君の名は、イボンヌ。
君の名は、イボンヌ。
イボンヌは、パリジェンヌではない。
かと言って、パリジャンでもない。
まして、タカラジェンヌのはずがない。
イボンヌは、洒落た着こなしも、自由気ままさも、華やかさもない、ただのイボのことだからだ。
ただのイボにもかかわらず、イボンヌなどとこまっしゃくれた呼び方をしているのには、それなりの訳がある。そこには自虐と私怨が、たっぷりと込められている。
聞いてくれるか、その訳を。
結論を言っておこう。
これは、わたしとイボンヌの闘いの記録である。長きに渡る虐殺と殺戮の記録とも言える。世界三大ジェノサイドに加えられるかもしれない。
嘘です。加えられることなどないでしょう。
のっけから大仰に書いてハードルの高さを上げてしまい、わたしは、すでに後悔し始めている。たぶん、自分で上げたハードルを飛び越えることはできないだろう。わかってる。
わたしにそんな文筆力はない。せいぜいHBのシャーペンの芯の硬さ程度だ。調子に乗るとすぐに折れてしまう。ポキ。
それでも書かなければならない。
この世界の片隅に、イボンヌに苦しむ物がひとりでもいる限り、わたしは書かねばならないのだ。
いけない。ひとりで熱くなってしまった。すごく恥ずかしい。なので、ここは読まなかったことにして欲しい。この通りだ。
ここまで読んで、なお、このくだらないの先へ進む勇気がある猛者がいるなら、しばし、わたしとイボンヌの闘いにお付き合い願おう。
はじまりは、こうだ。
またの名を、パピロー。
_202X年。世界は抗生物質の錠剤に溢れていた。水は浄化され、土は除染され、全ての菌類が死滅したかのように見えた。だが、ウイルスは死滅していなかった。
彼らは人類の隙を見ては、人類の身体への侵入を試みた。生き残るためだ。
最初は上手く行かなかった。
彼らにとって人類はあまりにも違い過ぎた。ある者にとっては強靭過ぎ、ある者にとっては脆弱過ぎた。それはつまり、彼らか人類か、どちかの死を意味した。
生き残った者たちが次の世代へと繋いだ。
彼らは時の旅人となった。
悠久の時が過ぎ、やがて、両者は共存するようになった。それは、互いが手を取り合うというより、互いの生きたいという強い衝動の均衡点の上に成り立っていた。それでも、共存していることに違いなかった。
いつしか、人類は、共に生きるそのウイルスを受け入れ、名前をつけた。
『ヒトパピローマウイルス』と言う名前だ。
1982年、ドイツ人のシャウエッセン氏により発見された。(きっと、彼の好物は塩漬け肉の腸詰に違いない。)
これは古代神話語で『人類とウイルスの共生を願う』という意味である。
どちらも嘘です。そんな記述はどこにもありません。
この短い間に、何度も嘘を書いてしまうわたし。どうかしてる。
もしかすると、わたしの頭のなかで、ヒトパピローマウイルスが悪戯をしているのかもしれない。恐るべし、パピローマウイルス。
いや、ヒトパピローマウイルス!
