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「理由なき衝動に突き動かされた旅」与那国島④ 「理由なき衝動」の理由&体がほぐされ、心が癒され、頭に学びを得た日

鳥の鳴き声で目が覚める。
そんな日が自分に来るなんて思ってもいなかったが、ここ与那国の住宅街ではそれが日常らしい。


与那国の住宅街

どちらかというと夜型人間の私が、ここ与那国では毎日早く眠っていた。
なぜなら「夕食に行くのであれば、予約必須ですよ」、と商店のレジのお姉さんから言われ、つい面倒になり、外食を諦めたからだ。
そして毎朝6時に目が覚めている。

早く眠っているから早く目が覚めるのだろう、と思っていたが、実は「鳥の鳴き声で起こされているんだ」と気がついた。それも、ニワトリなんかではない。
すごく高く、綺麗な鳴き声で、何度も何度も、下手をすれば100回ほど続けて鳴いている。
鳥の鳴き声が目覚まし時計代わりになっていたのだ。
その鳴き声が珍しく何度も鳴くので、鳴き声を覚えてしまった。

「キュッコロキュー、キュッコロキュー」または「ヒュッコロヒュー」と鳴く。
もちろん今まで聞いたことがない鳴き声だったので、興味を持ち調べてみた。

なんとあの会社が「鳥の鳴き声で鳥の正体を見つけてくれる」サイトを作っていた。

鳴き声だけでは該当するものを見つけることはできなかったが、「与那国」と地名を入力したら、ようやく出てきた。

「シロガシラ」

鳴き声以外正体は一切見たことはないが、間違いなくこの鳥だ、と鳴き声のサンプルを聞いてわかった。
鳥の鳴き声で目覚める、と言う生活をすると、鳥には鳥の生活があり、人間は共存している、いやどちらかと言うと、動物たちに住ませてもらっているのかもしれない、と感じてしまう。
自然を日常で感じられるのは、とても気持ちがいい。

さらにこの旅中、健康状態がとても良いことに気づいた。
電動自転車に乗ったり、坂道をかなり歩いたりして、疲れていてもおかしくないのに、体が軽いし、むしろ良い運動になっているようだ。

しかし、多少の筋肉痛は感じていたことと、民泊オーナーの人がチラシを置いていた「タイ古式マッサージ」の料金が安かったので、「受けてみよう」と思い、13時に予約を入れていた。
このオーナーは、民泊経営、お菓子とお弁当作り、そしてマッサージまで、本当に幅広くビジネスをしている人のようだ。
もし話ができたら、いろいろ聞いてみようと思っている。

朝食を簡単に済ませ、テラスでいつものようにモーニングコーヒをのんびりと
飲んでいる。


まるで別荘気分


それでも時間はまだ8時だ。13時までには時間がある。
だったら、電動自転車でフラッと今まで行っていない道を通ってみようかな、と思った。
テラスにいても、そう暑くないとわかっていたからかもしれない。
それでも、Tシャツの上にデニムジャケットを羽織り、サングラスとキャップを被り、置いてあったポットにお茶を冷まして入れて、電動自転車に乗った。


いつも右側の道ばかり行っていたので、今日は左の道に行ってみよう、と、気の向くままに自転車を走らせた。
小学校があり、一定の数の建物がある場所を抜けていくが、車も人もすれ違うことはほとんどない。
アップダウンは激しいが、坂道を降りる時の気持ちよさが癖になる電動自転車は、当初は涼しい風の中、順調に進んでいった。

途中、人っこ一人いない畑の中の一本道を走り始めた。
サトウキビのように背が高い農作物が多いため、周囲を濃い緑に囲まれ、まるで蝉のような虫の鳴き声と、時折向かってくる蝶々とぶつかりながら、普通の自転車の倍以上のスピードで走っていく。


最初はこんな一本道だが、そのうちサトウキビに囲まれた(写真がなくてごめんなさい)

夏草の匂いを嗅ぎながら走っていると、やがて牛に遭遇する。
私が写真を撮ろうと止まると、草を喰んでいたのを一瞬やめ私の方を見る。
動物は危険を察知する力があるのを感じる。
「危険じゃない、こいつは」と思ったのか、また私のことなど忘れたように草を喰み始めた。

警戒して見ている牛

さらに、身長166センチの私がすっぽり見えなくなるくらいの高さのさとうきびや木々に囲まれた一本道をひたすら走る。
ようやく車が見えてきて、農家の人たちが作業しているのを見て、少しホッとして挨拶をする。
返事が返ってこなくてもいい。昨日この挨拶で、2度も助けてもらったので、余計に挨拶は大事だと心に刻んでいるせいだ。
人を見てホッとするのは、さとうきびの背が高いため、まるでさとうきびに囲まれ誰もいない道をひたすら走っていくのは、少し怖いからだ。
常に人がいる中で過ごしている人間にとっては、人がいない、と言うことは不安になるものなんだ、と知る。
途中で、帰ろうか、と思ったが、まだ時間はあるし、行けるところまで行ってみようと思い、さらにペダルを踏み込んだ。


