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「特別支援学校の開かれた学校づくり」Part4 地域と共に

植草学園大学発達教育学部 教授 佐川桂子

  私が2018年から2019年まで勤務していた千葉県立君津特別支援学校では、「世の中を優しくする学校」を合言葉に、児童生徒の持っている力や可能性を地域社会に向けて発信し地域活動に積極的に関わっていこうと考え、さまざまな取組を展開しました。その一つが、高等部作業学習班の一つであるサービス班の生徒が、青年経営研究会の皆さんと一緒に行った「きみつキラキラ大作戦」です。年3回、最寄り駅であるJR君津駅の清掃活動を行いました。学習の一環として行っていた窓清掃の技術を生かしコンコース等の窓を丁寧に拭き上げ、通路にこびりついたガム取りも行いました。清掃活動中、道行く方々から『こんにちは』『きれいになったね』『がんばっているね』と声をかけられ、生徒たちは、働く喜びや地域に貢献している実感を得ることができたようです。
 現在、コロナ禍の影響でこの活動は休止していますが、各学校とも、こうした地域との結びつきを大切にする取組をさまざまに工夫しています。Part4では、特別支援学校と地域が密接に結びついている実践を紹介します。
 

地域の史跡を守る学校  
 2015年4月に開校した千葉県立飯高特別支援学校は、開校当初から地域との交流をとても大切にしてきました。この学校は、閉校した小学校の跡地を活用して設置されたこともあり、地域の方々は、地元に学校が復活することを大変喜び、温かく迎えてくださいました。
 飯高特別支援学校の近くには、「飯高寺(飯高檀林跡)」という有名な史跡があります。地域の方々との協議を進める中で、その史跡の清掃活動を生徒たちが地域の方々と一緒に担うことになりました。活動を共にすることで地域との繋がりが密になり、地域に暮らす方を講師に招いての茶道体験や絵本の読み聞かせなども行っています。
 地域の中で必要とされていることに取り組み、同時に地域の人的な資源も活用させていただく、まさに「共に生きる」実践ではないかと思います。

「カフェ」のある学校
 特別支援学校の中には、地域の方を対象に「カフェ」を開いている学校があります。職業の学習としてパンやクッキー作りに取り組み、校内に設置した「カフェ」で販売するのです。店内では、他の生徒が作ったさまざまな製品も展示販売していて、近隣住民の方たちは「カフェ」がオープンする日を楽しみにしてくださっているようです。お客様対応も、もちろん生徒たちが行います。それも学習の一つ、地域の方々との自然な触れ合いが大きな学びとなります。
 学校に地域の方が買い物や憩いの場として来てくださる…ちょっと素敵な空間が広がっています。

福祉避難所になる学校
 特別支援学校の中には地元の自治体と障害のある方の避難の在り方について協議し、福祉避難所開設の協定を結んでいる所もあります。
 特別支援学校に通う子の中には、さまざまな事情で災害時に避難所に行くことが難しい子もいます。特別支援学校を福祉避難所に指定してもらうことで、通い慣れた場所への避難が可能となります。また、近隣の住民にとってもいざという時の安心材料の一つとなります。
 協定を結ぶにあたっての課題もありますが、福祉避難所の指定を機に地域防災の講演会や地域と連携した防災訓練を行うなど、活動が多方面に広がっていきます。

今後は、コミュニティスクールとして
 国では、地域と学校が一体となり、社会総掛かりでの教育を実現していくための体制づくりとして、コミュニティスクールの導入を進めています。コミュニティスクールとは、学校運営協議会制度を導入した学校のことで、教育委員会から任命された保護者や地域住民等の委員さんが、一定の権限や責任をもって学校運営に参画する仕組みです。
 千葉県の各特別支援学校では、これまで「開かれた学校づくり委員会」を設置し地域に開かれた学校づくりを進めてきました。これからは、その取り組みをさらに進めて、コミュニティスクールとして地域と共に歩んでいきます。
 特別支援学校が対象とする「地域」は小中学校区より広く、学校によって捉え方もさまざまです。その学校ならではの特色を生かし地域との繋がりを大切にしながら、「地域と共に」そして「地域を友に」よりよい学校づくりを進めていけるのではないかと思います。

<酒々井サービスエリアにて>

 先日、出張先からの帰り道、高速道路のサービスエリアできれいな花壇を見かけました。何気なく近寄ると「富里特別支援学校の皆さんが育てたお花です」と書かれたプレートが添えられていました。千葉県立富里特別支援学校では、高速道路のパーキングエリアやインターチェンジに植える花を中・高等部作業班から定期的にNEXCO東日本に納品しているそうです。
 それぞれの特別支援学校がそれぞれの地域の中で、それぞれの花を咲かせています。これからも多くの方々が、さまざまな花と出会い、その花の良さを見つけてくださることを願っています。(おわり)

                      プロフィール(下記の「本学教員紹介」ページ)             https://www.uekusa.ac.jp/university/dev_ed/dev_ed_spe/dev_ed_spe_047                      


植草学園大学・植草学園短期大学 特別支援教育研究センター
障害者支援を学ぶことは、すべての支援の本質を学ぶことです。千葉市若葉区小倉町にキャンパスをもつ植草学園大学・植草学園短期大学は、一人ひとりの人間性を大切にした教育を通じて、自立心と思いやりの心を育むことにより,誰をも優しく包み込む共生社会を実現する拠点となることを学園のビジョンとしています。特別支援教育研究センターは、そのビジョンを推進するため、平成26年度に創設され、「発達障害に関する教職員育成プログラム開発事業」(文部科学省)の指定を受けるなど、様々な事業を重ねてきています。現在も公開講座を含む研修会やニュースレターの発行なども行っています。                                     tokushiken@uekusa.ac.jp

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