さきほどから、ヒトパピローマウイルスを連呼している自分に、はたと気づく。もしや、これは、ヒトパピローマウイルスの作戦なのでないのかと。だって、無性に書きたくなるの。
ヒトパピローマウイルス。
ヒトパピローマウイルス。
何だか言いたくもなってきて悶々とする。
思い切って声に出してみる。
ヒトパピロ〜マウイルス〜。
ヒトパピロ〜マウイルス〜。
ん?ちょっと違うな。
ヒ〜トパピロ〜マウイルス〜。
ヒ〜トパピロ〜マウイルス〜。
これだ。石焼き芋でおなじみの拡声器調がしっくりくる。
おおきく息を吸い込んで、できるだけビブラートを効かせる。α波でるやつ。
たちまち主婦が集まるだろう。そのなかには財布を忘れるゆかいな姉さんもいるだろう。
恐ろしいことに、はたと気づく。
これは、ヒトパピローマウイルスによるmeme化戦略なのではないのかと。それは、我々の頭から頭へと伝染していく。
その目的は、たぶん、ヒトパピローマウイルスのヒトパピローマウイルスによるヒトパピローマウイルスのための
人類家畜化計画。
次々と現れるヒトパピローマウイルス(以後、パピローと略称する)の使徒たち。第一の使徒はアダムと呼ばれるだろう。
仮にそうだとしたら、わたしはすでに感染していることになる、、、寒気がする。ブルッ。
もし、あなたのまわりにヒトパ、、、この言葉を連呼している人がいたら、どうか、言ってやって欲しい。
いますぐ皮膚科に行きなさい、と。
家畜化計画は着実に進められている。
どうやら、パピローなわたしの理性がまだあるうちに、話を進めた方がよさそうだ。
パピローと人類、両者のバランスが崩れ、我々の皮膚が劣勢を迫られたとき、姿を現すものがある。
イボだ。
医学的には『尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)』と呼ぶらしい。しかし、わたしのパピローな頭では理解が追いつかない。だから、イボの方ではなしを進める。
でも、イボ、だといかにも、イボらしくイボイボしいイボ感が際立つたので、わたしは、それを、イボンヌと呼ぶことにした。
と、こういう訳だ。
ようやく話を進める準備ができたわたし。
そうだ、皮膚科へ行こう。
わたしの通院する皮膚科は評判が良い。
診療時間の30分前にも関わらず、10人以上の列が目視できる。装備万端で並ぶ人々。人知れず皮膚の悩みを抱えた者たちは、みな、同志だ。
ひとりじゃないから〜
わたしがきみを守るからあ〜
こぶしを握りながら、心の中でエールを送る。
無論、ら行の発声は、巻き舌で。
きっと、これも、わたしの頭のなかのパピローの仕業に違いない。
やがて、診療時間となり、皮膚科のドアが開く。
マイナス196度の、ジュッ。
基本的なことを話しておく。
初診の日、わたしの指先の疑わしきソレは、晴れてイボと診断される。そして、治療方針が決められる。
主治医Sから、『凍結凝固法』という治療法が提示された。
経験豊富であろう初老の主治医Sは、いかにも慕われる医師という風貌だ。
必要最低限な説明と、患者に安心感を与えるやわらかな微笑みに、すっかり、わたしも虜になる。ビリーブな瞳でわたしは言う。
「先生にお任せします♡」
治療法が決まる。これは、イボにマイナス196度の液体窒素を当て、患部の細胞を凍結・壊死させて取り除く治療法である。
一般的には、綿棒のようなものに液体窒素を含ませ、その先端を幹部にあてる。何度も何度もあてるのだが、これが、また痛い。採血や予防接種などより遥かに痛い。
誰でも一度くらいは火傷の軽減があるとおもうが、それがまったく同じ場所に何度も繰り返されることを想像してほしい。おもわず顔を背けたくなるだろう。
ジュッ(アチッ)←ここはまだ無表情を貫く。
ジュッ(アッチッ)←やや顔をしかめる。キレてないですよ。
ジュッ(アーオウッ)←苦悶の表情を浮かべる。
ジュッ(ふぐっふぐっ)←泣きたくないのに泣きそうだ。
ジュッ(ア゛ア゛ア゛ーッ!!!)←阿鼻叫喚。
