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「限界」のラインがわからない

私は、私自身のことを以前より理解できるようになったと思っていたが、そうでもなかったらしい。

自分は完璧主義で理想が高く、そのくせマイペースで情緒不安定になりやすい。しかし、頑張れば大抵のことは何とかできる気がするし、自分を客観視することもできる。優れた人間ではないと思うが、それなりに日常を安定して過ごせる、そういう恵まれた環境に居られていると思っていた。

実際、自分の面倒な性格はその通りだし、大変ではあれど恵まれた環境であることも確かだと思っている。
しかしそれはそれとして、自分自身が抱えているストレスや不安が、自分が思っていた以上に重く大きいものだったことにようやく気がつき始めた。

「疲れた」という自覚は常にあったが、「強いストレスがある」という自覚はあまりなかった。
自分が疲れているのは体力がないからで、じきに慣れるだろう。大変だと感じるのもまだ慣れていないからで、これくらいのことなら大きな負担にはなっていないだろう。まあ自分はなんとかやっていけているはずだ。
そう思っていた。

どうやら、自分は自身で思っているより、大丈夫ではないらしい。
そう感じ始めたのは数日前のことだ。

私は何よりも休日が好きだ。
好きなことだけしてのんびりと自由を謳歌できる、そんな休みの日が好きだ。平日は疲労で心が荒んでいたとしても、休日になれば穏やかな気持ちになれる。これまではそうだった。

先日、休みにも関わらず何だか気分が晴れない一日があった。
自分の精神が暗い方へと引っ張られているのを感じて、「どうやら自分は今、元気ではないらしい」と気がついた。
私はよく音楽を流して生活しているが、その時は無性に仄暗い曲や鋭利な曲を心が求めているのを感じていた。作品が持つ重たい雰囲気や鬱々としたエネルギーに、強い魅力を感じるような精神状態だったのだ。
元々の好みとして、明るく楽しい曲よりも少しダークな曲に惹かれるタイプではあったが、普段は作品を味わいながらも外から「娯楽」として享受していたに過ぎなかった。しかしその時は、曲に対して「作品」として好きというよりも、そこにある暗いエネルギーに対して引き寄せられているのを感じた。自分の内側が、暗い方へ引っ張られて吸い寄せられていく感覚。
そうやって自分の心が引っ張られる中で、頭では「今の精神状態、よくないかも」と冷静に考えていた。
それでも、自分が限界であるとは思っておらず、何かよくない感じ、という自覚しかなかった。しかし今思えば、精神的負担が限界を超え始めていたのかもしれない。

私は一年を通して心身共に元気であることの方が少ないが、体調が悪いとき、どの程度の痛みから「辛い」と言っていいのだろう、ということを考えてしまう。
頑張れば動けるのであれば、「辛い」というほどではないのではないか。痛いことには痛いけれど、もっと耐え難い痛みを経験したことがあるから、今は随分マシな方だ。だったら、「辛い」わけではない気がする。
休んでいいと言われれば喜んで休むが、頑張って我慢しろと言われれば我慢できる。その程度の体調不良のとき、大抵は頑張って我慢している。

体調不良であれば、動けなくなったら、目が回って世界が歪んで見えたら、呻かずにいられないほどの痛みがあったら、それは「限界」だとわかるからまだいい。それ以上無理をしたらヤバいと理解できるから、さすがにそうなれば「休んでもいいんだ」と思える。

一方、精神的な負担についてはそうはいかない。自分の精神の問題であるから、自分が感じている不安やストレスに対して、どの程度から「辛い」と言っていいのか、よりわからなくなる。知らぬ間に限界を超えていたとしても、肉体が動くのであれば、心は何とかごまかして活動はできるかもしれない、と思う。

そうなると、あるとき突然、プツンと何かが切れて溢れて爆発してしまうのではないか。積み重なり続けた負担が、一瞬にして押し寄せてくるのではないか。
具体的な痛覚を伴う痛みではないから、心のダメージはわかりにくい。自分はダメージを受けるようなことはあまりなかったはずなのに、という意識があるから尚更だ。

ただ先日、突然心の糸が切れてしまったような感覚になったことがあった。
職場で上司と話をする機会があり、そのときに自分の内面をさらっと話そうとして、突然涙が止まらなくなってしまったのだ。嗚咽が止まらなくて声が全く出せず、自分でも驚くほど、気づいていなかった強い感情にその瞬間完全に支配されていた。
そのときになってようやく、自分は「辛い」と思っていたんだ、と自覚した。
この時点で、私の精神は限界のラインをとうに超えてしまっていたのかもしれない。ただ、自分ではそのことに気がついていなかった。

私は、環境には恵まれているはずだ。
しかし、それでも精神的ストレスは知らず知らずのうちに溜っているらしい。
今の自分も、まだ不安定だと思う。自分で思っている以上に、大丈夫ではない状態かもしれない。

だからこそ、もっと自分の内面を知りたいし、「限界」を超えてしまわないようにコントロールできるようになりたい。
そのためにも、自分の感情や思考を言葉にして、文章にして、表現することをやめないでいたい。
自分の内側に燻っている何かを、声や文字にして出力できるように。隠れていた負担を見つけられるように。心の均衡を保てるように。

そしてどうか、心身共に健やかに生きていけますように。