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媚びるのも、合わせるのもやめた


媚びるのも、合わせるのも、実は苦手ではない。
これは客室乗務員という仕事の経験で身に付いたものだと思う。


上空でお酒を飲み過ぎ、宴会のようになりそうな男性グループの方々に、それをやめていただくために、私はこう言った。


「みなさん楽しそうですねー」

と。

こちらは、うるさくなりそうだから、たいていで飲むのをやめて、と言いたいのだが、
それをいきなり言うわけには行かない。

そこで、「楽しそうですねー」と媚を売ったのだ。

その後は、こんなやりとりになった。

「そーなんだよー、楽しいよー、姉ちゃんも飲まん?」

(当時25歳くらいなので、姉ちゃんではあるが、姉ちゃんと呼ばれたくはない。。。)

「あー、ありがとうございますー仕事でなかったら、喜んでいただきたいのですが」
(本当は全然飲みたくはないけど、話を合わせる。それには目的があるから)

「あ、そうか、仕事だよねー」

「はいー、みなさんはお友達なのですか?仲がよろしいんですねー」

「そーなんだよー、同級生でね。みんなで久しぶりに会ったから、盛り上がっちゃって。
あ、氷もらっていい?」


「かしこまりました。すぐにお持ちします」


(本当は持っていきたくないけど、媚びている。ある目的のために)


「氷お待たせしました」

「ありがとー」

「みなさん楽しそうで、本当に良かったですね。ただ、ご存じですか?
実は飛行機は10000メートル上空を飛んでますので、地上で飲むよりもお酒の回りが早いんですよ。みなさんお酒はお強いと思いますが、地上よりもずっと早く酔ってしまって、せっかくの楽しい会が、気分が悪くなって台無しになってしまうと、残念だなーと思ってます」

というと、

「え、そうなんだ、知らなかった」

「そうなんですよ。実は空気も薄いし、気圧も低いので、お酒の回りが早いんですよ。ですので少しこの辺りでお酒を控えられてはいかがかと思いますが」


「そうか、そうだな。このくらいにしとこうか」

と言って、それ以上飲むのをやめてくれた。

そう、こうして満面の笑みで、いかにも心配しています、と言う顔をして、お酒をこれ以上飲ませないという目的のために、媚びていたのだ。
媚びるなんて当たり前にやってきたし、慣れているし、もしかすると得意なのかもしれない。

ただ、今は本当に媚びたくないし、自分に嘘をつきたくないし、わがままだと言われようが、自分のやりたいようにやるし、(もちろん迷惑はかけないようにしている)無理に人に合わせることもできるけど、やらない、やりたくないと思う。

短大や大学の講義を5年ぶりに再開し、以前との自分の心持ちの違いに驚いている。

以前は受講している全ての学生に理解してもらうために、そして全員をなんとか動かしていこうと図々しくも思っていた。


ただ、今年は私の気持ちが全く違う。


学生は単位を取るために受講している人もいるし、真剣に学ぼうと思っている人もいる。
ただ単位を取るだけ、と思っていたけど、意外と講義を聞いてみたら面白そうと思った、と言う人が1人でも増えてくれたらいいとは思っている。
ただ、全然その気がない人をその気にさせる努力はしない。
合わせない。媚びない。
そう思って仕事をしているのだ。

もちろん、ちゃんとやっている人にしか単位はあげないけど(笑)

これは私が歳をとったのか、あまり欲を持たなくなったのか、自然体で生きるようになったのか、そしてこれら全てなのかはわからない。

ただ、人は縁がある人とは縁があるし、ない人とは、ない。
それを無理に媚びて合わせても、結局結果は同じなのだと思い至ったようだ。

「袖触り合うも他生の縁」というが、「袖触り合っても、気づかない、気付きたくない人もいる」と言うことだろう。

仕事は仕事として、これも私のキャラクターとして講義をすればいいと思っている。
そうして、来年引き受けない仕事も決めている。
自分に合わない仕事はやらない。
自分に嘘はつけないから。

どんどんこうしてわがままになっていく自分がいる。
多分、大人になって身につけた処世術とやらを手放しているのだと思う。
それでも、ちゃんと生きていけるのだから、(周りが合わせてくれるのかもしれないけど)ありがたい世の中になったものだと思う。


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