初めてこの処置を受けたときは、いつ終わるとも知れない拷問のような時間に、永遠を見た気がした。
時折、自分の番を待つ間に、診察室のなかからこどもの泣き叫ぶ声が聞こえることがある。
最初のうちは、まだ、嫌がる言葉が聞こえるが、途中からその声は、こどもとは思えぬ声に変わる。闇のなかでしか生きられぬもののけの咆哮と慟哭。
わかる、わかるぜ、ボーイ。
わたしは大人だが、その声を聞く度に、逃げたい気持ちが勢いよく膨らみ、はち切れそうになる。
いつしか、処置を終えて診察室から出て来たそのこどもに、わたしはあらん限りの慈悲と尊敬の目を向ける。汝に罪なし。
イボが、わたしを、少しだけ優しくさせてくれました。アーメン。
君の名は、メトロノーム男。
何度も通う内に、気づいたことがある。
実に様々な患者がいるということだ。
皮膚科には、その患者の数だけ、イボとともに繰り広げられる人間ドラマがある。
その男は、突然、やって来た。
小さいながら、規則正しい音を立てながら。
カッ、カッ、カッ、カッ。
メトロノーム男。
後に、わたしは彼をそう呼ぶことにした。狂ったかと思われたかもしれない。大丈夫、これがわたしの平常運転だ。むしろ、少しくらい狂っていた方が、パピローなわたしには具合がいい。メトロノーム男もいることだし。
だからと言って、作り話をする気はない。
無い袖は振れない。
その代わりと言ってはなんだが、話を少しばかり盛ることは許して欲しい。忖度、プリーズ。
あれは何度目の通院だったか。
初めて彼を見たとき、彼は普通の男に見えた。
その日も、皮膚科は混雑していたため、待合室の長椅子は次々と埋まっていった。
一人、また一人と、受付を済ませた患者が空いている場所を探し、腰掛ける。徐々にスペースがなくなると、気遣いのできる者が、右左どちらかへ寄り、腰掛けられるスペースを提供する。ここには、イボを有する者だけが持つ思いやりがある。
わたしも右にずれる。左側にささやかなスペースを空ける。彼が、ホッとした表情を浮かべ、そこへ腰掛ける。その際、わたしへ向けて控えめな礼をしたように見えた。どういたしましての意を込めて、わたしは軽く顎を引く。いい感じだ。
彼は座るや否や、スッと目を閉じる。
ここから事態は一変する。
男は、まるで、二十二世紀から来たネコ型ロボットを欲望のままに使い倒す少年のように、寝入ってしまう。
スン。
この静寂は警戒に値する。何かが起きる兆しだ。
わたしは得体の知れる何かを刺激しないように、目だけで周囲を見回す。
何だ? 何か起きようとしている?
わからない。気のせいか。ホッと胸を撫で下ろしたその時だ。隣の、男が、揺れ始める。
最初は、かすかな揺らめきだった。
右、左。
右、左。
隙間なく埋め尽くされた長椅子の上で、彼は、右、左と上体を揺らす。それは少しずつ、しかし確実に振幅を広げていく。大きなスウィングだ。
彼の頭が右へ傾く。
いまにもわたしの方へ触れそうな距離まで近づく。危ない!
しかし、触れない。
すんでのところで、彼の頭はピタリと止まり、逆側へ向かう。スウィングして粘るベースラインのようだ。
同じように逆側でピタリと止まった頭は、再びわたしの方へやってくる。そして、また、逆側へ。規則正しいリズムを刻む。
カッ、カッ、カッ、カッ。
おわかりいただけるだろう。
それは、まるで、メトロノームのようだ。そうか、この男は、ただのイボ男ではなかったのか。
彼は、メトロノーム男だったのだ。
恐怖に打ち震えながらわたしは思った。
いっそのこと、あなたのそのメトロノームの先っぽで、わたしのイボ、、イボンヌを押し潰してくれないかと。
君の名は、えずく中年女。
赤ちゃんはえずく。
それは不要な物を体の外へと吐き出す練習のようなものだ。定型発達と呼ぶ。
簡単にいえば、ちゃんと成長してますよ、と言うことだ。
だから、市中で、赤ちゃんがえずいていたとしても、さほど注目されることはない。もちろん、人類が備える母性本能をもきゅもきゅさせて注目されることはあっても、えずきがもきゅもきゅさせることはない。