何もない道が続く

やがて、小さな看板が見えた。それによれば、「東崎(あがりさき)」と、軍艦岩への道が示してある。そこで初めて「この道は東崎に行くんだ」と、分かった。


与那国観光協会パンフレット 
この右側の部分を目指した

昨日は、比川、久部良地区をバスで周り、途中日本最西端の西崎(いりざき)灯台へは、急な坂道を歩いて登った。(上記パンフレットの左側の部分)
バスが停まった久部良漁港から灯台を見上げた時、一瞬諦めようかと思ったのだが、ここまで来て諦められない、と高さ五十メートル以上の坂道を登り切った。
与那国ではあとこの東崎だけ、行っていなかったので、ちょうどいいと思った。

与那国の東側も、他と同じく登り坂はしょっちゅう現れるが、そのときは蛇行しながら上がるコツを覚え、心の支えは、「帰りが楽だから」と言い聞かせることだ。

まもなく岬だ、と思ったとき初めての「テキサスゲート」に出会う。


実物の写真を撮り忘れたので、与那国観光協会のパンフレットから


テキサスゲートとは、牛や馬が逃げられないように、排水溝の蓋のようなもので、
穴が空いている間隔を広く取ることで、牛やウマの足がハマるように作られている。
これにより、牛や馬が逃げられないようにしているらしい。
与那国には純種の「与那国馬」がいるが、その馬が自由に放たれている、柵など一切ない放牧場が突如現れた。


人間より馬の頭数の方が多かった

馬たちは人間が通ってることなんて全く目には入ってない様子で、ひたすら草を喰み続けている。馬同士近づくこともなく、それぞれのお気に入りの場所で、好きに過ごしている。
なぜ動物がありのままの姿でいるのを見ると、こんなにも癒されるのだろう。

ペンギン水族館でペンギンを見た時もそうだった。
そこでは、人間の方がお金まで払って、わがまま勝手に生きているペンギンを見ているのが、ふと可笑しくなったのを覚えている。その時人間だって好きに生きていい、と思った。

駐車場には車が数台。バイクと自転車が一台あるだけだった。
自転車を止め、灯台まで芝生のような道を歩く。


灯台まで少し歩く
先端に灯台が見える


途中、馬の糞が至る所にあり、人間の方がお邪魔してる感じがする。
やがて断崖絶壁が左手に見えるが、その先に灯台がある。
馬を撮影に来ているらしい、外国人のカメラマン風の人が1人、ずっと馬たちを一定距離を取って撮影していた。珍しい種類だからだろう。

灯台まで近づくと、上に登ることはできないが、ぐるりと見渡す限りの絶壁から海を見下ろすことはできる。
怖いから少し離れたところから見るが、波は激しい。


柵は錆びてしまっていて、降りようと思ったら降りれる
怖くて降りないけど
結構高さはある


少し遠くに目をやっても台湾や西表島、石垣も近いはずだが、今日はどれも見えない曇り空だ。
ここに来るまで、こんな景色を想像してなかったが、この景色を見たかったんだと分かる。西崎とはまた違って、東崎の方がより荒々しい断崖のような気がした。

まだ時間はあるので、看板に書いてあった軍艦岩と立神岩へと向かうことにした。
東崎から一旦坂を下り、左に折れてさらに坂道を上がる。
見ただけで東崎よりさらに高い場所にあることはわかっていたので、急な坂道を覚悟していたが、想像以上で一度降りて自転車を押したほどだった。

軍艦岩は、見るとすぐにその名前の由来がはっきりとわかる。


少し高い休憩所があり、そこから撮影した。
ここは、柵がしっかりしていた。急勾配で誰も降りないと思うけど


ここから軍艦岩が見える


周囲には誰もおらず、完全に独り占め状態で見ることができた。

ここから落ちたら命はないだろう。断崖絶壁に立つといつもそう思う。
この自然の前に、人間なんて本当にちっぽけなものだと思わされる。
その人間の悩みなんて、さらにちっぽけだ。
ここから落ちたら間違いなく命を落とすだろう。それだけの存在でしかない。
ちっぽけさを痛感した後だからこそ、今生きてることに感謝できる。


軍艦岩からも見えている立神岩 すごい存在感を感じていた

最後は、この軍艦岩を見下ろすところからも見えていた、立神岩へ向かう。
さらに坂道を上がっていくが、今回は自転車をなんとか降りずに漕いで上がることができた。


駐車場


こちらは、狭い駐車場に次から次に車がやってくる。
駐車場を下っていくと、立神島を見下ろせる場所があり、そこには岩が二つ置いてある。まだ誰もいなかったので、岩の上に登り見下ろした。


