浮世絵の絵具ー本藍② 製法・飴出し法について
江戸時代の本藍絵具は藍布を石灰と水飴で煮ることで色素を抽出し作られていました。基本的な作り方は文献に紹介されていて(今の摺師の間ではこういったものは受け継がれていません。)、それを参考にこれ迄作って来ましたが材料の分量や火加減等が分からず要領が掴めませんでした。試行錯誤を繰り返し最近ある程度やり方が見えて来たので紹介します。基本的な公式は
・糸の量に対して1.6倍の消石灰
・消石灰の量に対して1.7倍の水飴です。
藍糸は最も濃い紺色を使います。薄い染め色の物を使う場合は石灰の比率は少なくも大丈夫です。消石灰は殆ど水に溶けない一方水飴は溶けます。今回は水3Lですが水の量に合わせ水飴は多少分量に加減が必要です。(消石灰は気にしなくていいと思います。)ただそんなに大きな比例関係は無いと思います。
1鍋に藍糸と消石灰と水を入れ三時間程放置します。今回は糸100g、消石灰160g、水3Lで行いました。
2加熱しある程度温まって来たら水飴(約270g)を入れます。
3色素が出てくるので茶筅で泡立てます。作業中の水温は90℃~95℃を保ちます。
4色素の泡を匙で回収します。糸をかき混ぜながらやった方が色素の離れがよいと思います。
5回収作業の終盤で何度か集めた色素を水で濯ぎます。泡にはカラメル化した茶色の溶液も含まれていてこれは色味を悪くするのでこれを洗うためです。濯ぎ終わった水はそっと鍋の溶液に戻します。藍の色素であるインディゴは不溶性なので水を入れてもそんなに混ざりません。
6色が出なくなってきたら火を止めます。加熱終了後も保温で還元は進むので直ぐに溶液は捨てず一晩放置し翌日再加熱して泡立てて余りの色素を回収します。
7色素の回収が終わったら丸めた和紙の先に椿油を付けて軽く叩くようにかき混ぜると泡が消えて行きます。
8水を加え濯ぎながら、ざるの上に敷いた木綿布に流し込みます。色素だけが残るので乾燥させて完成です。(ざるの手持ちが無いので紙の箱で工夫しました。)
絵具として使用する際は少量の水を加え加熱して溶かします。
(2020年8月追記:江戸時代においては「藍棒」や「藍蝋」という、色素を膠(や澱粉糊)と混ぜて、固めて成型された物が市場に出回っていたと思われます)
加熱抽出作業には時間がかかります。溶液が蒸発して少なくなってきたら水を足します。この際石灰はあまり減って無いと思いますが水飴の方は水と一緒に蒸発してると思うので水飴は少し足した方が良いと思います。
溶液の使い回しはできます。新たに糸を加えたり中途で作業を止めても再加熱すれば色素は出てきます。(糸を足す場合は石灰と水飴共に足した方がいいと思います。)気温との関係かわかりませんが、再加熱した際白いアクが発生することがあります。このアクは色味を悪くするのでその時は前述の濯ぎ作業をします。
糸には当たり外れのようなものがあり同じやり方でも色素が出にくいものがありますが原因は分かりません。
やり方に関してはより効果的な方法はあると思いますが今のところはこんな感じです。
江戸時代の浮世絵の本藍はこれだけでな
く、藍染時に染色液上に発生する色素を集めたもの(灰緑がかった色味で紅摺絵などに用いられていたと思われます。)やベロ藍のような明るい本藍(最も早い使用例は写楽の大首役者絵の一部の月代部分に見られます。この絵具は作り方が分からず現在解明中です。)がありますがその使用の変遷について、はっきりしたことはまだよく分かりません。
2019.1.1
(2020年4月現在、藍の色の差は根本的な製法の違いではなく精製段階ないしは使用段階での「灰汁抜き」によるのではないかという可能性が出てきてます。詳細は今後検証してお伝えします。)
(出典https://www.artic.edu/artworks/86915/the-actor-otani-tokuji-i-as-manservant-sodesuke)