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謎は氷のように解けていく

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夏休み中の高校で発生する謎や事件を、引退した水泳部で受験生の女子高生が爽やかに推理する連作ミステリ。
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【短編ミステリ】泳げないプール(3)

【短編ミステリ】泳げないプール(3)

「マジでないじゃん……」
 南から燦々と陽光が降り注ぐなか、すっかり水がなくなったプールを見下ろしながら、わたしはぽつりと言った。

 浜野高校の二十五メートルプールの水は、見事に枯渇している。申し訳程度に、ところどころに水溜りが残っているぐらいだ。
「マジで、ないんです」
 隣から、日向の沈んだ声が聞こえる。横を向くと、神妙な面持ちの水泳部部長と目が合った。気を取り直すように、いきなり声を張る。

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【短編ミステリ】泳げないプール(2)

【短編ミステリ】泳げないプール(2)

 下駄箱から取り出したスニーカーに履き替え、外に出ようとした時だった。
「あ、いた!」
 聞き慣れた女子の大声が、昇降口に響く。二人の女子が、わたしと凛の前に立ちはだかった。

 進路を塞いだのは、よく見知った二人だった。
 後輩の、酒井日向と河村梢。
 両方とも二年で、水泳部のそれぞれ部長と副部長。わたしと凛は六月の半ばに引退したばかりだから、約一か月半ぶりの再会になる。
 ちなみに、先月までわ

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【短編ミステリ】泳げないプール(1)

【短編ミステリ】泳げないプール(1)

 自分では意識していないつもりだったけど、自然と顔に出ていたらしい。
 出し抜けに、
「沙希、嬉しそう」
 と凛に指摘されたのだ。苅谷凛らしい、どこか悪戯っぽくて茶目っけのある言い方だった。
 わたしはあえて照れを隠さずに、正直に応える。
「そりゃあ、嬉しいよ。だって、ずっと楽しみにしてた夏限定の新作、今日からなんだもん」
 わたしと凛は、どちらからともなく笑みをこぼした。

 四時間目の数学が終

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【短編ミステリ】夏の朝、推理するわたし

【短編ミステリ】夏の朝、推理するわたし

 列車が発車したのはわかっていた。
 だって、「ファーン!!」っていう大きな警笛の音が、嫌でも耳に入ったから。
 それでも、なぜだろう。わたしの足は止まることはなかった。何も考えず、無我夢中で走っていた。

「はあ、はあ……」
 息を切らせながら無人の駅舎を走り抜け、ホームにたどり着いた時にはもう、手遅れだという残酷な事実を突きつけられる。
 列車は遥か十メートル以上先を走り、同時にわたしの遅刻が

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