圧巻
本当に断崖絶壁


岩は軍艦岩と同じく、黒黒としており、滑らかさは全くない、
削ってる途中のような様相で、真っ直ぐに「立っている」岩だ。
圧巻、と言う言葉では足りない。波、岩、断崖、全ての共同作品だ。
荒々しさ、強さ、雄々しさを感じる。

「神」と言う文字が付いている意味もなんとなくわかった気がした。
見た瞬間に、なぜかオーラを感じ、力をくれるパワースポットだ、と思った。
なぜそんなことを思ったのかは、この時点ではよくわかっていなかった。

旅の理由がわかった瞬間

実は立神岩を見たおよそ10時間後に、旅の記録を書き留めていた時だった。

ふっとデジャブで、この立神岩を見に行った光景が浮かんで消えた。
確かに、私は夢で立神岩に来て、見たことがあるんだ、とわかった。
一瞬でその光景は消えてしまったが、与那国になぜこんなに行きたいと思っていたのか、ようやくわかった。

ここに来ることになっていたんだ。
そしておそらくまた戻ってくる。そんな予感がしている。

****

結局民泊の家に11時過ぎに戻ってきた。
シャワーを浴び、台湾カステラを食べ、Tシャツを着替え、隣の部屋でのマッサージに行った。

挨拶をして、必要事項を記入し、早速マッサージが始まろうかとした時、「ここのオーナーです」と自己紹介をされた。
この女性オーナーは、大阪出身。
与那国で働いてるうちにご主人と知り合い結婚後、子育てに専念していた時期もあったらしいが、お姑さんとの関係も良好で、共に助け合いながらビジネスをしているらしい。

タイ古式マッサージを受けるのは初めてだったが、本当に気持ちよく、胃の動きが活発になり、鼻の通りが良くなり、最後は目がしっかり開いて、視力が回復した気がする。
視力が落ちたのかと思っていたら、実はかすみ目だったようだ。

このオーナーは、元ホテル勤務の経験からか、借りているお部屋の至る所に細やかな気遣いがある。
全てのものがきちんと収納され、清潔で、必要な場所に必要なものがある。
生活者の視点で作られているのが伝わって来た、と伝えると、とても喜んでくれた。
普通のホテルに宿泊していたら、こんなやりとりはできないだろう。
今回エアビーを利用したのは初めてだったが、利用してよかった、と思った。

話の流れから「民泊もいいですよね。私もやろうかな」と私が言った時、
この素晴らしいビジネスセンスを持つオーナーから、さすがの一言が出て来た。

「なんでも自分が楽しかったらやれば良いと思う」
ご本人はさらっと言った言葉だったが、名言だ。

・自分が楽しいから部屋を綺麗にして整えて工夫する。

・お菓子をお子さんに手作りしたいから作ったら美味しかったので、
人にも食べてほしいと思って、販売を委託した。
それも体に良い米粉を使い、添加物ゼロの、体に良いものだ。

・さらに、お子さんができる前に前からやりたいと思っていた、古式マッサージを習いに行った。

全てが「楽しい、やりたい」からスタートしている。
決まった時間には仕事を終え、生活も犠牲にはしない働き方ができているのだ。

私はまるでマッサージを受けながら、ビジネスの勉強をさせてもらった気がする。
隙間ビジネスだから競争もないし、自由にできる。立派だ。
体はマッサージでほぐしてもらい、心は島生活者のマインドでリラックスし、頭にはいろんなヒントをもらってマッサージタイムは終了した。


明日で与那国を去るにあたり、一つの心残りがあった。
それは、夕陽が落ちるのを見れていないことだ。
調べてみると、今日の日没は19:17だ。だったら、一か八か行ってみよう。


こんなにすき通った海が、すぐ近くにいくらでもあるのが、すごい


19時に民泊の家を出て、電動自転車で1番近い海に向かうと、ちょうどその時オレンジ色の大きな太陽がくっきり見えたので、今日は見えるぞ、と期待をした。

夕陽が顔を出してくれたが、その後雲に隠れてしまった


結局雲に隠れてしまって、サンセットを見ることはできなかった。
それでも、この光景を見つめていたくて、しばらく海を眺めていた。
周囲には、地元の人たちだろう。夕陽を見るために、子供連れの家族がいた。
若者たちは海で戯れ、サーフボードを持っている人もいる。


海が日常にある生活
以前はここから船が出ていたのだろう
釣りをする人もいるらしい
ここでサーフィンをしている人も見かけた


これだけ海と自然に囲まれ、暖かい土地に住んでいたら旅行に行きたいとは思わないのではないだろうか。

明日この島を離れるのが寂しい。
心がそう感じているのだろう。
電動自転車に乗ったまま、少しでも長く海を見つめていようと思っていた。

続く

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