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日曜は私に嘘を運ぶ2.5 〜追憶〜

※本日1月10日に本編を投稿はずだったのですが、実のところ一文字も書いてなかったので今回はスピンオフ、本編に登場する青年の話になります。
来週は書きますので、許してくださぁぁぁい!


平日の昼下がり。会社員が昼の弁当を求めてコンビニやファストフード店にひしめき合い、学生はそれぞれの学食でワイワイと談笑を交わす中、俺は売店横に設置されている自販機で缶コーヒーを買い、自分で作ったハムときゅうりのサンドイッチを外のベンチで食らっていた。

1週間がたった7日しかないことに俺は小さい頃からいつも疑問に思っていた。もし1週間が7日ではなく例えば10日ぐらいあれば教授に提出するレポートもテスト勉強もなんとかなるし、バイトだって週間的に多く入ることもできる。何故メソポタミア文明の人たちは1週間を7日と決めてしまったのだろうか、、、。
「時間が惜しいなぁ、、、。」そんなどうしようもなく、くだらないことを考えながらコーヒーを啜る。頬を撫でる冷たい風が、妙に身体に寒さを感じさせる。それもそうだろう。青年の周りには男女ペアで昼を過ごす光景が嫌なほどに目に入る。
昔からスポーツ一筋で学生生活を送っていたこともあり、女子と話したこと経験も少ない青年は、大学に入れば自然とそういう機会も増えていくと思っていた。だが、現実はそう甘くはなく今でも友達はサークルの仲間の男だけ。クラスメイトが次々と彼女を作っていく姿に悲観しているわけではないが、正直羨ましくは思っていた。しかし一人暮らしで学費と生活費のことを考えればそこまでの余裕はない。一足先に春が来ているカップルを横目に思わずため息をついてしまう昼休みだった。



「だったら、バイトとかしてみたらどうだ?」太陽が姿を消し、夜の暗闇が世界を包んだ夜7時頃。遅くまでサークル活動をしていた俺は後片付けを一緒にしていた仲間に相談してみた。一通りの片付けを終えて、2人でコンビニでコーヒーを買い、歩きながら相談するとその答えが返ってきた。バイトは高校生の頃に夏休みの期間中ガソリンスタンドでしていた経験はあるが、そのスタンドには女子はおろかおじさんばかりの汗臭い場所で、女性の客が来ても個人的な話ができるわけでもなく出会いとは無縁だった。大学に入ってからは親からの仕送りもあって、勉強やサークルばかりに力を入れていて、バイトなんていう選択肢自体頭に入っていなかった。

「バイトか、、、。でも、この辺じゃあ他の学生とか入ってて定員なんて空いてないだろ?」

「なら、最近流行ってる飯の宅配員とかやってみたらいいじゃん。」
そう言って見せてきた携帯の画面には宅配員の募集はこちら。と書かれたサイトの応募画面だった。
Go eatは最近巷で流行っている宅配のアルバイト。Go eatを利用した客が飲食店に宅配を注文すると、その情報がサイトに更新、宅配員が注文された商品を回収し指定された場所へ届けるというもの。商品の数や移動距離で報酬が変わる完全歩合制のアルバイトで、一日中これをやって稼いでいる人は月収最高100万円を稼いだ人もいるらしい。
学生時代の部活で体力には自信があった俺は、仲間の申し出もありそのサイトに登録してみることにした。
やり方は簡単でサイトで情報を入力後、1週間ほどで配達用のバックが自宅に届くとすぐに配達員として働く事ができる。考えていたよりも簡単な手続きで済んだことに驚いたが、完全歩合制のことを考えれば妥当な登録方法か。と家で1人パソコンを前にぶつぶつと独り言を言いながら登録を進めていた。一人暮らしをしていると話す相手もパソコンや携帯と話すことになり独り言が増える。彼女でもいれば家で寂しい思いをしなくて済む。もしこの先も一人暮らしのままで孤独を感じながら生きていくのかと思うと、今まで感じなかった感覚的な部屋の広さを感じ、寒気で鳥肌が立ってしまう。正直このバイトで何か変わるか疑問ではあるがこれにかけてみるしか今は方法がなかった。

