見出し画像

「「年婚」を祝う」――資源活用事業#05

植戸万典(うえと かずのり)です。愛にできることはまだあるかい?

不要不急のイヴェント自粛で結婚式などの集まりもキャンセルされた方は多かろうと存じ、とても気の毒に思います。
その方々の悲しみが理解できるなどとは言えません。ただ今回は、せめてこの先の未来へ向けてちょっとしたご提案が叶えば、と。

当企画5回目は、ちょうど1年前の『神社新報』に寄せたコラム「「年婚」を祝う」を資源活用します。
例によって原文の歴史的仮名遣いは現代仮名遣いに改めています。

コラム「「年婚」を祝う」

 天皇・皇后両陛下におかせられては、今月十日、御結婚満六十年を迎えられた。いわゆる「ダイヤモンド婚式」だ。
 英国に由来する金婚・銀婚などの祝いは日本でも受容されて久しいが、これをジュエリー業界の商機と嗤う勿れ。本邦のその草分けは明治の大婚二十五年祝典とされ、その後、大正、昭和、平成と、我々は天皇・皇后の御結婚の節目を国の慶事としてお祝いしてきた。今日の神前結婚式が、当時東宮であられた後の大正天皇の婚儀に影響を受けたものであるように、神社における婚礼の意義は重い。そも商いも信心も人の営みの一環。近代に滲透した初詣も、鉄道業界の商機と無縁でない。
 金婚式などはその名にちなむ贈り物で祝う習慣だが、仄聞するに最近では「バウ・リニューアル(誓いの更新)」なる儀式もまた習慣化している。欧米でカップルが毎年や節目の記念日に、教会などで結婚の誓いを再確認する儀式だそうだ。なかには諸事情で当初挙式できなかった両人があらためて催す例もあるとか。英国国教会では「サンクスギビング・フォー・マリッジ」としておこなっているらしい。
 神恩感謝という面では、そのメンタリティは神道にも相通ずる。日本でも、記念日に氏神や婚礼を挙げた神社へ家族で参拝し、現在の生活の様子を奉告して誓いを新たにする方はいよう。人生儀礼の七五三や算賀祭のように、一家の節目にも祝いの儀式があって良いかもしれない。
 金婚式もバウ・リニューアルも元は異国の文化だが、両陛下のように伴侶と仲睦まじく齢を重ねる相生の美徳そのものは決して舶来品ではない。神社とも縁深い能「高砂」の謡「〽高砂や この浦舟に帆をあげて…」は祝言の定番だが、これが謡われ、また島台のモチーフにされたのも、その高砂の尉と姥に偕老の願いを重ねたからであろう。
 神前婚も初詣も、前史があって今がある。もともと祝言には神が臨在していたし、新春には恵方詣や初縁日がおこなわれていた。新たな知見で習俗がリニューアルされるのも文化のあり様だ。作られた伝統よと腐すのは一知半解というもの。
 しかし和魂洋才で学ぶにしても、バウ・リニューアルを直訳ぎみに「再誓式」とするのもあじきない。ここは趣旨に鑑みて「年婚式」とでも仮に呼んでみよう。先祖の祀りを「年祭」というのに倣い、また「結婚式」とも押韻する。これからのブライダル業界は「年婚」を広めるべきだ!
 売文屋のネーミングセンスは兎も角、いずれ結婚生活が長いのはめでたい。もっとも、会者定離も世の習いだ。だからこそなお一層、両陛下が共に歩まれた六十年の旅路は尊い。心より慶祝申し上げ、御譲位の後も両陛下の幾久しきをお祈りしたい。
(ライター・史学徒)
※『神社新報』(平成31年4月22日号)より

「「年婚」を祝う」のオーディオコメンタリーめいたもの

とある知人からバウ・リニューアル(Vow Renewal)という欧米の新潮流を聞き知って、思い立ったコラムです。
言わずもがなですが、文中の「天皇・皇后両陛下」とは、もちろん現在の「上皇・上皇后両陛下」のことです。為念。

記事でも書いたようにその知人の話では、諸事情で挙式できなかったカップルがあらためてバウ・リニューアルという形で式を挙げることもあるやに聞きます。
今回のウイルス禍で式を取り止めざるを得なかった方にとって代わりになるとは思いませんが、お二人やご家族の未来にとってもし何かしらの参考となれば幸いです。

なお、「年婚」のネーミング経緯は記事内で書いたとおり。最初にバウ・リニューアルという存在を教えてくれた方には一応伝えてあります。特に訳語の提唱者として主張するつもりはありませんので、もしお気に召していただけたらご自由にお使い下さい。

ちなみにこの記事では、「男女」や「夫婦」という表現を意図的に使っていません。他でもそうした記事はあります。
別にその表現を否定しているわけではありませんが、内容的にそこに限定するものでもないだろう、というのが理由です。

#コラム #私の仕事 #ライター #史学徒 #神社 #結婚 #資源活用事業

ご感想や応援をいただけると筆者が喜びます。