読書感想文「井戸川射子/この世の喜びよ」
第168回芥川賞受賞作、井戸川射子さんの「この世の喜びよ」を読みました。まるで詩のようにたゆたう調べと、主人公を「あなた」で綴った物語。読みやすさと読みづらさが同居する、不思議な雰囲気の漂う本でした。
読みはじめて、「あなた」は私であるという錯覚に陥りました。物語が進むにつれ、私とは違う「あなた」の人格を知り、私と「あなた」はだんだん離れていきました。
そして「あなた」が「あなた」の本当の声に目を向けたラストで、私たちは再び出会い、ひとつになったような気がします。
失うことを怖いと思ったり、奥からあふれ出すゆらぎや切なさを伝えたいと思ったり、「あなた」は「少女」に恋をしているようでした。そして私もまた、恋する気持ちを「少女」に抱きました。本当の「あなた」を疎まず、認め、近づいてくれた「少女」。彼女のたくましさと儚さが、とても魅力的でした。生命がキラキラと輝いていました。
完璧でなくとも自分を生きている人は素敵だな、と改めて思わされました。できることなら私も素敵な人でありたいし、この世にいる皆が自分の望む人生を生きられますように、と願ってやみません。
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