それから1週間後。公式から配達バックが届き、俺はその日からアルバイトを始めた。まずは配達員専用のアプリを使って、この近くで依頼が来るまで暫し待つしかない。長い間待つことになるのかと覚悟はしていたが、その覚悟もいい意味で裏切られる形となった。アプリを立ち上げ5分ほど放置していると早速依頼情報が更新されていた。
「まずは一件こなしてみるか。」大学へ通うために買った自転車に跨り、依頼された店へ向けてペダルを漕ぎ出した。
最初の注文はコーヒーショップでブラックコーヒー一杯とチョコドーナツ2個。ショップに到着した俺は店員に向かって「Go eatです。」と一言言うと、袋に包まれた注文商品を手渡された。見た目でわかるため特に確認をすることなく商品を手渡され店を出る。自分で料金を払っていないせいか、どこか食い逃げでもしているような変な感覚が心に宿る。料金はもう支払われているんだと心に言い聞かせて、受け取った商品を傾かないように慎重にバックに入れて指定の場所へ向かった。
アプリがあるおかげで道に迷うことなく、5分ほどで場所に到着。そこは女子大生専用寮と有名な所で、エントランス前に1人の女子大生らしき女の子がキョロキョロと周りを見渡しながら立っていた。
「あ、ここです!」青年の姿を見つけた女子大生は手を振ってその存在をアピールする。目的地に着いた青年はその姿に気がつき、近づいて依頼主か確認した。
「Go eatです。コーヒーとドーナツを頼まれた方ですか?」

「はい!そうです。ありがとうございます。」華奢な身体に端正な顔立ち。その顔に思わず緊張してしまった青年は商品を手渡たすと、そのまま寮の中に戻っていく後を引き止める事ができなかった。
「あ、、、。やっぱ無理だよな、、、。」下心ばかり先行してやるバイトなんて、、、。とそんな自分の心を責めた。やることはしっかりやる。金を稼ぐことに下心まで介入してはいけないと、一件目にして考えを改め、更なる依頼を待つのだった。

夕方近くまで商品を受け取っては配達しの繰り返しで、1日目にしてはかなり手順に慣れることができた。朝から走り続け、こなした依頼は最後の一件を終えれば10件目になる。
最後はインドカレー屋の配達。場所は少し丘の上にあり、最後の最後でこれか。と少し愚痴を吐きつつ商品を受け取った。朝から昼前にかけては青空が広がっていた空が徐々に灰色の雲に包まれつつある。「早いとこ済ませるか。」
緩やかながらも坂が続く道をなんとかペダルを回して突き進む。疲れがないと言えば嘘になるが、カレーは早いうちに食べて欲しいと気力で漕ぎすすめた。5分ほど坂を登り、目的地に到着。いくら体力に自信があっても10件も依頼をこなすと自然と息も切れる。荒々しい息遣いのまま、邪魔にならない場所に自転車を停め、敷地に足を踏み入れる。
丘の上に建てられたマンションでエントランスに入るとそのマンションの高級さがわかる。ホテルのようなエントランスにはソファが置いてあり、修学旅行で行った観光ホテルを思い出す。事前に依頼内容に記載されていた部屋番号を打ち込み、その部屋に向けてインターホンを押す。スピーカーが作動する音を確認して挨拶をした。
「お待たせしました!Go eatです。注文の品をお届けに参りました!」マンションのエントラスで1人スピーカーに話す姿は、いつも家で1人パソコンや携帯に話しかけている様子と同じで、初めてでも何故か既視感を覚える。数秒のタイムラグを経て、スピーカーから落ち着いた女性の声を合図にガシャと鍵の開く音が響き、中に入るための自動ドアが重く閉ざされたガラスの壁を開放した。
これまた大きなエレベーターに身を預け、部屋がある階まで上がる。降りたら3番目の部屋。そこが最後の届け先だ。少し汗も掻いてしまったが、カレーはまだ温かいまま。安心した俺は改めて部屋に向かってノックで合図した。
扉の向こうでこちらに近づく人の気配。それが目の前に来ると、ゆっくりと扉が開き、中から1人の女性が顔を出した。

「お待たせしました。」そう言ってリュックから注文された商品を手渡す。商品を手に取った女性はカレーがまだ温かいことに笑顔を見せ、俺に目線を合わせる。
「ありがとうございます。」

「では、、、。」商品を渡し、いざ帰ろうとした時だった。
突然怒号のように鳴り響く雷の音。山の向こうで時折光る雲がこちらに向かってゆっくりと近づき、まるで雷が合図になっていたかのように大粒の雨が一瞬にして街を包んだ。
「マジかよ、、、。」疲れた身体にさらに雨の追い討ちでは帰るのはかなり骨が折れる。女性の前だというのに思わずため息が出てしまった。

「当分、、、止みそうにないですね。」

「ですね、、、どうしよう。」

「あの、良かったら雨が止むまで、中で休憩していきませんか?」




これが俺とあの人との出会うまでの話。あの時の俺はこの後あんなことが起きるなんて思ってもいなかった。元々寂しい気持ちを紛らわしたいと思っていたこともあって、ただ求められるがままに身体を任せてしまった。あの人に魅了され、背徳的な感情と官能的な声や表情に制御が効かなくなり、あの人に心を奪われた。
後悔はしていない。むしろこれは運命だと思っている。俺のこれまではあの人に出会うためにあったのではないかと。
雨が降ると思い出す。あの人との雨も晴れないくらい熱い感情の交わりを、、、。



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