闘う日本人 4月 新入社員
このショート小説は、約5分で読める
ほんとにバカバカしいショートショートの物語です。
日本人は頑張っていつも何かと闘っている。
そんな姿を面白おかしく、そして少し風刺も入れて書いたものです。
今月は4月の闘いで新入社員がテーマです。
昭和生まれの林部長とZ世代と新入社員ではどうも歯車が合わないようです。
それでも林部長は時代と闘うのです。
大丈夫です!
「花岡君。わからないことがあったら何でも聞いてね」
林部長は先日入社してきたばかりの女性社員の花岡に、やさしくそう言った。
パソコン画面を見ていた花岡はチラッと林の方を見て、
「あっ、大丈夫です」
と笑顔で言った。
林は期待していた答えと違っていたのか、少々拍子抜のような感じで
「あ、そう。じゃあ何かあればまた・・・・・・」
そう言ってそそくさとその場を離れ、いつものリフレッシュコーナーに行った。するとそこには部下の鈴木がいた。
「部長、どうされました。何か考え事でもされていますか」
鈴木はいつもの豪快な林の姿ではなくて、どことなく納得のいかない顔つきでいる姿を見てそういった。
「なあ鈴木。『大丈夫です』ってどういう意味だ?」
「大丈夫です・・・・・・ですか?」
林は鈴木に先程の花岡とのやり取りを話した。
すると鈴木は何でもない顔をして、
「ああ、それはとりあえず何もないって言うことでいいんじゃないですか」
と言った。
「だったら、『特に何もありません』とか、普通は上司から言葉を掛けられたのだから「『ありがとうございます。お気遣いなさらないで』とか言うものじゃないのか」
そう言われた鈴木は少し上を向いて
「確かにそう言うのが正解かもしれませんね。でも『大丈夫です』は万能な言葉ですから便利なんですよ。確かに今の若い者たちは結構使いますよね。僕も使います」
「そんなものかね」
林は、そう言われても納得しない感じだった。
そしてとりあえず自販機でコーヒーを買うした時、鈴木の方を見て、「鈴木君、たまにはコーヒーでもおごろうか」と声を掛けた。
すると鈴木は
「コーヒーは大丈夫です」と言った。
林は再びサッと鈴木の方を見て
「だからその『大丈夫です』って言うのはおかしくないか?俺がお前におごろうかと言ったんだから『ありがとうございます。でもコーヒー以外でお願いします』とか『ありがとうございます。それでは頂きます』とか言うものじゃないのか?大丈夫ですじゃ、何が大丈夫ですのかわからないじないか」
「いや、コーヒーさっき飲みましたから、それ以外のものを頂こうと思ったのですが伝わりませんでした?」
「伝わらん。全く伝わらんよ」
それを聞くと鈴木は困ってしまった。
「一体どういう時に『大丈夫です』を使うんだ?」
鈴木は少し考え
「まあ、その場の空気と言うか文脈と言うか、そう言うものの中から解釈するしかないんですよ」
「雰囲気っていうことか?」
「まあそう言えば、そうですが」
「それじゃ若者が使う『大丈夫です』とは相撲取りが使う『ごっつぁんです』とか、空手家や応援団が使う『押忍』と言うのと同じ意味なのか?」
「いや・・・・・・それは良くわかりませんが、そもそもお相撲さんや空手家なども今頃はそんな言葉は使わないんじゃないですか」
鈴木はややあきれ顔で言った。
「本当に今頃の言葉はわからない。言葉だけじゃなくてハラスメントなども含めて、何もかも変わってしまって時代について行けない」
林は頭をぐるりと回しながら、今の世代の人たちをどう扱って良いのか、本当に悩んでいる様子で言った。
しかし鈴木はそんな林の気持ちが理解できない感じで、
「そうですか。なかなか部長には解釈しがたい事なんですかね?」
「そうだよ。本当に難しい。頭がクラクラしてきた」
そう言って林は近くのテーブルに寄りかかった。
鈴木はそれを見て心配そうに
「部長、大丈夫ですか?」と聞いた。
林はそれを聞き、鈴木の方を振り返って言った。
「大丈夫です!」
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