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「初めての中期経営計画」に足りなかった、基本的なもの

新型コロナウイルス感染症拡大という災禍に見舞われ、事業の見通しも不透明になってしまったスタートアップの経営陣やバックオフィスの皆さん、こんにちは。

予算修正、中期経営計画の見直し等々に追われた方もいらっしゃることと思います。私も一月半で8パターンの計数計画を作るという苦行をどうにか耐え抜きました。

エクセル関数やKPIの渦に飲まれながら、今の会社に入社して初めて中計の計数計画を作った時のことをいろいろ思い出しました。アレがこうなってたらもっと効率的に、もっと根拠のある計画が立てられてたのになあぁぁぁぁ......と思ったことを、誰かの役に立つか分かりませんが、恨み節を含めてお伝えします。


<入社当時の会社のおおまかな状況>

私が入社した当時、従業員数はおよそ20名程でした。事業所は二か所。バックオフィスは若い事務の女性が2名、採用担当が1名、私より1か月先に入社したCFOがいました。他は全員営業部員です。

バックオフィスの業務フローについては、会計は税理士に丸投げ。会計ソフト等のバックオフィス業務のソフトは一切なし。SFAだかCRMだかでkintoneを導入しようと頑張っていたようですが、途中で息切れしたらしく、無用の長物化。共有サーバが存在しているだけまだマシという状況でした。


<計数計画を立てるのに不足していたもの>

Q.さて、こういう会社に入社していきなり予算や中計の策定ができますか?
A.できません。

企業として様々なものが足りていないわけですが、無いものを概念的に分けると次の二つです。

1.ログ(実績数値や過去を辿る手法)がない
  ──無いよりはマシなので、紙でもいいから残してほしい
2.ログ(実績数値や過去を辿る手法)は残っているが、データ化されていない
  ──紙でもいいとか言いつつ、やはりできれば加工可能なデータで残してほしい

過去の実績データは未来予測の最低限の足掛かりです。それがそもそもない、もしくは活用しやすい形で存在していないということは、まずその足掛かりを作る(実績データを蓄積する)ことから始めなければいけなくなり、これにはそれなりに時間がかかります。

これらが無いとどう苦しむのか、苦難の一端をお見せします。


<営業活動記録が残っていない>

これから暑くなるので涼しくなりたくなったら唱えてみてください、「営業活動記録が残っていない」と。背筋が少し寒くならないでしょうか?

売上計画を立てるにはKPIの設定が必要です。当社の場合、業態はコンサル営業に近く、売上のKPIは
「成約数×単価」
になります。さらにこれを分解すると
「案件獲得数×成約率×単価」
になりますが、この案件獲得数や、成約率を割り出すための案件の進捗度に関する記録が一部しか残っていませんでした。

記録がないと獲得した案件の顧客属性も分かりませんので、属性の違いによって成約率に差があるのかどうかも判断できません。営業活動記録が残ってないと、このようにKPIに関する仮説も立てられないのです。

営業部員は毎月月初に、顧客訪問数や成約までのマイルストーンなどの活動内容を数値化・言語化した月次報告書をエクセルでちゃんと作成していました。しかし、過去の報告書をずっと残している人、飛び飛びにしか残していない人、前月分の報告書に今月分を毎回上書きして作成している人、etc. 報告はすれども、その報告した情報を蓄積して線(時間経過)で見ていくという視点の共有がなかったのです。

前述したように、私の入社当時はすでにkintoneが導入されており、顧客リストっぽいものが作られようとしていましたが、未完のままでした。後に営業企画担当とシステム担当が入社したので、現在はkintoneを無事活用できています。

システムは自動的に業務を遂行してくれる魔法の箱ではないので、導入しても適切に設定・運用しないと利用可能なものにはなりません。ならばいっそのこと、自分たちで使えるエクセルなどのツールを何でもいいので活用して、とにかく記録を残しておくべきです。


<データ化された会計情報がない>

毎日の現金や預金の入出金をノートに手書きで記し、そのコピーを翌月月初に税理士に送り、月半ば頃に税理士から月次試算表のPDFが届く──

経理を内製化していない会社に入社したのは初めてでしたので、会計を税理士に丸投げしている会社はこれが一般的なのか私にはよく分かりませんが、とにかくバックオフィス業務については総じて「情報を(加工可能な)デジタルデータで持っていない」という状態でした。

予算や中計の計数計画を策定するとき、コストについてもKPIを設定します。
例えば、スマホの通信料など、個々の営業部員の営業活動に係る費用について
「営業部員数×営業部員一人当たりのスマホ通信料単価」
をKPIに設定したとします。そして、スマホ通信料単価を
「1年間の累積スマホ通信料÷1年間の累積営業部員数」
で割り出すとします。

が、しかし。
税理士から届く月次試算表のPDFには通信料の総額が載っているだけですので、手書きの出納ノートからスマホ通信料だけを拾い出さないといけません。累積営業部員数にいたっては、給与計算に関しても実は計算結果を紙でしか持っておらず、1枚1枚給与明細をめくって人数をカウントしなければいけません。

ならば税理士から仕訳データをもらえばいいじゃないか、と思われるでしょう。私もそう思い、税理士に依頼しましたが、かなり渋られました。理由は分かりません。

催促してやっともらった仕訳データのcsvファイルですが、摘要があまり入っていなかったり、毎年使用する科目の癖が微妙に変わったりしていたので、科目分析ができそうになく、結局過去の手書きノートと請求書や領収書原本を引っ張り出し、新規導入した会計ソフトに手打ちでン年分の仕訳を入力しました。


<番外編 何の支払か分からない>

「何の支払か分からない」経理としてはこちらも背筋が凍る言葉です。

予算や中計の計数策定には直接関係ない話かもしれませんが、コストのKPIを探る段階で、すべてのコストの内容を洗い出すターンが来ることがあるので、そのときあった失敗をひとつ恥を忍んで晒します。

支出には、それが何のための支払かを示す請求書や契約書などの証憑類が存在するはずです。なので、支出と証憑類等を突合するのは内部統制としても重要な作業になります。

毎月定額のある支払に関して、それに対応する証憑類がどうしても見つかりませんでした。支払を担当している事務員に聞くと「たぶんネット関連だったと思いますが、私は支払うように言われただけなので」というお答えでした。

結局支払先に確認して事業所のプロバイダー契約であることが判明したのですが、その事業所は他社ともプロバイダー契約をしていました。しかもルータの設定がどちらのプロバイダーでされているのか分からず、しばらく不要なプロバイダー料を払い続けることになりました(現在この状況は解消しています)。

これも、プロバイダー契約の申込書を残していなかった、つまり過去の記録を残しておかなかったために起こった不手際の一種といえます。

コストに関することだけでなく、例えば、36協定を作成したエクセルファイルが共有サーバに存在するのに、労働基準監督署に提出した控えが残っていないので、本当に提出しているかどうか分からない、ということが起こり得ます。何かを何処かに提出するときは、必ず提出したことを示す記録を残しておく重要性を認識していただければと思います。


<最後に>

最後に、とても当たり前で基本的なことを怨念を込めて繰り返します。

1.記録を残す
2.できれば加工可能なデータで記録を残す

この二つを起業初期の頃から心がけて実行しておけば、予算や中期経営計画の策定のためだけではなく、企業や事業の成長スピードに寄与することは間違いありませんので、是非取り組んでいただきたいと思います。

スタートアップに幸あれ!

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