や売り上げ高、従業員規模、パブリッシャーを中心に選んでいます。

①リーダー企業の戦い方

最大のマーケットシェアを持ち、業界を牽引する主導的立場にある企業。自社のシェアを維持、増大させるだけでなく、市場全体を拡大させることが戦略目標となる。

経営資源の質も量も豊富にあるのが、リーダーに企業。

企業では、任天堂、 SIE、テンセントなど。

戦い方のセオリーとしては、規模の経済と経営資源をフル活用して、競合他社に対してマウンティングしまくることです。

王道を作っては王道の手法で真正面からも叩き潰せるし、飛び道を使ってきたらそれをそのまま真似して叩き潰すといった戦い方ができます。


②チャレンジャー企業の戦い方

業界で2、3番手に位置づく大企業で、リーダーに挑戦しトップを狙う企業。
戦い方のセオリーは、リーダーの真似やライバルサービスを設計して、改良を重ねて質を高めて勝負しようという戦い方。

そのほか、競合他社の弱点をつくなどしてシェアを高めることを戦略目標とすることがある。

日本で当てはめると、スクエニ、カプコン、バンダイナムコ、セガ、コーエーテクモ、コナミなど。スマホゲーム系だと、ガンホー、XFlag、Aniplex、Cygames、DeNA、Gree(関連のゲーム系)など。

③フォロワー企業の戦い方

業界で2、3番手に位置づく大企業ですが、業界トップになることを狙わずに競合他社の戦略を模倣をする企業。製品開発コストを抑え、高収益の達成を戦略目標とします。

フォロワーは、経営資源力も小さく、経営資源独自性も低い。規模の優位性もなく経営資源に独自性もありません。

こちらは自社パブリッシュや受託で利益率を高めつつ、飛躍の機会を伺うようなベンチャーや中小のパブリッシャーが一般的。

④ニッチャー

すきま市場(ニッチ市場)で独自の地位を獲得しようとする企業。専門化することで収益を高めることを戦略目標とする。

ニッチャーは、経営資源力は小さいが、経営資源の独自性が高い。つまり低資源でもユニークな製品やサービスを保持していたり生み出すことができる企業。

ゲーム業界で例えると、「妖怪ウォッチ」「ニノ国」「レイトン」などを生み出すレベル5、「SEKIRO」「DARK SOULS」のフロムソフトウェア、「刀剣乱舞」のニトロプラスなどが代表的。


原神のようなタイトルは周期的に現れる

たとえば日本のゲーム業界に突如現れた黒船として話題になったタイトルをいくつかご紹介する。

1.Grand Theft Auto III (2003/9)

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ご存知、欧州生まれ、ロックスター・ゲームズ社による超有名な車泥棒アクションゲームだ。実際初登場だったのは1997年のプレイステーション。ただし海外専売だった。

これが日本で大ヒットしたのは『グランド・セフト・オートIII(以下GTAIII)』の2003年のPS2版で、日本の発売はカプコンが担当していた。

当時カプコンは海外ゲームをローカライズ(翻訳)して日本で販売するというチャレンジャブルな事業を積極展開していたが、日本ではまだこの頃、洋ゲーは一切歓迎ムードではなく、ただのマニアックなゲーマー向けコンテンツという雰囲気が続いていた。

しかしながら、この「GTAIII」は日本でも40万本売れる大ヒットとなった。当時何がすごかったのかと言うと、まず洋ゲーだったということ、18禁というCEROのレーティングがついたこと、そして何よりもオープンワールド風のアクションゲームが出てきたという、ゲーム自由度の高さだった。

これにはゲームユーザーやレビュー担当の編集者たちも驚いてこぞって高評価をつけたことがきっかけだった。

ちなみに2003年で売れたゲームはこんな感じだ。

1 PS2 ファイナルファンタジーX-2  1,941,727
2 GBA ポケットモンスター ルビー・サファイア   1,704,458
3 PS2 真・三國無双3 1,178,455
4 PS2 ウイニングイレブン7 コ1,085,082
5 PS2 みんなのゴルフ4 875,252
6 GBA ドラゴンクエストモンスターズ キャラバンハート 593,458
7 PS2 機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙 577,972
8 GC マリオカート ダブルダッシュ!!  567,849
9 GBA メイドインワリオ 556,806
10 PS2 ドラゴンボールZ 543,312
〜〜〜〜〜〜
32 PS2 グランド セフト オートIII  308,764