これが、成人した人類にあっては、事情が異なる。
その女は、えずきながらやって来た。
人類ヒト亜属に属する中肉中背中年期の女性だ。便宜上、中年女と記す。
その日、わたしは診察時間前に到着した。いつものように、列に並ぶ。幸運にも、前には4〜5名ほどしかいなかった。何だか、いい日になりそうだ。わたしは、そんな気持ちで並んでいた。
、、、、、グェッ。
遠くで微かに聞こえる、生き物の声。
、、、グェッ、、グェッ、グェッ。
その声は、着実に近づいてくる。
感染症対策のためストッパーで半開きのドアの向こうから姿を現したのは、野鳥、、、ではなく、孔雀のような柄のブラウスを纏っ、、、着こなした、えずく中年女だった。グェッ。
幸か不幸か、彼女はわたしの後ろに並んだ。
しかし、えずきは急に止まらない。グェッ。
診察時間までにはまだ10分以上ある。グェッ。
女のえずきは止まりそうにない。グェッ。
コロナ禍ならば完全にアウトだ。あなたは院内に入れてもらえないだろう。グェッ。
文庫本を読むわたしに容赦のないえずき攻撃が降りそそぐ。グェッ。グェッ。グェッ。
無理だ。
束の間の読書をあきらめたわたし。少しばかりやけを起こす。こともあろうか、えずく中年女の「グェッ」に対して、合いの手を入れる事を思いつく。
「思い立ったが吉日」
亡くなったばあちゃんが僕に教えてくれたこと。その教えを生かすときは、今だ。
わたしは静かに目を閉じる。集中する。イメージのなか、女にチョコボールのキョロちゃんの着ぐるみを着せる。
女「グェッ」
私(チョコボール)
女「グェッ」
私(チョコボール)
女「グェッ」
私(ブンツク ガマガマ)
女「グェッ」
私(アオ アオ アオ アオ!)
えずく中年女さん。
いっそのこと、あなたのそのえずき声の超音波で、わたしのイボ、、イボンヌを粉砕してくれないか。
君の名は、秒速10cmの老男爵。
ある日の、受付時間終了間際のことだ。
最初は、皆、彼が何者なのか分からなかった。
彼が何をしているのか気がつかなかったという方が正しいのかもしれない。
皮膚科にいるのだから、皮膚に関わる病を患っているのだろう。
だが、妙な違和感がある。皮膚科に似つかわしくないのだ。彼の装いは。
上等なリネンのジャケットにアンティーク調なポーラー・タイを締め、ソフトハットを被り、持ち手に銀の装飾が施された黒壇の杖をついているその男の姿は、品の良い老男爵にみえた。
漂う気品に反して、男爵の腰が異様なほどに曲がっていた。おそらく、わたしのような若造には想像することのできぬ苦労があったのだろう。何も言うまい。
それにしても、見事に曲がっている。
ほぼ90度、つまり直角である。
小学校の黒板に磁石で貼り付いていた直角三角形をあててみたい衝動に駆られたことは、心の内にとどめておく。
しかし、それ以上に、わたしの目を釘付けにしたもの。それは男爵の歩く速度である。
遅いのだ。ものすごく。
見ていてもほとんど進まない。進んでない。
いや、進んでないことはない。
失礼ながら凝視していると、ズズ、と半歩進む。ついで、また、ズズ、と半歩進む。
やはり、進んでいることは確かだ。目視での確認だが、その速度は、おおよそ秒速10cmほどである。
老男爵から受付窓口までの距離は、4mだ。単位を変えれば400cm。
わたしのパピローな頭のコンピーターで計算する。
ゴールまで40秒だ。
だが、それは時間の問題ではない。
きっと、男爵とってのそれは、我々のフルマラソンに値するほどの長く険しい道のりだろう。
いつしか、わたしだけでなく、そこにいるみなが彼の歩みに釘付けになっている。
ズズ、、、
ズズ、、、
彼は諦めない。
窓口の向こうには、関係者スタッフが総出で待ってる。
ズズ、、、
ズズ、、、
負けないで。もう少し。
受付は近づいてる。
ズズ、、、
ズズ、、、
みんなの心が一つになる。
もう少し!あと少し!
ズズ、、、
ズズ、、、
ゴーール!
