#50 札幌の「1LDKベランダ育ち」の微生物が地球を救う。/株式会社komham 西山すのさん #BOSSTALK(廣岡俊光)
北海道を愛し、北海道の活性化を目指すボス達と北海道の未来と経営を楽しく真剣に語り合う「BOSS TALK」
今回のゲストは株式会社komham 代表取締役 西山すのさんです。
独自開発の微生物で生ゴミ分解システムを提供する、注目のディープテック・スタートアップ経営者、西山さんに話を伺いました。
■「こういう人たちと働いてみたい」西山さんが起業にいたるまで
―― 会社名にもなっている“コムハム”とは何ですか?
生ごみや有機物を高速で分解する、複数の微生物の配合技術のことです。
―― 家庭でも導入が増えている”コンポスト”とは違うものですか?
技術としては全く同じです。家庭用のコンポストは時間をかけて分解して堆肥にしますが、弊社では、焼却処理の代替となるインフラを作ることを目指しています。
処理スピードが1日~3日と速く、さらに通常だと生ゴミの半量程度が残ってしまうところを、コムハムは2%まで抑えることができます。そのほとんどは、二酸化炭素と水蒸気に分解されます。
―― 西山さんのご出身は?
1987年生まれ、北海道・苫小牧市出身です。札幌市の高校へ進んだ後、立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)に進学しました。学生のうち半数が留学生というちょっと変わった学校でした。
―― 大学ではいまの仕事につながるような研究をされていたんですか?
いえ、理系の学部がない大学で。特に一生懸命勉強した記憶はありませんね(笑)。ただ学生の半分が留学生ということもあって、今まで当たり前だったルールや文化がまかり通らないところで生活をしていたので、予期せぬことが目の前で起きることへの免疫力は大学時代に育まれたと思っています。
―― 大学卒業後は?
卒業後「これがやりたい」という目標が見いだせず、職を転々としました。その中で「こういう仕事がしてみたい」は無かったけれど、「こういう人たちと働いてみたい」と感じた広告代理店に運よく就職することができたんです。
そこでジョイントベンチャーという形で、スタートアップの立ち上げなど、様々な経験を積みました。そのうちに、自分で事業のハンドルを握って運転してみたくなったことが起業のきっかけです。
■ 微生物を活用した「ディープテック・スタートアップ」の芽は身近なところに…?
―― 起業するにあたってどこから手をつけたんですか?
広告代理店でPRやブランディングを行っていたので、「スタートアップと言えばIT」みたいな起業ではエンジニア出身の社長には勝てないと思い、最初から考えていませんでした。社会にインパクトを与えられるのは何かと考えたところ「ディープテック」に注目しました。
私の父が、15年前、私が大学に入学する頃から「微生物に生ゴミを分解させて堆肥を作る技術」を販売し始めていたんです。考えてみたら「これはディープテックだな」と。社会にインパクトを与えられるし環境にもいい。父に「継ぎたい」という話をしました。
―― 一番身近なところにディープテックの芽を見つけたんですね。
そうですね。ただ正直「お父さんは、怪しい微生物を売っている・・・」と大学生の頃は思っていたので、父の会社を継ぐなんて全く考えてもいませんでした(笑)。父もおそらくびっくりしたと思います。
「もし私が会社を継ぐのであれば、別会社として、スタートアップとして経営をしたい」という私の意向を父に伝えました。私が株式会社komhamを立ち上げて、親族間の慣れ合いなく、企業同士の話で"技術を継承する"という形で引き継ぎました。ゴリゴリの契約書も締結しました(笑)。
――家族だからこそ分かり合えるところと、なれ合いになりたくない気持ち。いま振り返るとどうだったんでしょう?
おそらく、父は一緒に仕事をしたかったのではないかと思います。私自身、父から溺愛され育った自覚があるので、父は私の言うことにNOと絶対に言わない、という関係性ができあがっていました。
事業を進めるうえで、私がその部分に甘えてしまうと、事業が成長していかないだろう、と考えて、覚悟を決めて起業しました。
■ 外から見ると"ごみ屋敷"!? 札幌のマンションのベランダ…真冬の実験
―― 西山さんご自身が研究職ではないところから“コムハム”を商品化するまでの道のり、大変だったのでは?
