研究は好きだけど博士進学に迷いがある?ドイツに来ませんか?
はじめまして、私はドイツの大学院で生命科学系の博士課程(PhD)の学生をしている者です。
今回は、博士進学に悩んでいる方にドイツでの博士進学をおすすめしたい!と思い、こちらの記事を書かせていただきました。
…というのも、博士課程の環境は日本とドイツとで異なる点も多く、進学に関する悩みのいくつか(金銭面や就職関係)はドイツに来ることで解決できるのでは…?と思うからです。
周りにはインド、中国、エジプト、ヨーロッパ圏出身の学生が多い中、もっと日本の方にもドイツの魅力を知ってもらいたい。
そんな思いで、私がドイツで博士進学をすることになった経緯、研究室の見つけ方、ドイツでの生活についてご紹介したいと思います。
はじめに
この記事の内容は、私自身と身近な人たちを参考にした一部の例で、ドイツの大学院の制度や雇用条件などは、大学・州・研究室によって様々です。
日本では、4月や9月に博士課程が始まることが多いかと思いますが、ドイツでは大学・研究機関によってPhDプログラムの内容や開始時期が異なり、数ヶ月に1度入試をやっているPhDプログラムもあれば、募集が年に1度しかないところもあります。
入学後にラボローテーションや複数のPIとの面談を経て、所属する研究室を決めるPhDプログラムもあれば、PhDの公募一覧からプロジェクトを選んで、所属研究室を決めてから入試を受けるものなど様々です。
そのため、PhDプログラムの内容や雇用形態については、興味のある研究室のPI、ポスドク、学生、プログラム、大学に連絡をとる、ウェブサイトを見るなどして確認することをおすすめします。
どうしてドイツでPhDをすることになったのか
私は日本の大学で修士号を取得した後に、ドイツの博士課程に進学しました。修士の間に数ヶ月間留学する機会があり、その間に現在の研究室のPIに連絡して、面接を受ける機会をいただき、PhDとして雇っていただけることになりました。
メールの内容は『ドイツでPhDをやることを検討していて、可能であれば研究室に見学に行きたい』というものでした。
具体的には、自己紹介、自分の研究経験と研究内容、研究室に興味を持った理由、研究室の論文の中で特に面白かったものとその理由、その論文が自分の研究に与えた影響、などを各1〜2文でかなり簡潔に書いたと思います。(かなり拙い英語だったので、当時、英語をparaphrasingできるサイトを知っていれば使えてよかったのになと、今となっては思います。)
もちろんメールをする前は現在の研究室のPIとの面識も共通の知り合いもおらず、PIからすると全くの無名の存在であったのですが、幸運にもメールの返信をもらい、見学に行くことになりました。
見学時には自分の修論の研究について発表してほしいとのことだったので、日本の所属研究室の教授に許可をいただき、20分ほどの発表を行ないました。
40名ほどいるセミナー室での発表で、ポインターを持つ手が緊張でぶるぶる震えていたのを今でも覚えています。
発表後は、研究室のメンバーから多くの質問や指摘を受け、発表が伝わったことを嬉しく思い、それと同時にラボ全体の活発なディスカッションに感銘を受けました。
発表後は、30分ずつラボのメンバー全員と面談(とランチ)が予定されていて、各個人のプロジェクトについてディスカッションしたり、研究室の雰囲気やPIの人間性と学生との関係性、研究生活、給料、自分の興味があるプロジェクトなどについて話を聞きました。
ラボに着いて発表したあとほぼ全員と面談するという、目まぐるしい一日でしたが、ありがたい事にもPhDのポジションをオファーいただき、その後大学院のプログラムの入試を受けて無事PhDを開始することができました。
ドイツでPhDをやろうと思ったわけ
私がドイツでの博士進学を決めた一番の理由は、文化と研究環境が自分にあっていると思ったからです。
ドイツ(ヨーロッパ全般にあてはまるかも?)の大学や研究所では、研究室内でも研究室間でもコミュニケーションやコラボレーションが活発で、研究者の専門分野や国籍に多様性があって、分業がしっかりされているという印象があります。
具体的には、大学内に大型顕微鏡・FACS・質量分析等の専門機器に特化した施設や研究室があり、自分のプロジェクトで少し試してみたい機器があったら、専門家のアドバイスを受けながら自分でその機器を使って実験することや、専門家に自分の実験を委託することができます。