駆けつけた徳さんこと徳光アナのハンケチはすでに涙でぐしょぐしょだ。見守っていた皆が抱き合い、歓声をあげる。讃える者もいれば、感動で震える者もいる。
それは、ただ、ただ、走り切った男爵に向けられた祝福だ。もし、いま、徳さんのインタビューを受けたなら、きっと、彼は答えるだろう。
「すごく楽しい4.2mでした!」
わたしの目からもこぼれるものがある。
いっそのこと、あなたの直角に曲がった部位で、わたしのイボ、、イボンヌをこそげ取ってくれないか。
君たちの名は、皮膚科戦隊。
イボンヌの物語も、いよいよ大詰めである。
最後に語らなければならないのは、もちろん、この診療所のことだ。
この診療所にいるのは、院長である初老の男性医師Sと、人生の経験値高めな女性看護師四名のみである。少数精鋭、まさに選ばれし者たち。あらゆる皮膚病に対峙する戦士たちだ。彼らは人呼んで、
皮膚科戦隊イボレンジャー。
わたしが独断と偏見と畏敬と感謝の念に基づき、そう呼んでいる。
むろん、無許可である。だから、内緒でお願いします。コンプラ的に。
では、気を取り直してメンバー紹介しよう。
イボレッドは、もちろん、院長Sだ。
イボレッドはサディスティックな気質がある。
それは、一見やさしげな笑顔の仮面の奥に潜んでいる。
必殺技は液体窒素アタック。
「痛いでしょ?痛いよね?痛いんだよねぇ。むふ♪」
つづいて、イボブルー。
彼女は黙々と仕事をこなす。言葉よりも行動で示すタイプだ。
必殺技は、速攻サイン。命中率は100%だ。
たとえ処置中であってもお構いなしにカルテをイボレッドの前に差し出し、無言の圧をかける。サインを貰うまでは動かない。
不動のイボブルーとは、彼女のことだ。
つぎに、イボグリーン。
使った道具類は、その都度元に戻すタイプ。
必殺技は、うーん、ええと、あー、あれだ、あれ。整理整頓。雑になってきた感は否めない。そこはご容赦願おう。だって、グリーンはあの頃からそういう立ち位置だろう?
そして、イボイエロー
とにかく明るいイボイエロー。安心感が売り。英語が堪能。必殺技はないが、キラーフレーズがある。
最後は、イボピンク。
いや、正確には、彼女は、かつてイボピンクと呼ばれていたひとだ。
彼女の紫色の髪が、過ぎ去りし時の長さを語る。
イボピンク改めイボパープルと呼ばせてもらおう。
彼女の、ピンクだった頃の必殺技は、お相手を惑わす色気にあった。老若男女問わず、彼女の色気に抗えるものは、誰一人としていなかった。すべての攻撃を無力化した。しかし、その色気は失われ、永遠に戻ることはない。悲哀をまとい、パープルは歌う。
(MC)
「エントリーナンバー5番。
イボパープルさん。
色も色気も時とともに色あせる。
美空ひばりで『川の流れのように』。」
(前奏)〜♪
(ナレーション)
きょうも彼らは戦う。
この世にイボがあるかぎり。
がんばれ、イボレンジャー!
まけるな、イボレンジャー!
皮膚科戦隊イボレンジャー!
(効果音)テレッテレッテテーテーテーッ♪
ふぅ、と息を吐く。
そのタイミングでわたしの名前が呼ばれる。
すっ、と息を吸い、気合を入れる。
カーン!
闘いのゴングが、小気味良く鳴る。
わたしは勢いよく立ち上がり、診察室のドアを開ける。敵は、自分だ。勝ち負けじゃない。
それを確かめに行くのだ。
指先の君を見つめる。
君の名は、イボンヌ。
そして、それは、わたしの名でもある。
わたしは、イボンヌ。
イボンヌは、わたし。
またの名を、ヒトパピローマウイルス。
そう、わたしは、
人類家畜化計画のための最後の使徒だ。
、、、ジュッ。
、、、ジュッ。
、、、ジュッ。
『君の名は、イボンヌ。』完。
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