ランキングは上でも見れるが洋ゲーが一本だけ入る異色性からもその凄さが垣間見えた。

実際、GTAは開発費も規模も数十億規模ということもあってかなりゲーム業界がざわざわした。

実際その後からは洋ゲーっておもしろいじゃん!みたいな感じで洋ゲーにスポットが当り始めたが、今しばらくゲームタイトルはいろいろな作品がコンスタントに出てきてはしっかりとセールスしていった名作もたくさん出た。

2.リネージュII

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ご存知、今もサービスが続いている韓国のNCSOFTが開発したMMORPG。韓国でのリリースは2004/6/25で、当時私もこのプロモーションの一部に関わったりもした。

日本ではこの頃より基本無料のアイテム課金が出回り始めて、「レッドストーン」や「リネージュ」、「スカッとゴルフパンヤ」などが大ヒットし始めた頃だった。

そんな時にいきなりハイクオリティの3DでしかもMMORPGというものがぶっ込んできて、オンラインゲーム市場はMMORPG大旋風を巻き起こしたことを今でも覚えている。

当時「リネージュII」がで始めた頃も、今後はオンラインゲームが日本を席巻するんじゃないか?とか言われたりもしたが、まぁPCゲームだったからなのか、そこまで何か驚異的なものはコンシューマ業界には感じなかった。

とはいえ、ユーザー自体の可処分時間を相当注ぎ込まれたのは間違いなく、この頃のPC販売台数やグラフィックボードは過去一売れたというような話もよく聞いた。

3.mobage、Greeの到来

海外タイトルではないが、2006年に大々的に準備して現れたソシャゲプラットフォームの二代巨頭だ。コンシューマ業界にも大打撃を与えたのがこのソシャゲ大ブームの到来だった。

とにもかくにもソシャゲ。TVCMはほぼほぼ「怪盗ロワイヤル」と「ドリランド」。釣りスタといったようなソシャゲソシャゲソシャゲ。

当時Greeの面接で「任天堂の倒し方」と言うのがバズったりもしたことも懐かしいが、実際任天堂の株主総会で岩田社長が激詰されていたことは記憶に新しい。

実際問題、ゲーム開発社もソシャゲ業界に多く流れ、コンシューマゲームの決算が荒れたことなどからも、今後の家庭用ゲーム業界などに対してかなり暗雲が立ち込めた時期だったりもした。

厳密に決算を紐解くと、その頃に出た家庭用ゲームソフトはしっかり出てしっかり売れていた。Wii U自体は苦戦したと言われていたが、任天堂の出したソフトはしっかりとミリオンヒットを出してもいた。

しかしながら、当時のゲーム企画や開発に関してはソシャゲで出した方がいいのではないか?というような方針が大きく、DeNAやGreeとの駆け引きもかなり多かった。

どんな時でも生きる戦略はある

話を戻すが上に一部の出来事を取り上げてみたが、これはほんの一部であり、中小企業の死活問題になるタイトルや出来事はめちゃくちゃある。

こんなハイクオリティのゲームが出てくるのか、ヤバイな、これから何を作ればいいんだ?