また、建物内全研究室の掃除・オートクレーブ・培地などの共通試薬作製を仕事とした職員がいるため、自分で試薬調整する時間も減ります。
私の所属する研究科には、実験に必要な装置の作製や修理を専門としたエンジニアと電気技師もいるため、実験に必要な機材を作るのに大変助かっています。
他にも、建物全体で連絡を取り合うためのSlackがあり、機器や試薬の貸し借りやディスカッションが多く行われています。
(例えば、ラボ内にRNA seqのデータの解釈に長けた人がいない時に、建物内に誰か詳しい人がいないか探してディスカッションをお願いする、試したい実験キットや試薬があるんだけど誰かもってたらちょっとくれない?、というようなことがよくあります。)
毎週、研究科全体のセミナーがあったり、同じ階の人と昼食をともにしたり、年に数回研究科全体でのパーティー(普段は真面目なPIがコスプレしたり、踊ったり、酔っ払った姿を見れるそうです。)があったりと、研究科全体でひとつのチームであり、みんなで力を合わせて研究を進めるという意識があるように感じます。
また、具体的には後述しますが、PhDのプログラムとサポートが充実している点も魅力的に感じました。
その他にも、ポスドクやグループリーダーのポジションにも女性が多くて、出産や家族を持ちながら研究生活を送るのがどのようなものなのか身近に感じれて想像しやすく、比較的に制度が整っていると思いました。
(子育てをされている方はよく不満をもらしているので、ドイツの制度にも議論・改善するべき点はあるようですが…。)
男性でも女性でも、こどもを迎えに行くために早く帰って在宅で仕事をしたり、こどもを研究室につれてきたりしているのもよく見かけます。
また、PhDをとった後のキャリアも多様で、アカデミアに残る人もいれば、研究に限らない様々な企業や政府機関に務める人もいます。
PhDを持っているとビザを取りやすくなりますし、就職に有利で、かつ、博士学生の期間も労働としてみなされるため就職してからの給料のランクが高くなるそうです。
ドイツでPhDのポジションを見つけるには?
ドイツでPhDのポジションを得るには主に3つの方法があります。
1)プロジェクトの公募に応募する
主に研究室やPIのツイッター、PhDプログラムや研究室のウェブサイトでPhDの公募情報が公開されています。
行きたいラボのメンバーや興味のある分野の研究者・研究室をツイッターでフォローしておくと、公募情報が流れてくる可能性が高いです。
2)修士課程のうちに興味のある研究室に所属して博士課程に進む
博士課程に進む方法で最も多いのが、ドイツの大学院に修士課程から進学し、修論で所属した研究室で博士課程に進学するパターンです。
それ以外にも、留学やインターンシップとして半年〜1年ほど興味のある研究室に所属して、滞在中にPhDポジションをもらうというケースもあります。
留学やインターンシップで滞在すると、自分の能力をアピールできることに加えて、研究室の方針やメンバー、PIの性格などを知ることができ、ミスマッチを減らすことができるので興味のある研究室に少しの期間でも滞在できないか留学を検討・交渉されるのも良いのではと思います。
3)PIにPhDの募集について問い合わせて面接をうける
こちらは、成功するかどうかは、かなり運とタイミングによります。ちょうどタイミングよく研究室で大きなグラントがあたった、あるいは、プロジェクトで人を募集していた場合は成功しますが、そうではないことの方が多いのかも知れません。
ただ、そこそこ大きいラボだと、2か3のパターンで興味を示してきた学生をPhDに雇うため、PhDのプロジェクトの公募をほぼださないというところもあります。そのため、興味のあるラボが特に公募を出していなくても、一度連絡してみる価値はあると思います。
メールを無視されることもありますが、返信が来なくても特に失うものもないので、(あと、面識ない人からのメールはよくあることらしいので)もし興味がある研究室がある方は、メール送ってみてはいかがでしょうか。
私が現在の研究室に所属してから、新しくラボに入ったPhDの学生は6人いますが、そのうち2人は修論から所属してPhDへあがり、2人(EU圏内の大学出身)は公募で、2人(ドイツの大学出身)は私のようにPIに直接連絡して面接を経て現在のポジションを得ています。
日本人学生の強み?
