『スリー・ビルボード』拝見 2/1~公開
映画鑑賞メモ
www.foxmovies-jp.com/threebillboards/ ★★★★★+ 原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
3枚の広告看板を打ち出した、娘を殺された母親の復讐劇だと思うでしょ? それだけでは決してなく、悲しみと憎しみ、怒りに囚われた人々の感情の昇華を見つめた、最後まで目が離せないとびきりのヒューマンドラマでした。
娘を殺された母親を演じた、ゴールデン・グローブ賞受賞のフランシス・マクドーマンド姉さんはもちろんなのですが、特筆すべきは同・助演男優賞を受賞した警察官役のサムロク!
サム・ロックウェル!
彼がとにかく素晴らしい。彼のよさがついに広く知れ渡るに違いない1作となりました。
今年はこの『スリー・ビルボード』とギレルモ・デル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』というFOXサーチライトの大傑作2作でオスカーを争うことになりそう! アツいな~、素晴らしいな~。
あらすじ
最愛の娘が惨殺されて7か月。犯人がいっこうに逮捕される気配がないことに憤るミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、無能な警察に抗議するため、町はずれに3枚の巨大な広告看板を設置する。それを不快に思う警察と町民、ミルドレッドの間の諍いは、事態を予想外の方向に向かわせ……。
(注)ややネタバレあり
ミルドレッドがエビングという小さな町の広告屋(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)に依頼した、広告板の文言は3つ。
「どうして?ウィロビー署長」「逮捕はまだ?」
そして3枚目は
「レイプされて殺された」…
そう、ミルドレッドの娘はとても残忍な形で殺されていたのです。
娘を失った悲しみと、犯人や警察への憎しみと怒りとを抱えた母親を演じるフランシス・マクドーマンドは、脚本を手がけたマーティン・マクドナー監督によれば当て書きだったそう。確かに、ほかの女優さんは思い浮かばないほどの適役でした。ゴールデン・グローブ賞でもブラックドレスではなく、濃紺のドレスを纏って「政治的な発言はしないけれども、今日、業界の勢力図が変わる場に立ち会えてよかったわ」と語ったマクドーマンド姉さんですもの。
コリン・ファレルと組んだ『ヒットマンズ・レクイエム』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたこともあり、劇作家としても知られるマクドナー監督が紡いだ物語を見終え、まず頭をよぎったのは、チャップリンの
「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇である」
という言葉。
もちろん娘がレイプされて殺されたことは、決して喜劇なんかではありません。ミルドレッドは自らの言動を悔いていますし、とてつもない悲嘆の中にいます。
ぶつけようのない、行き場がないそれらの感情の矛先を作ってしまったらどうなるか、という物語ではあるのですが、
一筋縄ではいきません。
看板で名指しされた警察署長のウディ・ハレルソン、その署長を慕う、かなり問題ある警官サム・ロックウェルが完全悪となるわけでもありません。
憎しみに憎しみで返したら、人間としてどうなるかということを真摯に見つめながらも
あれよあれよという展開を迎える様は、なぜかどこか可笑しみがあるのです。
もしかしたら人間が必死に生きているだけで、悲劇であり、喜劇なのかもしれません。
また、フィクションで、舞台もミズーリであるのに、巨大看板への警察、マスコミの対応やうわさへの反応は日本とそう変わらないのかもとも思います。
とにかく、強烈な母の愛の物語でもありましたし、他者への思いやりと優しさに満ちた、赦しの物語でもありました。
今回、本作のマーティン・マクドナー監督といい、『シェイプ・オブ・ウォーター』といい、『ゲット・アウト』ジョーダン・ピールといい、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグなども、オリジナル脚本の作品が評価されていますね。
何気にケイレブ・ランドリー・ジョーンズは『ゲット・アウト』にも出演しています。
そのほかミルドレッドの息子役に、昨年『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、『レディ・バード』にも出演しているルーカス・ヘッジズ、元夫役で『セッションズ』『ウィンターズ・ボーン』のジョン・ホークス、エビングの町民の1人で「ゲーム・オブ・スローンズ」のピーター・ディンクレイジ、『ジオストーム』のアビー・コーニッシュなど、多彩なキャストのアンサンブルも魅力。
アカデミー賞ではフランシス・マクドーマンドの主演女優賞、
サム・ロックウェルの助演男優賞を期待しています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?