真夏と真昼に見た夢


(淳史)誰かに呼ばれてる。ああ、でも気のせいかもしれない。とりあえずなんにも考えたくないくらいに頭が痛いよ。昨日は何してたんだっけ?あんまり覚えてないけど、確か宅飲みしてたんだと思う。喉が渇いた。水が飲みたい。  

(夏乃)うう、頭痛い。ここはどこだろう。木目が見える見知らぬ天井ってこのことでしょうか。こんなよくわからない所で綾波レイと碇シンジくんの気持ちが分かるなんて、思ってもみなかった。  

(樹)いつもの見慣れた部屋。でも、どこか違う。いや、誰かいる。なんでだろう。昨日の事を思い出そうとしても頭の中はもやもやして、それを拒否してる。待って。ちゃんと考えよう。ここは僕んち。それだけは確かだ。  

 (淳史)とりあえずコップ一杯の水を飲みたい。あった。一息で飲んで、吐き出す。これは水じゃなくて焼酎だ。最悪だ。これはもう最悪だよ。下にはペットボトルの大五郎が転がってる。せめて金宮にしてくれよな。 

 (夏乃)やっと身体が動いた。頭の中では何故か魂のルフランがループしてる。私に還りたいけど還れないの。アスカもシンジも還れなかったじゃん。それと同じ。酔いは思考力を低下させるんだね。知らなかった。  (樹)確認したら、男と女が1人ずついる。でも全然知らない人。待てよ。少し思い出してきた。昨日は6人で飲んでた。大学の友達の一樹と茜、2人の友達と僕の高校の友達、美智。散々居酒屋で飲み明かして終電も無くなった後に、近かった僕んちに来たんだ。 

(淳史)金宮ならこんなに酔わなかったのに。てかここ何処だよ。知らないよ。昨日は一樹の友達と飲むからって、居酒屋で安い日本酒とワインをチャンポンした。その後は覚えてないけど、ここで飲んでたことくらいはわかるくらいに散らかってる。スナック菓子の空袋、散らばった空き缶。 

(夏乃)いつもはこんなに飲まないのになあ。楽しかったんだろうな。茜の友達はみんな良い人だったよ。特に美智ちゃんは、かわいくて優しくてお酒も飲めて気配りもできる。あんな女性になりたいな。 

(樹)とにかく暑い。なんで二人とも僕のTシャツを着てるんだろう。そのランシドもスメルスライクティーンスピリットも結構大事にしてたんだけど。いや、イレギュラーは仕方ない。でも確かなのはここが「僕んち」だってこと。なんとか説明しないと。 

(淳史)一樹はいないか。そういえば今日授業があるとか言ってたな。いや、俺も授業あるじゃん。あいつは俺を置いて勝手に行っちゃったのか。冷たいな。でもいっつも「自己責任だよ」って言ってるもんな。仕方ない。まずはこの空間を何とかしないといけない。こいつら誰だっけ? 

(夏乃)このTシャツなんだろう。赤ちゃんが泳いでる。水の中って危ないんじゃない?でもやけにすました顔しているからまあいいのかな。そういえば今日バイトじゃなかったっけ?今何時?12時。12時か。バイトは確か15時からだったよね。 

(樹)参ったな。2人共起きてるけど、どうしていいかわからないから無言。男の子はむっつりしてるし、女の子はTシャツを凝視してる。でも僕んちだからね。お客様はちゃんともてなさないと。 

(淳史)2人とも意識はあるみたいだけど、黙りこくってる。いや、本当にこいつら誰?言っておくと、クソ頭痛いこの状況で、全く知らない人と話せるほど俺のメンタルは回復してない。でも無言の時間は嫌い。 

(夏乃)そろそろ頭もはっきりしてきたし、帰ってもいいのかな。でも、ここがどこかも分からないから、電車も調べられない。飲んでたのは上野だった?じゃあ、ここはどこだろう。 

(樹)2人ともちゃんと意識はあるみたい。でも、どうしていいかわからない感じ。それはそうか。だって、僕の家だけど、2人にとっては知らない家なわけで、なんなら見たこともないTシャツ着てるんだから。 

(淳史)ところでこのTシャツのモヒカンは誰だ。ああもうわからないことだらけだ。大体3人もいて、昨日は飲んでたのに、誰も何も喋らないなんておかしいだろう。誰か少しくらい覚えてないの?この気まずさはなんか嫌だ。 

(夏乃)誰か喋ってくれないかなあ。私は着替えなきゃいけないと思うんだけど。2人とも何か言いたそうなのに。茜の友達?美智ちゃんはどこいったんだろう。ぐるぐる回ってるけど、全然わからないから誰か説明して。

(樹)いつまでもこうしてても何も始まらないから、ここは家主の僕が話さないと。頭を整理しよう。とりあえず名前の確認と誰とどういう関係なのか。 

「・・・あの、お二人とも大丈夫ですか?」  

「ここはどこだよ」「あの、最寄駅どこですか?」「一樹の友達?」「茜はどこ行ったんですか?」「なんでここにいんの」「美智ちゃん帰ったんだ」「あ、Tシャツは僕のです」・・・ 

 矢継ぎ早に、堰を切ったように喋りだす3人。この後、3人は頭と状況を整理して、それぞれの帰路につくのか。また飲むことはあるのか。それは誰も知らない。ってくらいにありふれていた、少し前の大学生の日常。 #2000字のドラマ

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