正直なところ、当時私が送った拙い英語でのメールを読み返しても、どうして面接をしてもらえてポジションをもらえたのか、不思議です。
(やはり、先人の日本人研究者たちのご活躍によって得られた、日本人に対する信頼が一番大きかったとのかな、と思いますが…。)
ドイツの修士課程のしくみを知った今思い返すと、日本の修士課程を出たからこその強みもあるのかなと思ったので、3つお伝えしたいと思います。
1)主体性と忍耐力
ドイツの修士課程では、ラボローテーション(4つくらいの研究室に3〜8週間ずつ滞在して小さなプロジェクトに従事する。)を行ない、その後、半年間、修論のための研究を行ないます。
ラボローテーションや修論の研究にはポスドクやPhDがスーパーバイザーとしてついて、細かい実験の設定や考察を一緒に行います。
日本の修士では1つの研究テーマで2年間がっつり研究するので、多くの人が、自分の研究テーマでどんな実験をして、結果をどう考察して、次どんな実験をする必要があるか、主体的に考えて進めていくということを経験しているかと思います。
また2年間研究していると、失敗とその乗り越え方を学び忍耐強くなっているのではないでしょうか。そのため、修士での研究が比較的短いドイツの学生と比較して、日本で修士をやった学生の方が研究を主体的に進めていく力が強いと思います。
(ただし、ドイツでも、人によっては、学部から興味のある研究室の教授に連絡をとって研究室でインターンをしたり、修士で1年間海外の研究室に留学、修士論文を1年間やるといった人もいるので、研究経験については一概には言えませんが…。)
また、研究室配属の期間の違いから、日本での修論について発表すると、データの多さでドイツの学生よりも際立ちます。
2)実験経験
上述に含まれますが、2年間の間にいろいろな実験手法を学び、経験していることから、多くの実験手法を身に着けているかと思います。
3)発表経験
日本だと、修士の学生でも学会にでることが多々あると思いますが、ドイツだと修士の学生はあまり学会発表はしません。
日本の学生は、発表の機会も多いため、見やすいスライドを作れたり、研究結果からストーリーを考えて、わかりやすく伝えることができる人が多いのではないでしょうか。
とくに、2年間研究に携わることから、自分の研究テーマへの理解が深く、多くの知識を持っていて、質疑応答の際にも、しっかりした回答を行えるのではないでしょうか。
英語に自信がなかったり、不安要素が多いかも知れませんが、ご自身が思っているよりも、日本で修士をしたからこその強みがあり、評価されるはずです。
もしもドイツいいかも、と思ったら、自信をもって応募してみてください。
ドイツのPhDプログラムの魅力
ドイツ(ヨーロッパ全般?)のPhDプログラムで特に魅力的なのは、Thesis Advisory Committe (通称TAC)と呼ばれる、自分のPI+3~4人から構成される教授陣と自分のプロジェクトについて定期的(8〜12ヶ月に一度)にディスカッションする機会があることです。
TACは、研究者としての能力を審査される、というよりは自分のプロジェクトについて外部の専門家のディスカッションし、意見を貰う機会と認識しています。
TACでは、発表や質疑応答に対する評価やフィードバックだけでなく、プロジェクトの方向性、取捨選択、ストーリ構成、研究の意義、研究結果を論文にまとめるタイミングなど様々なアドバイスを複数の専門家の視点からもらえます。
例えば、私の場合は、イギリスの大学や別の研究科の教授を含めた4人がTACメンバーで、1時間半〜2時間くらいの時間をかけて、次にどんな実験やったら面白そうか、とか、この研究室とコラボレーションしたらどうか、とか、この実験をするにはこの点に注意しないといけない、といった意見をいただきました。
TACメンバーの研究が、基礎か応用か、動物をモデルとして用いるか植物か、ドライな研究かウェットか、どこの国で研究をしているかによって、プロジェクトの方向性や売り込み方、ストーリ構成、考え方が少しづつ違っていて、幅広い意見をもらえるため、大変勉強になります。
また、自分の研究が一般的にどう評価されるかを知ることができ、何よりも、経験も知識も豊富な専門家たちに時間をいただいて、自分のプロジェクトについてディスカッションできるのはとても貴重な機会です。また、PIの指導方法等に問題がないかどうかもこのTACで相談することができ、問題が発生した場合は、TACメンバーが問題解決に働いてくれます。
ドイツのPhDの給料と生活費
