平均賃金・退職金・企業年金から大企業と中小企業の格差を考えてみる:格差は広がっている?

1. はじめに

こちらの記事、多くの方に読んでいただき、ありがたい限りです。

ですが、私の専門はやっぱり退職給付と会計です(確認)。

ということなので、こちらのことも考えていきたいと思います。またほかの日々の動きを追っているのは、一つは授業の題材を取り上げるという意味はありますが、もう一つは、自分の専門性を高めるため、です。

会計は現実と向き合う学問です。ですから、現実、今起きていることについて会計の視点でどう捉えられるのか、という感性を常に磨いておくことがなにより大事だと思います。

2.格差が広がる大企業と中小企業

格差の問題。

教育格差、正規と非正規で拡がる格差、あらゆる世代間で拡がる格差、男女の格差・・・。様々な格差があると言われています。

格差といえば、ピケティの21世紀の資本ですね。

≪資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、
資本主義は自動的に、
恣意的で持続不可能な格差を生み出す≫
格差は長期的にはどのように変化してきたのか? 資本の蓄積と分
配は何によって決定づけられているのか? 所得格差と経済成長は
、今後どうなるのか? 18世紀にまでさかのぼる詳細なデータと、
明晰な理論によって、これらの重要問題を解き明かす。格差をめぐ
る議論に大変革をもたらしつつある、世界的ベストセラー。
Story
ピケティは、時はフランス革命に遡り、植民地主義、世界大戦、数々のバブル、大恐慌、オイルショック、リーマンショックなど、300年に渡る歴史の中で社会を混沌とさせた出来事と経済の結びつきを紐解いていく。
──今まさに、歴史は繰り返されようとしている。
如何にして我々は経済の負のスパイラルから抜け出せるのか?ピケティを始め、ノーベル経済学受賞のジョセフ・E・スティグリッツ、ジリアン・ラット、イアン・ブレマー、フランシス・フクヤマ他世界をリードする経済学者が集結。世界中の経済・政治の専門家たちが、膨らみ続ける資本主義社会に警鐘を鳴らし、知られざる真実を暴いていく!

21世紀の資本は、なんと映画化もしてました。

単独の書物でwikiが立つのもすごいですね(日本語もあります)。


ピケティは、資本に対する累進課税を主張してます。

資本、ざっくりいえば、内部留保に対して税金をかけるということなんでしょうけど、こうした税制が妥当かは別にして要するに富める人に税金をかけて貧富の格差を縮める必要性がある、ということですね。

3.企業規模間の賃金格差

税金、すなわち課税の問題で取り扱うことも出来るでしょうけど、別の視点でみてみたいと思います。

企業の規模間に横たわっている賃金格差の問題です。


こちら良記事です。つまり簡単にいえば、日本において企業の規模別で給与の格差が生じている、という話です。

こちらみてもらっても分かるように、入社して間もないころは小さい中小企業と大企業の賃金格差は50~54歳でピークになり大企業502.2千円にたいして小企業340.2千円と、大企業100に対して小企業67となっていることが分かります。こうした格差は生涯獲得賃金の差、すなわち蓄えられる資本の額にも差が生じることになるでしょうから、大きなものになります。


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上の図は厚生労働省のデータhttps://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2016/dl/04.pdfからとったデータです。


そしてこちらは国際比較に基づくデータです。

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上記のサイトから取りました。ありがたいことに労働系のデータをまとめてもらっているので非常に助かります。

日本においては規模が小さくなるに従い、給与水準が低くなるのに対して、アメリカを除く他国は異なる状況なのはわかります(アメリカも規模に応じて給与水準が低くなります)。

このデータはあくまでも、各国で収集した統計データに依拠しています。統計の方法などに差がありますので、比較するのが適当かどうかというのはあります(統計を取っている時期も異なります)。そうした問題点はあるにせよ、日本の企業の規模間格差が他国と比べて大きいことが分かります。アメリカが、10~49人規模の企業の給与が大企業に比べて半分以下(48.3%)なのは、アメリカも格差社会なんだな、ということが改めて分かります。普通に考えれば大企業の方が待遇がいいのは他国でも同じ・・・と思ったのですが、他国においては、50~249人、250~499人、500~999人のレンジにおいて、大企業を上回る給与水準の場合があります。この理由が・・・よく分かりません(この辺りは、今後の課題としておきます)。