大変でした。第一に、”研究者”に会ったことがなかったので、研究者探しから始めました。運よく出会えたんですが、次は研究をするための場所がない。資金がないのでラボを作ることもできない。
最初は札幌市内の1LDKマンションのベランダにテントを張って、冬場は電気毛布で微生物を温めて、人間は極寒の中でずっと作業をしていました。
"ベランダラボ"です。外から見るとゴミ屋敷のようで、「いつ通報されるか」というヒヤヒヤとともに最初の1年間は過ごしていました(笑)。
―― すごく手触り感のあるところから始まっているんですね。
本当にそうですね。当時は「ドクター資格を持っている研究者に、一体何をさせているんだ」という申し訳なさがありました。
ただ、今その研究者とその頃をふり返った時に、あの時間があってよかったと言ってくれるんです。「ラボでの実験とは異なる、実際に手ざわりのある経験があるのとないのとでは全然違う」と。
論文を書くための基礎研究ではなく、商品化するのが目的。手の感覚がなくなってしまうような真冬に外で実験したという経験はすごく貴重だった、と。そのことばに救われています。
■ 今夏にも販売開始…「“子ども”送り出す気持ち」
―― コムハムを使ってのビジネス展開について教えてください。
2023年夏から販売開始予定の、ソーラーパネルの電力で自動駆動する「スマートコンポスト」を作っています。AC電源を必要としないソーラー発電なので、環境負荷を限りなく少なくゴミ処理が可能になります。
導入した企業や自治体が、実際にどれくらい環境負荷を抑えられたか定量で見ていただきたいので、生ごみがどれくらい入ったか、通常の焼却処理と比べて温室効果ガスがどれくらい抑えられたかを観測できる機能を設けた、箱です。
―― 実際に導入した企業や自治体は?
まだ販売開始前なので実証実験ですが、自治体や企業に導入しています。東京の渋谷区では、街の中にスマートコンポストを配置して、皆さんで生ゴミをエサとしてあげにいくという実証実験を行ないました。
また、札幌市内では2022年10月に開催されたNomapsのイベント内で、飲食店から排出される生ごみを全量コムハムで処理する実証実験を行いました。
―― コムハムがいよいよ世の中に出ていくのはどんな感情ですか?
もちろんうれしいです。自分は親にはなったことはないですけど、独立する子どもを送り出すような気持ちに近いんじゃないかなぁ、と。創業から3年が経ちますが、コムハムのことばかり考えて、コムハムが一番の生活でした。
信じてお金も相当かけてきたコムハムが、ちゃんと働いてくれるんだろうか。働いてくれるだろうという確信を持ちつつも、「がんばって、いってらっしゃい」みたいな気持ちですね。
―― 世の中にインパクトを与えたいという思いから起業されて、これからどのような反応があると「やっていてよかった」と感じるんでしょうね?
分かりやすい反応はなくていいかなと思っています。環境に関する取り組みは、割と参入のハードルが高いものがほとんどなんです。
結果として、みんなが気づかないうちに日常生活の中に、私たちの技術も含めて仕組みや技術が使われて、いつの間にか環境にいい生活ができている、そんなインフラを作れればいいなと思っています。
ヌルッとやりたいです(笑)。で、いつのまにかここの街はこれだけ環境負荷を抑えられているんだよと。結果として、地球にも社会にもインパクトがある形で残ればと思っています。
■ 「誰にも頼まれていないけど持っている使命感」
―― 会社のこれからはどう展望していますか?
環境関連の取り組みは、一世代で途切れるものではないと思っています。私の世代でせっかく引き継いだので、できる限りトライし尽くして、失敗もたくさんして、次の世代がより良いものを作れるような結果を残していきたいです。
―― スタートアップの方に話を伺うと、自分たちの商品がまだ世に出ていない段階でも“次につなげること”を語れる。これって何なんでしょう?
『誰にも頼まれていないけどある“使命感”』でしょうか。スタートアップの友人・社長みなさんに共通しています。誰にも頼まれていないのに皆さん使命感を持っているんです。
じゃあ、なぜそれを自分が持てているのかというと、そんなに立派なものでもなくて、起業していろいろな人がサポートやアドバイスを沢山いただいて、”中途半端に終わらせたくない”。自分も時間もお金もリスクもとってきているので、その分成果として出したいという思いが源です。
―― 北海道には今後どのように関わっていきたいですか?
正直コロナ渦がなかったら北海道での起業は考えていなかったです。いまは帰ってきて本当によかったと思ってます。
北海道は豊かな自然環境が当たり前のようにすぐそばにあるので、変化も分かりやすい。他の場所で生活している人よりも、環境問題を机上で話しているのではなくて、実体験として話される方が多いです。
komhamの技術が北海道で広がって、ロールモデルとなる場所になるといいなと思っています。
■ 編集後記
スタートアップという言葉が纏う、世の中の課題に立ち向かう若手経営者のキラキラとしたイメージ。目の前の西山さんから語られた「ベランダラボ」のエピソードは、それとは正反対の手触り感のある泥臭いものでした。
人は誰かに頼りにされたり、ポジティブな声をかけられると、人は誰だって力強く自分のちからで、目的地に向かって進むことができる生き物です。
誰にも頼まれていないのに、そこに向かって邁進できる熱源を持っているスタートアップ経営者の皆さんは、私たち誰もが持っている人としての力強さを、ビジネスの分野で発揮できる場所を見つけられた存在。西山さんの話を伺いながら、そんなことを思ったりしました。
<これまでの放送>
#49 【株式会社 創伸建設】代表取締役 岡田 吉伸さん
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