ドイツの博士課程は給料がでます。PIの研究費から支払われますが、大学の職員として3年間の雇用契約を結びます。ドイツで生物系のPhDを行うと、多くの場合、50% TV-L 13もしくは65% TV-L 13というグレードの雇用契約を結ぶことになると思います。50%の場合は学生ビザ、65%以上の契約の場合は研究者ビザが必要となります。
TV-L (Tarifvertrag fur den Offentlichen Dienst der Lander)とは、ドイツの公共機関で働く労働者の給料や福利厚生について規定したグレードのことです。ベルリン、ヘッセンなど地域によって同じグレードでも内容が異なります。
一般的に労働契約が50%の場合は週の労働時間が20時間、65%は週の労働時間が26時間という風に換算されます。ただし、PhDの場合は、これらの時間は研究者として労働する時間(例えば、授業や実習などで修士や学部の学生の指導する時間)で残りの時間でPhDを取得するための実験、論文執筆を行う、という考えをするようです。
また、有給はひと月あたり2.5日計算で年間30日とることができます。私のラボの場合、ほぼすべての人が夏と冬にそれぞれ2−3週間の休暇をとっています。使いきれなかった有給日は翌年に繰り越されますが、翌年の9月頃までに使わないと無効になってなくなっていまいます。
また、ドイツは毎年若干給料が増えますが、この仕組みは私もよくわかっていません…。ちなみに、ポスドクの場合もTV-L13ですが、労働時間が100%になります。ジュニアグループリーダーなど特別な責任がある職務につくポスドクはTV-L 14 TV-L15になることもあるそうです。
例えば、50%TV-L13の契約の場合、給料はひと月あたり約2000€ですが、健康保険、税金、年金などが引かれたあとの手取りはおよそ1300~1400€です。65%TV-L13の場合、給料が2600€、手取りが1750~1900€くらいです。
住む地域や一人暮らしをするかシェアハウスに住むかによって大きく変わりますが、ひと月あたりの家賃(+水道・光熱費)は、およそ300~550€、食費が150-300€(普段は自炊していて月に2~3回位レストランやバーで飲食するとした時)くらいかかるので生活に困ることはないくらいの給料がもらえます。
学費は、地域の電車が乗り放題のチケットがついて、半年あたり200€前後です。日本に帰国するための飛行機費用やヨーロッパ内の旅行費用もたまります。
雇用形態はラボやプロジェクトによって異なり、PhDの間は常に50%か65%のところもあれば、1年目は50%、2年目は65%、3年目以降は75%になるところもあります。(後者は、稀なケースのようです。)
雇用契約の期間は大体3年のことが多いですが、多くの人が3.5~4年PhDをやるため、契約期間が切れる前にPIと相談して雇用契約を伸ばしてもらうか、何度も延長ができない場合は、どうにかしてそれまでにPhDを終わらせるということになります。
ドイツでの暮らしについて
どこの国でもはじめは大変かと思いますが、私がドイツで生活を始める時もいろいろありました…。まず、住む場所を見つける方法がわからず、のちにWGGesuchtというサイトやフェイスブックのグループなどを通じた見つけ方がわかったものの、住人や大家と住居を探す人間とのマッチングアプリのようなスタイルで住居を見つけるのはかなり激戦でした。
ドイツあるあるかもしれませんが、移民局の方が親切でなかったり、英語が話せる人でもドイツ語でしか受け答えしてくれなかったり、(一部の公務員はドイツ語で話さないといけないというルールがあるのでしょうがないんですが…)ビザの取得手続きには大変苦労しました。
また、ビザ担当する人によっては、ミスが多くて、間違ったビザを発行されたり、ちゃんと対応してくれなかったりもします。(成績証明書などの個人情報を含む書類を他人に間違えて送られた友人もいます…。)
もしドイツに来られる予定の方がいらっしゃれば、心を強く持って戦いましょう、とお伝えしたいです。権利は強く主張し、相手の間違いはしっかり指摘しましょう、対応してくれなかったら何度も要求しましょう、優しく理解のある人間である必要はないです。
残念ながら、この国では意見を主張しないと損をしてしまうことがあります…。
(でも、もちろんいい担当者にあたることもあるし、同僚となるドイツ人にも親切な人は多いし、EU以外の国出身の外国人は同じ経験をしているので、きっとどうにか助けてくれますよ!)
留学のデメリット?
