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アカデミアから企業へ:米国での就職と転職

松浦まりこ
Corteva Agriscience (旧・DowDuPont)・R&D・Protein Engineering Scientist

著者略歴
2011年に首都大学東京 生命科学コース(現・東京都立大 生命科学科)を首席卒業。2017年にUniversity of Florida化学科 博士課程を修了。Georgia Institute of Technology/Georgia State Universityにてポスドク後、IlluminaのR&D scientistを経て、2020年より現職。University of Florida MBAプログラムへ進学。

はじめに

高校時代から研究者を目指し、大学入学時代からアカデミアでの研究に従事することを目標として歩んできたため、企業就職など全く考えていませんでした。しかし、ポスドク時代にこれまで培った経験やスキルを活かせる企業と出逢い、社会実装を目指す課題解決型の研究スタイルに魅力を感じた私は悩んだ末にIllumina社への就職を選びました。

そして、現在はCorteva社のprotein engineeringグループのマネージャーとしてステップアップし、リーダーシップを発揮しながら充実した日々を過ごしています。現在は、通常業務をこなしながら、週末には母校のUniversity of FloridaのMBAプログラムに参加し、さらなる発展に向け精進しています。

もちろん長年目指してきたアカデミックキャリアへの迷いもありましたが、長期的な視野で考えてみると、私にとって企業就職は研究に対するマインドを維持したままワークライフバランスを整えることができ、成果が目に見える形で表れやすい魅力的な選択肢になります。アカデミアにいた当時はアカデミアでのキャリアに固執していましたが、企業に移ることで社会実装をモチベーションとして、私に合った形で研究者を長く続けられる選択をできたと実感しています。

アカデミアと企業就職、国内と海外で悩まれている若い研究者の方々は少なくないと思いますので、Illumina社とCorteva社での採用経験と私自身の就職・転職経験の範囲で、米国での企業就職・転職に重要と思うポイントを以下に6つ挙げてみました。

1.自分の経験・スキルに合ったポジションに応募する

企業やポジションにもよりますが、R&Dの博士レベルの研究職の場合、募集をかけた段階でどのような人材が欲しいというのが割と明確に決まっているので、この条件と自分の経験・スキルがどの程度マッチしているかが大切になります。企業やポジションによりますが、スキルや経験年数がポジションに全く合わない(overqualified または underqualified)場合は面接に呼ばれる前にはじかれてしまう可能性が高いです。

2.英語とコミュニケーション能力

米国企業での研究は基本的にチームで行われるため、人とのコミュニケーションが欠かせません。ミーティングの機会もアカデミアに比べると格段に多く、コミュニケーション能力は面接の評価項目の1つに入っているほど重要視されています。そのため、英語が話せない のは勿論ですが、他人とコミュニケーションがスムーズ取れないと、米国の企業、とくに人気のある企業の面接を通るのは難しいと思います。さらに、企業にはより多くの上下関係の階層があり、関わる人の多様性(年齢、分野、職歴、その他バックグランド)も豊かな ため、人間関係が複雑です。そのような中で様々な人を理解し、全員と気持ちの良いコミュニケーションが取れるということは企業に勤めるうえでとても大切な能力です。

3.募集が出たらすぐに応募する

個々の企業の採用情報やLinkedIn、Indeed等を頻繁にチェックして、募集が出た当日、遅くともその週の内に応募をすることをおすすめします。大手の企業や人気のポジション・地域にある企業はスタートアップでさえも募集を出してすぐに大量の履歴書が送られてきます。そのため、後の方に送られてきた履歴書は様々な理由でチェックされないことがあります。例えば、先に有力な応募者が複数いた場合、後の方に送られてきた履歴書にたどり着く前に候補者が選ばれて定員に達してしまう可能性があります。私は同じSanofiのポジションに期間を空けて2度応募したのですが、2次面接のマネージャーが1度目の募集の際は私の履歴書を見落としていたとおっしゃっていました。そのポジションには採用情報開示から1-2週間の間に200件以上の応募があったそうで、1度目の応募の際は私が採用情報開示から2週間以上後に応募をしたため、どうやら履歴書が埋もれてしまっていたようです。

4.履歴書(resume)を準備する

履歴書は箇条書きなどを用い、読みやすいフォーマットとフォントで準備します。「Resume」で検索をかけると無料で沢山の例を見ることが出来ると思います。履歴書の中では自分の経験やスキルを採用情報(job description)内のキーワードを使用して具体的に説明するのがポイントです。ですから、ポジションに合わせて毎回履歴書を編集するのが理想です。博士が必要なポジションであれば著者となった論文(ポジションに関連するもの)も載せると良いと思います。

同じ履歴書でも企業職への応募に使われるresumeとアカデミア職の応募に使われるCVはフォーマットや内容が異なるので気を付けてください。また、executiveレベルのポジションでない限りresumeは1-2ページに留めるのが基本です。

5.LinkedInプロフィールを準備する

最近はLinkedInを通じてリクルーターから声がかかったり、LinkedInのプロフィールを使用して応募が出来る仕事が増えて います。ですので、そのまま応募に使用しても良いような、そしてリクルーターにもわかりやすいLinkedInプロフィールを準備しておくことは就職活動の時間短縮、そしてより多くの機会を得ることにつながると思います。私は博士課程取得後LinkedInのプロフィールをアップデートしてすぐ、化学科の博士課程を卒業した人材を探しているという事でL'Oréalから面接のお誘いを頂いたことがあります。

R&Dの場合その仕事内容によっては、競合他社に情報を開示しない等の目的で公に募集をかけないポジションも一部あります。そのような場合はネットワークやSNSを通じて候補者に直接連絡をとるため、LinkedIn等のプロフィールをきちんと準備しておくことはそのようなチャンスをつかむために大事になります。

6.運とタイミング

企業では部署毎のゴールや予算によって雇用状況が決まりますし、必要となる人材やスキルは企業や時代のニーズとともに変わります。そのため就職・転職は運とタイミングにかなり左右されます。例えば一昨年は米国で就労ビザの審査・発給の一時的な遅れや停止があったため、企業が外国人を雇うことができない時期がありました。また一方で、ポスドク時代の私のように思ってもいないところから突然チャンスがやってくることもあります。

上記のような就職・転職対策を全て行ったからと言って必ずしも就職・転職がうまくいくとは限らないのが現実です。しかしながら、就職・転職活動のプロセスを通じて、第三者から見た自分や企業への理解が深まり、結果に関わらず今後のキャリアにプラスになると私は考えています。

やりがいや満足度について

会社ではよい上司・同僚・部下に囲まれ、興味ある分野の研究開発にマネージャーとして関わり沢山の機会を頂いている事にとても感謝しています。入社1年目の成果で社内の最高評価(上位3%)を頂き、仕事にはかなり慣れてきました。最近は社内でチャレンジングだと思う課題が少なくなってきたので、MBA進学を含め、自分をさらに成長させられる環境に置くように心がけています。仕事の成果、社会への貢献、そして部下や自分の成長を見ることが私のやりがいとなっています。

科学者としての私の夢は、一生をかけて、社会と人類の発展に貢献することです。そのためにも、日々自分を磨き、より良い科学者・リーダー・人間になりたいと思います。

読者の皆様が希望する留学・キャリアを叶えられるように心から祈っております。

松浦さんの詳細なキャリアについては、UJAフリーマガジンGazette第8号の連載『海外就職のすゝめ』へ掲載されています。アカデミアと企業就職、国内と海外で悩まれている方はぜひご一読ください。

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