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「好きなことを仕事にする」のが不安になった話


「趣味と仕事が一緒なんです」

なんて台詞を、数年後には屈託のない笑顔で言えるものだと思っていた。


「好きなことを仕事にしている」と言う人達はいつだってキラキラしていて、1番幸せそうに見えた。

私は幸いなことに小さい頃からなりたいものがあったから、大学生となった今も建築学科に入って好きなことを追いかけることができている。



去年の冬、かねてから志望していたゼミに入りました。そこでは主に、哲学的な観点から建築やデザインを考える、と言う研究をしています。(私の投稿にやたら哲学書の引用が多く出てくるのはそういうことです笑)

実際このゼミが楽しくて楽しくて。先生は海外でも活躍されているため各界に知り合いも多く、本当に色々な考え方を私たちに示してくださいます。

「美しさ」とはなんなのか?

われわれはどんなものに「美しい」と感じるのか?

答えのない問題について大学生、大学院生、教授、みなが熱を持って議論しています。

去年からこの議論に参加していた先輩方はみなさん各方面の哲学論に精通しており、前から人の知覚や思考について考えるのが常だった私は喜んでこの研究に参加しました。

そんなわけで最近は様々な哲学書やら歴史書やらを読んでいます。ただこれらの書籍は難解で必要な背景知識も多く、何度も読み返しては自分なりに読書メモとしてまとめつつ読み進めているところです。


毎週行われるzoomゼミではこの読書メモをもとに、前述したテーマに必要な部分をピックアップしながらより専門性の高い議論を展開します。

そしてついこの間、前期分の締めくくりとして、まとめ資料を提出するということになり、私はある小テーマについての資料を任されました。

その小テーマはまだ議論では詳しく紹介されていないものでしたが、今回の話の流れ上避けて通れないため、書籍を軽く調べてまとめよう、とのことでした。私もそれについては賛成で、自分自身調べたいと思っていたことでもあったので二つ返事でOKしました。

さて、そんなわけでまだ未開のテーマについてゼロから取り組むことになったわけですが、なにせやはり参考書籍が難しいったらありゃしない。

わかっていたんですけどね。笑

それに、そういった難解な文章やまわりくどい理論たちは理解できると面白いですし、読み解けるたびに新しいことが知れたり、常識を覆されたり、いずれにしろ自分の中に貴重な財産として蓄積されていくと思うととても気分がよく、楽しいです。


「人生の夏休み」なんて言われる大学生が研究を楽しい楽しい言っていると怪訝な目で見られそうですが、この時の私にとっては他の遊びとかバイトとかと比べても、本と睨めっこしている時間が何より充実しているように思えたのです。


「好きなことを仕事にするってこんな感じなのかな?めちゃくちゃ幸せじゃん」とウキウキしながら(笑) 毎日取り組んでいました。


しかし研究にしろ仕事にしろ、提出期限は必ず来ます。

提出前日、資料は95%ほどまとめ終わっていましたが、その時に新しい参考資料を見つけてしまいました。しかもすごく重要そうな。

これも載せたい...!と思いましたが、明日までには読書メモどころか読み終わることさえできない...。しかも今やっている5%分を終わらせるのにあと3時間かかるぞ。

泣く泣くその参考資料は諦めました。まあ明日に間に合わなくてもその次の時のゼミで出せるようにしておこう。


翌日提出し、今後のスケジュールが発表されました。

「今日から夏休み。後期は卒論と卒業設計だから議論は一旦ここで一区切りです」

え。夏休みなんてあるの。


取り上げられた、と思いました。


無理をしてでもあの時やっておけば、という後悔もありました。大袈裟と思われるかもしれませんが、楽しくてノリノリだった私にとっては結構えぐられる出来事でした。

実際休み中に勝手にやってもいいんですが、人の目に出す機会がないとなると資料を作る手にも力が入らなくなりました。


「好きなことを仕事にする」とは、

「どこまでも追い求めたいと思っても、いつか必ず取り上げられる」こと


そう思った時、「趣味を仕事にする」というのがいきなり怖くなりました。満足しないものでも途中で手放さなければならない。未完成というレッテル、その悔しさに、何度も耐えなければいけない。


大丈夫なのか?


建築というクリエイティブな職業の道を歩く私にとって、「突き詰められてない」とか「必要最低限のことだけ」なんてものを世に出す屈辱はなかなかに耐えがたいものです。

もちろん他の仕事もそうだと思います。経営、エンジニア、演劇、... まだまだ沢山ありそうですが。


好きなことを仕事にして立派にこなしている世の中の多くの方々はそこの折り合いはどう付けているの?

...という不安でいっぱいな、いち大学生の独り言でした。


では。

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