ドイツでのPhD生活は何から何まで素晴らしい!…と言いいたいところですが、海外生活は、もちろんいいことばかりではなくて、ひどく落ち込むこともたくさんあります。
(初期は特にそんなことばかりでした。例えば、もっと意見言えばよかった、言いたいことがうまくいえなかった、自分は十分にできているのか、と悩んだり、言語が壁となって、日本だと当たり前にできていたことができなくなって落ち込むこともありました。)
他にも、家族や友人の結婚式や出産・病気など大事のときにすぐそばにいれなかったり、食事や文化の違いで嫌な思いをしたり、ストレスを感じたり、差別や偏見を感じたりすることもあります。
でも、どこの国にもいいところと悪いところがあって、自分にとって何が一番ストレスで、何が特に気にならないのか、自分のことをよく知って、その国のことも事前に調べておくとこれらのストレスは比較的小さく留めることができると思います。
もちろん、住めば都というように住み始めればなれてくることもあるでしょう。
これらを踏まえても、私個人としては、ドイツの研究環境や労働環境はとても魅力的だと思っています。
また、研究がうまくいかなくても、給料をいただいて自立して生活していること、ただ生活しているだけでも英語・ドイツ語や異文化を学べていること、専門分野や出身文化が多様な研究者に囲まれてその人達の考え方や仕事の進め方など新しいことを学び、常に成長を感じれる環境にいること、たまに休暇をとって気分転換できること、卒業後に様々な職種につけること、は精神衛生にとてもよい影響を与えていると思います。
何より私は今の生活がとても好きです。
最後に…
最近は、海外の大学や大学院に進学する方も増えているようですが、修士まで日本国内の研究室に所属して、博士課程から海外の研究室や、国内の別の大学の研究室に進学することは、日本ではまだあまり一般的でないのかと思います。(少なくとも私の周りではほとんどいませんでした…。)
私の場合も、当初は所属していた研究室で博士課程に進学する予定をしていたこともあり、海外での博士進学を担当教員に相談した際には、すぐには了承いただけず、先生と何度も話し合いを重ねることとなりました。
(もちろん多方面に迷惑をかけたので自業自得ですし、金銭面の事情も含めて、博士進学を決める前に、もっと様々な可能性について、正直に話せていればよかったな、と反省しています…。)
実験の基礎や研究の面白さを教えていただき、博士課程への進学をすすめてくださった先生方には、今でも大変感謝していますが、当時は、自分の研究テーマの一般的な意義や同じ研究室にずっといることに対する不安、自分よりも年上の学生やポスドクがいない研究室で博士進学して成長できるのか、外に出たほうが学べるのではないか、という疑問から進学を悩んでいました。
残念ながら私には自分の中の悩みを先生に伝える勇気がなく、そのことを言えないまま、ただただ何度も話し合いを重ねる日々が続きました。
そんな風に私が悩んでいた時に、背中を押してくれたのは、留学先のある教授の言葉でした。彼女は、面倒見が良くて人望の厚い、頭の回転が速い、自分もいつか人をマネジメントする立場になることがあれば彼女のようになりたいと思うような、とても素敵な研究者でした。
”You should decide what’s best for you, it’s your life.
He’s not gonna take any responsibilities for your life but you, yourself !”
「あなたの人生なんだから、あなたにとっての最善を選ぶべき。
あなたの人生の責任をとってくれる人はあなただけなんだから!」
お世話になった方々に迷惑をかける、自分勝手な選択、ドイツでPhDやったほうが私のためになるはずだけど周りの人になんて思われるんだろう…そんな私の葛藤を知った彼女はこう言ってくれました。
彼女の言葉は私の心にすっと届いて、何があってもドイツ行こう、と決心させてくれました。他人からの期待や、しがらみにとらわれずに、個々が自分の気持ちに素直にやりたいことをやる、個人主義な国のいいところだなと思いました。
この言葉は、何かに悩んだときには思い出して、いまでも自分の中の大きな支えとなっています。
私の場合は、海外進学を決めたことで、申し訳ないことにも多くの方に迷惑をかけたので、うまく立ち回れなかった自分自身をせめたり、精神的に病んだりしましたが、ドイツへの進学を決めたことは、今までの人生で一番の選択だったと思います。
もしも私と同じような状況に悩んでいる方がいたら、同じ言葉を贈りたいと思います。
あなたの好きなように生きてください、そして博士進学で悩んでいるのならドイツに来ませんか?
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