ただし、オランダをのぞく他国において10~49人の企業規模と1000人以上の規模の大企業との給与差があることは変わりません。その差が日本の場合は大きすぎます。つまり、デンマーク、フィンランド、デンマークは95対100、イギリスが84.8対100、イタリア78.6対100、そして日本が58.2対100と大きな差が生じています。

賃金格差は各年齢間での差も見ていかないといけないので、このデータだけをもって(あくまでも平均値ですから)、日本の企業規模間の格差が大きいというのは適当でないかもしれあません。ただ、一つの統計データとして大企業と中小企業(特に小企業)との格差が日本は、欧州と比べて大きいことが示されていることが分かります。

4.退職給付(企業年金・退職金)の企業規模別の格差

では退職給付制度における企業規模別の違いを見ていきましょう。

データは厚生労働省「就労条件総合調査」から取ったものを使います。

2008年と2018年で比較もしてみましょう。

下がその結果です。大企業、いわゆる従業員1,000人以上の企業において、企業年金のある企業は71.8%であるのに対して、30~99人と小規模な企業においては14.1%と低くなっています(2008年30.2%から16.1%減)と大幅に下がっています。そもそも退職給付制度がない企業が25.4%(2008年18.3%から7%増)となっています。

            退職給付制度の実施状況

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規模が小さくなるに従い、退職金・企業年金の手当てが手薄になることが分かります。元々、大企業と中小企業では、こうした手当に差があったわけでですが、中小企業はこの10年の間に急減しています。つまり、退職金・企業年金の手当てにおいて中小企業の待遇が悪化しているということです。特に小規模な企業(30~99人)においてその傾向が顕著であることが分かります。そもそも退職給付制度の平均給与額は制度間の差がこのように大きなものになっていて、退職金制度は給付額が大幅に減少しています。

       退職給付制度の平均給付額(2008・2013・2018)

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中小企業だから退職金だけしか支給できない・・・というのは理解できるのですが、その退職金の給付額も急減しています。企業年金制度と比べて給付額が著しく減少している理由は正確なところは分かりません。ただ、退職金制度の給付減額は企業年金と比べて容易なことが影響している可能性があります。

確定給付型企業年金において、合理的な理由を有し、労使の合意、既得権・期待権への配慮等、一定の要件を満たしていることを条件に、給付減額が認められます。かつ、将来の給付額を引き下げるためには、規約変更についての行政庁の認可又は承認を得なければならず、以下の条件を満たすことが必要になります。

① 経営状況の悪化により給付の減額がやむを得ないなどの一定の場合
② 加入者の1/3以上で組織する労働組合があるときは当該労働組合の同意、および加入者の2/3以上の同意を得ていること
一方で、退職金の場合、労働協約の変更により給付減額の手続きが行われます。労働協約とは、会社と労働組合とが取り決めた会社内で守るべきルールです。減額は、労働条件の不利益変更にあたるため容易にはできないのですが、確定給付型企業年金とは異なり、労使の合意のみで、行政庁の認可又は承認は不要のため減額のハードルは低い、といえます。

給付減額のハードルが低いからといって実際に減額されるかどうかは別なのですが、この間、退職金を保有している企業で給付減額がされたことが分かります。

5.規模別格差の解消が必要

労働条件面での格差も検討しなければならないところですが、格差問題の根幹には企業の規模間でのこうした待遇面での差も影響しているのではないでしょうか。なお、規模が小さい企業においても給与が高い場合はあります。いわゆるベンチャー企業で給与が高いケースですね。

ベンチャー企業の多くは企業年金・退職金そのものない、というケースも多いでしょうが、その分は高い給与でカバーされている、ともいえます。

給与も格差があり、退職金・企業年金でも格差が大きい。この日本の企業規模による格差をどうにかして対応しなければ、貧富の格差はますます広がるでしょう。

ついに、1.40を出生率は割りましたね。少子化も格差の影響を受けているともいわれています(要因は複合的なので、この問題だけではないとは思います)。

この格差をどのように克服していくべきなのでしょうか。

今回のコロナ禍において、ますますこうした格差は広がるのではないかと感じています。

この事実を認識し、「必要な政策は何か?」を検討していくべきときではないでしょうか。

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