そんな頭を悩まされたことは数知れないし、ライバルタイトルを参考にして超低予算で超える企画を出さないと通さないと言われて2年を費やしたが、企画が1つも通らなかったことすらもあったぐらいだった。

そんな時に私がとった行動は何だったかと言うと、過去にリリースされていたタイトルを改良とマーケティングで伸ばすことだった。これが結構ニッチ産業をしっかりと確保することができて、黒字運営を継続できたことも自信の1つになっている。


生きる戦略はあるその2

もう1つ、ニッチ産業で生き残る戦略としては私が過去在籍していたNHN PlayArtが代表例だとも言える。

NHN PLayArtはディズニーツムツム、妖怪ウォッチプニプニ、ぷちます、ドラゴンクエスト けしケシ!といったパズルゲームを制作している会社でも有名だが、いずれもかなり少数精鋭で制作している点も特徴的である。

実際私がいたプロジェクトも、なんとCygamesのモック制作人数と同じだと聞いて衝撃を受けたんだが、それぐらい少ない人数で制作している。

つまり一人単位の利益率が驚異的に高い企業だったりもする。

それでいながらも「#コンパス」といった対戦アクションとしてリードするゲームをリリースしていたりと、アイディアの出し方と落とし込み、マーケティング戦略も実にうまい企業だったりする。

もちろん失敗事例も多いが、NHNはもともと大きなプラットフォームを持って、何を作れば大きく勝てるか、小さくても生き残れるかを地でテストしながら生きてきた企業なので、生存戦略に関してはかなり長けている企業だとも言える。

実際私自信もかなり小さい会社で黒字を小さくても出すことを徹底して強制されていたので、その辺に関しての数字的観点はかなりシビアな方だと思っている。

長くなってしまったが、どんなに巨額タイトルが来ようとも、小さく生き延びることは可能だし、時代の変化に合わせてチャンスに飛び込むことは可能だということを伝えたかったわけである。


原神の開発費は安いのではないか?

さて原神についてだが、明らかになっている数字を紐解いてみると、開発費とマーケティング費用だけで110億と書いていて、スタッフが400名と書いている。これを鵜呑みにしてみる。

本作はグローバル対応なのでマーケティング費用やTV CMやオフライン広告費等も含めてリリース3ヶ月ほどで10~20億は使ったのではないかと超推測する。

その上で開発費だけを抽出したらたったの90億しかない。「シェンムー」1本しか作れないじゃない(70億)。

さらにスタッフ400名とは言うが、これはシンプルに人件費が安すぎて、開発メンバーだけではないという仮説なので、実際にメインに関わっている人はそれほど多くないのではとも予測する。

ニノ国の方が開発費は高いのでは?

例えば、先日リリースされた「ニノ国」は約3年間で150名以上のリソースを投入したとインタビューで書いている。

開発費は明らかになっていないが、ネットマーブルは数百億使って開発をすることもあるので、別に不思議な話ではないかなとも言える。

リネIIレボリューションとか、セブンナイツの方が開発費はかけているとも聞くので、意外にも大金をはたいて開発しているところは珍しくはないと踏んでいる。


最後に:開発費をかければいいものになるわけではない

原神は現状間違いなく世界的ヒットしているMMORPGの1つだと言える。

しかしながらゲームやエンタメ作品とは、お金をかければいいものになるかというとそうではないというのが難しいところであり、さらには長期的に運営していくとなるとまた別次元の要素が多分に絡んでくる。

かといってそれが何かの衰退や失策を期待しているわけではなく、時代の変化が早く、多様な情緒性が求められている現代においては、何もそれだけが全てというものは存在しないということを言いたい。

小さくても採算性が取れるものもあるし、やれることもあるし、経済活動を継続することは全然可能だということ。

仮に一人で制作したものでも面白いものはたくさんあるし、そうでないとハイパーカジュアルなんてものが流行ったりはしない。

結局は制作側の意気込みだったり思いだったりするものが有る限り、経済活動を回すことは可能だと思うことと、ゲーム制作という活動と事業は大なり小なり展開可能だと言えると締めたい。


PS

上には書き忘れたが、市場をぶっ壊した黒船として2つ、荒野行動とFortniteを忘れてはいけない。

これらは正直採算度外視でゲームを全部盛りしてきているうえに、販売方法も正攻法ではないので日本企業は勝てるわけがない。

しかし今後はこういったことも余裕で起こってきている時代でもあるので、そういう時代背景も考慮した上で戦わないといけないなと感じた次第である。

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