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フランス人にZENだと評判のおいなりさん

フランスでは、仕事帰りの飲みニュケーションはないけれど、職場で持ち寄りランチは時々あります。特に季節が良くなってくると、外でピクニックをします。そんなとき、毎回ストレスフルだったのが、何を持っていくか。
初めの頃は、持っていくものを悩みに悩んでいました。フランスでの日本ブームもあり、日本人ということで、何か日本っぽいものを期待されている感じがヒシヒシと。
今では、すっかり慣れたもので、これを持っていけば間違いないというものがわかってきたので、そのご紹介。

みんな大好きいなり寿司。これは本当にどこに持っていっても大人気。今まで何回作ったことか。1個ずつ分かれているので、取り分けるのも簡単だし、手で食べられるのも、持ち寄りパーティーにおいて重要な要素です。

ただし、私の場合、皮はみすずの「味つけおいなりさん」、中身は永谷園の「すし太郎」が必須です。両方とも、オペラ座近くの日系スーパー京子食品で買えます。
私はお菓子は作るけど、料理はしないので、自分の味つけに自信がありません。職業柄、手先を使うことは好きなので、味は既製品を使って、仕上げは手先の器用さでカバー。考え抜いた苦肉の策なのです。

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初めて作った日のことは、今でも忘れられません。作るといっても、炊いたご飯にすし太郎を混ぜて、みすずの皮に詰めていくだけなのですが。食中毒を起こしたらどうしよう、なるべく家をでる直前に完成させなければ、と夜通しドキドキし、朝5時から準備を始めました。今となっては、30分もあれば、ちゃちゃっと詰められるようになりましたが、その頃は2時間近くはかかっていました。

私が会得した詰め方の裏技としては、最初にごはんを皮の数ぶんだけ小さな俵おにぎりにしてから、詰めていく方式です。利点は、大きさが揃うのと、ご飯を仮成形することで、皮に詰めるときに力がかかりづらく、皮が破けてしまう率が下がります。最近では、友達がくれた寿司型も投入され、ますますスピードアップです。

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フランスに来るときに母が持たせてくれた赤い会津塗りのお重に入れて、風呂敷で包んでいくと、ただのおいなりさんがとても立派に。フランス人からみると、大層有難いものに見えるようで、なかなかの日本文化のプレゼンテーションになります。
仰々しく風呂敷を開き、朱色の塗りのお重から、整然と並ぶおいなりさんを出すと、ZENだと褒められます。フランスでは、なんか日本っぽくて良いものを、なんでもZENっていうんですよね。落ち着きなさいという意味でZENになれ、という言い方もしたり、フランス語の一部のように使われています。COOLと近い意味合いかもしれません。

茶色一色のおいなりさん。最初は色味もなくて地味かなと思ったのですが、侘び寂びを感じてくれるようです。同じ大きさのもののリピートで、礼儀正しく箱に収まっている様子からそのような印象を受けるよう。
意外なことに、フランス人が好きな日本らしさって、華美なフジヤマ、ゲイシャじゃないのです。日本の精神世界、侘び寂び、ちょっと解釈が独り歩きしはじめたけれど、ZEN。
ある日、フランス人の同僚が「MONO NO AWARE」といい出した時は、耳を疑いました。後で調べたら、フランス語版のWikipediaにも載っていました。和の精神や、しきたり、規格がキチッとしていたり、職人技だったりに惹かれるのでしょう。

そう、おいなりさんの薄い皮は、繊細な職人技であると驚かれるのです。私は何もやっていないんですけど、製造技術のレベル高さともいえます。そういえば、日本の食品でよくみかける、「モンドセレクション受賞」のマーク。あの賞、味がどうこうではなく、「製品の品質を認証します」というもの。確実に均一なものを揃えられるという、製造技術の水準を審査しているのです。日本では、個体差なく同じものを量産するということが、当たり前のように行われているので、なぜそのような賞があるのかと思いがちです。フランスのスーパーで売っている、量産品なのに不揃いなクッキーをみたとき、モンドセレクションが存在する意味を痛感しました。フランスにおいては、不揃いさもあじになったりするんですけどね。

「おいなりさんの皮、どうやって作るの?」と聞かれた時、私は出来合いを買っているけど、と前置きしつつ「豆腐を揚げて、油揚げにしたものをタレに浸す」と一般的なプロセスを説明しています。
ここで大事なのがTOFUというパワーワードです。身体に良い、お豆でできた何か、ということは、意識が高いパリジェンヌには既に認知されているので、TOFU=なんかオシャレ、なのです。
あと、中身が「すし酢と人参、しいたけ、レンコンなどの野菜をまぜたごはん」というのも良いのです。何度もいいますが、すし太郎です。お酢が身体に良いというのは、フランスでも同じ認識で、なにより、肉、魚を使っていないので、誰でも食べることができるのです。ベジタリアンが多く、宗教も多様な国なので、そういうことには、わりと気を使います。

TOFUでベジタリアン対応といえば、なかなかのスタイリッシュな食べ物といえるでしょう。職場にモデルのように美しい女の人がいるのですが、健康オタクで、いつも食べるものに気を使い、持ち寄りパーティーでも迂闊に人が作ってきたものは食べません。そんな人でも、おいなりさんを食べて美味しいといってくれました。

おいなりさんが、お寿司というのも、受け入れられやすいポイントです。パリでは、SUSHIはヘルシーフードとして人気があります。フランス人経営のSUSHI SHOPという現地化されたお寿司屋さんがそこかしこに。
持ち寄りパーティーの前には、何を持ってくるのか各自リストに書き込むのですが、おいなりさんでは伝わらないので、いつもSUSHIと記入しています。そうすると「生魚の!?」と驚かれるのですが、魚を使わないSUSHIなのよー、というと、みんな興味津々。実物みて、確かに大きさ感からSUSHIだと納得してくれます。

味に関しても、みなさん、甘じょっぱいものが好きですね。甘じょっぱいものをフランス語でsucré saléといいます。sucréが甘いもの、saléが塩っぱいもの、そのままです。そういえば、テリヤキソースも世界的に人気ですね。

ちなみに、トップ画像に写ってるタクアン。こちらは肝試し気分で食べてくれた人以外からは、人気がなかったです。フランス人は、口に合わないものを食べたときには、遠回しに「ちょっと香りがキツイわねぇ」という言い方をするのですが、タクアンは実際に匂いが強いですもんね。

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