『ダンケルク』のためだけに。大阪エキスポシティまで
現地時間2月18日のつい先ほど、英国アカデミー賞の授賞式が行われました。作品賞に主演女優賞、助演男優賞、脚本賞、英国映画賞と圧倒的な強さを見せたのは、私も大好きな『スリー・ビルボード』ですが、8部門にノミネートされていた『ダンケルク』も音響賞を獲得。
↓まずはこちら、圧巻のメイキングをどうぞ
『ダークナイト』『インセプション』のクリストファー・ノーラン監督が第2次世界大戦初期の史実をもとに、英仏を中心とする連合軍33万人強という史上最大規模の撤退戦を描いた本作。
ゲイリー・オールドマンが主演男優賞を受賞(そのメイクアップチームも!)した『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(原題:Darkest Hour)は、チャーチルが首相に就任し、この『ダンケルク』の撤退を決断するまでの27日間が描かれます。いわば、この2作はコインの表と裏のような関係なのです。
先日、この『ダンケルク』のIMAX再上映にあたり、はるばる大阪・千里万博公園にある109シネマズ大阪エキスポシティまで行ってきました。
『ダンケルク』を観るためだけに。
しかも、この遠征は2回目です。
↓こちらは見応えたっぷり、28分もあるのでお時間あるときにぜひ
「今まで観てた『ダンケルク』は何だったんだ」
陸海空で交錯する時間軸、セリフを極力排した戦争描写や、
実際の戦闘機を俳優が乗る船の上に飛ばしたり、浜辺に並ぶ兵士たちを段ボールで表現したりといったCGを極力使わないアナログ技法、
当時、実際に救助に当たった民間船“リトルシップス”の出演など、注目ポイントは多々。
IMAX 65ミリフィルムに加え、轟音がするIMAXカメラで撮影できない会話の部分は65ミリ・フィルムで撮影した点も特徴的で、これをそのまんま、日本で唯一体験できるのが、IMAX次世代レーザースクリーンを有するエキスポシティなのです。
2度の通常上映の試写会の後、別の109のIMAXで観た『ダンケルク』はまるで別もののようにクリアで、空が青く、トミー(フィン・ホワイトヘッド)ら兵士の瞳に浮かんだ心情まで覗くことができ、「今まで観ていた『ダンケルク』はいったい何だったんだ」という感想を持ったものです(いえ、それも『ダンケルク』ですが)。
さらに、エキスポの次世代IMAXを一度体験した際にはそれ以上に、「今まで観てた『ダンケルク』はいったい何だったんだ」と強く感じたのです(もちろんそれも『ダンケルク』なのですが)。
画角の大きさはもちろんのこと、セリフが少ない分、銃撃の音やドイツの戦闘機が急降下する音、ノーラン監督の腕時計の秒針から録音した「チチチチチ…」という時を刻む音やハンス・ジマーの音楽などが、何よりも雄弁に戦地を語る本作にあって、IMAXの音響もまた臨場感をさらに一押しさせるものとなっています。
映像は、冒頭からまるで違います。街が広い。トミーの足元まで映ります。
空から振り落ちる「我々は包囲した」のチラシ、転がるヘルメット。
フィン演じるトミーが銃撃を抜けて、街を駆けて駆けて、やがて視界がひらけたとき、彼とともに目の前に広がる光景とその広さにがく然とします。
徐々に近づいてくる爆撃の大きさ
ドーバー海峡半ばでダンケルクから聞こえる爆音
戦闘機内でたった1人で受けとめる爆音、振動
浜辺が、海が、空が、無限のように大きく感じます。
戦闘機の操縦席のファリア(トム・ハーディ)やコリンズ(ジャック・ロウデン)も胸元まで映ります。
彼らがあの時、戦っていたのは、敵(ナチスドイツ軍)だけでなく、
「自分だけはなんとしてでも助かりたい」というエゴだけでなく、
あの広大無辺な海や空でもあったことが伝わってきます。
臨場感が断然、違います。私も「帰りたい」「生き延びたい」彼らと同じ場所にいるような感覚になります。
そして、ラスト。
毎回思うのですが、
あのフィンくん演じるトミーの最後の瞳のために、私は来ているのだと思いました。あの瞳に浮かぶ感情は、これはあくまでもヒロイックな物語ではなく、生き抜いたその後に待つ、さらなる戦火を想起させるものなのです。
そんなフィンくんの瞳も、その中に浮かんだ諦観や落胆(だと私は思っています)も、ほかで観るよりもより大きいのです。。
「ダンケルクの戦いに人生を左右されたすべての人に捧げる」
ダンケルクは1940年5月末から6月はじめのこと。
その翌年、日本も真珠湾を攻撃して日米開戦、東南アジアや太平洋が戦場になり、44年に連合軍はノルマンディに上陸。その主力となったのは、このダンケルクで撤退してきた兵士たちだったといいます。
ダンケルクからおよそ5年後に、ナチスドイツが降伏。その夏に2度の原爆が日本に落とされるまで、大戦は続きます。
エンドクレジットに、「ダンケルクの戦いに人生を左右されたすべての人に捧げる」との言葉が出てきますが
我々、日本人もまた少なからず人生や運命を左右されたはず。
チャーチルを“ヒトラーから世界を救った男”と謳うほど大仰ではなくとも、日本人にも全く関係ないわけではない、と私は感じています。
また、毎回、
生死をさまよう重傷を負いながら、“船”で命からがら日本に辿りつき、終戦時には病院着のままで“汽車”で“故郷”に向かった私自身の祖父のことも思わずにはいられません。
前途洋々の若い命、いえ、どんな命についても、こんな思いを二度とさせてはならないのです。
「この物語で心を打つのは、若い青年たちが当時、この壮絶な悲運と向き合ったという事実」
もう1つ、私の心をとらえてやまないのは、英国やアイルランドを代表する若手からベテランまでのキャストのアンサンブルです。
世界で最も有名な新人俳優といわれたハリー・スタイルズももちろんよかったですが、彼だけではありません。
映画初出演だったフィン・ホワイトヘッドに、海から救助に向かった民間船のピーター役トム・グリン=カーニー。その船に乗りながら、悲運に見舞われてしまったジョージ役のバリー・コーガンは、現在マイケル・ファスベンダーと共演した『アウトサイダーズ』が公開中で、3月には『聖なる鹿殺し 』も控えています。ベルリン映画祭にも『Black 47』で参加しています。
ノーラン監督は「“ハリウッド流”のように、35歳の俳優を18歳の役に配役したくなかった」と語っており、オープン・キャスティングで「本物の“未熟さ”をもつ新しい俳優を配役することにしました」といいます。
ハリーが超有名人であることも知らなかった、というのはすでに伝えられているかと思います。
彼らにノーラン作品常連組といえるトム・ハーディやキリアン・マーフィに加え、ケネス・ブラナー、マーク・ライランスといった初参戦のベテランキャストが絡み、チョイ役でも注目のキャストがずらりです。
撮影は『インターステラー』のホイテ・ヴァン・ホイテマ、同じく美術のネイサン・クローリー、編集のリー・スミスが引き続き参加。衣装のジェフリー・ガーランドは『インセプション』以来、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のアンドリュー・ジャクソンが視覚効果監修。
受賞はなりませんでしたが彼らの仕事ぶりを称えつつ、再上映にあたり、大阪に向かう人が続出した本作を改めて称えてみました。
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(原題:Darkest Hour)が迫るにつれ、もう一度観たくなるに決まってます。
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