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読書感想文「上流階級」


「お金持ちのお家」と言ったことで、そのお得意様から「担当から外して」
と言われる世界。
それが、「外商」の世界だ。

外商とは、デパートの上得意のお客様のご自宅まで出向いていく、
営業マン達のことだ。
私も外商という人たちがいることは知っていたが、使ったこともなく、
知らない世界を教えてくれると言う楽しみもある。

だが、この本に流れている核は、「仕事が大好きな人たち」だ。
外商で女性は珍しいのに、生え抜きでもなく中途採用の主人公がハプニングを
起こしながらも、着実にカリスマ外商にも、会社全体にも認められていく話は
痛快だ。

さらに、この主人公である鮫島 静緒の顧客である「上流」の人たちが、
さまざまで面白い。
旧家や大会社の社長のお宅など、昼間自宅にいらっしゃる奥様方を相手に
するのが主流であった外商が、女性起業家をお客様とするようになっているのも、時代の流れに沿っていてさすがだと思う。

女性で、バツイチで、仕事が大好きな女性につい共感をしてしまうのは、
私も仕事が大好きだからだろう。
だからこそこの本は、受ける層が限られているのかもしれない。
ただこれからの女性たちはきっと、静緒のような人たちが増えていくので、
是非読んで欲しいと思っている。

24時間仕事のことを考えているのは、ブラックだと思われるかもしれない。
でも、24時間仕事のことを考えているのは、仕事が好きなことと、
成長意欲なのだと思う。
今の日本にどのくらいの女性たちが、静緒に共感するのかは私には分からないが、若い人たちや仕事好きな女性には必ず薦めている本だ。
ただ、「あの本よかったー」と言われたことはあまりないので、もしかすると
あまり静緒に感情移入できる人が少ないのかもしれない。

男性はまず読まないだろう。

女性もある一定の人たちしか読まないだろう。
それでも、この作家の高殿 円さんは、この世界を書きたかったのだろうと思う。
女性たちへのエールを感じる。

舞台は、富久丸百貨店芦屋川店。神戸の芦屋が舞台だ。言わずと知れた、
高級住宅街がある街だ。
第一巻では、神戸芦屋に居を構える、昔からの名家のご主人や奥様方が登場する。

食器が大好きで、ずけずけと物を言うが、孫には目がない神戸歯科医師会会長の
奥様。
「御殿」と言われる大邸宅に住む、何代も続く名家の奥様。
中東で石油を掘っていたご主人が帰国後一代で、不動産オーナーをはじめとして
あらゆるビジネスを展開しているお家。

タイ華僑で、日本でのビジネスを成功させ、「お得意様会」の時には、
あっという間に1000万円のお買い物をする男性。

そんな中で、異色なのが暴力団幹部の跡取り娘と結婚している若頭の愛人の女性。

実在しそうで、普通の人は周りにはなかなかいない登場人物について読んでいる
だけでも面白い。

第三巻では、現代に実在しそうな女性客たちが登場する。

好きで描いていたイラストがバズり、商品にキャラクターとして取り上げられる
ようになったのに、フリーランスとして仕事をしているため、キャラクターを
扱う会社に舐められる女性。

コミュ障で、見た目にも自信がなく、親からは「普通の女の子として生きる」
ことを求められ、事務職として就職までしたけど、周りは給料が安いことを
愚痴っている女の子ばかりで、たった14万円しかもらえないことに腹を立てて、
退職後自宅で株のトレードを始め、株式スクールの先生までつとめ、多額の財産を持ちながらも親はそれを認めず、普通に結婚するために痩せろ、肌を何とかしろと言われ続け、ある親戚の人の一言でブチギレ、家出し4000万円のマンションを
キャッシュで買い、その家具を全て静緒と一緒に選び1日で引越しをしてしまう
女性。

海外の不動産ブローカーとして活躍していた女性が、日本の友人が経営するリッチな男性と女性を成婚させる会社のお手伝いとして、神戸芦屋に引っ越してくる
女性。

元客室乗務員で、有名なホテルグループ後継者と結婚をしていながら、投資で
実はご主人よりも高額の報酬を得ている女性。

仕事で成功していても、いや、だからこそ悩みはあり、それをひっくるめて
お世話をするのが、外商の仕事らしい。
「そんなプライベートなことまで、お世話するの?」と思うが、
「外商さんに任せていれば、何も心配しなくていい」と、絶大な信頼をおき、
自分達の買い物の手間を省いてくれ、なかなか手に入らない物も手に入れてくれ、葬儀から子供の受験まで一緒に心配し、考え、付き添い、誹謗中傷を解決するために弁護士まで紹介し、同行し、相談にも乗ってくれるのであれば、マンションが
買えるくらいの大きな買い物もするだろう。

上流の方々は、案外相談できる人たちが少ないのかもしれない。秘密を守って
くれる人、親身になってくれる人は、上流の方々の方がずっと重要で、
だからこそ外商という立場の人たちと良い付き合い方をして行くものらしい。

あくまでもこれは小説の中の話なので、本当の外商の世界がどのようなものなのかは、この小説から想像するしかないが、「良い人を見つけて任せることが大事」と、同僚で、あるきっかけから静緒と同居することになった、桝家 修平の母親(旧家出身で名家に嫁いだゴッドマザー)が言っていたのが、
組織で仕事をする際にも、また生きていく上でもとても大事なことだな、と納得した。

普通お目にかかれない登場人物や、
バリバリのキャリアウーマンである主人公の物語は、女性であるが故に、
組織の中では生きづらい部分も書かれていて、働く女性ならば共感してもらえる
本だと思う。

全く違う世界に住む静緒と上流の方々が、うまくお互いに信頼関係を作っていき、なくてはならない存在になっていく様子は、「人」と言うものの良い面をたくさん見せてくれる。

おそらくこれからも私は、この本を何度も何度も読み返すだろう。
もし仕事で落ち込んだ時、嫌なことがあった時には是非読んでみてほしい。
きっと元気を与えてくれる一冊だ。


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