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世帯や家族構成に縛られない社会への期待ー自民党幸齢社会PT提言よりー

2024年5月に自民党 社会保障制度調査会 誰もが安心して歳を重ねることができる「幸齢社会」に向けた包括的支援プロジェクトチーム(幸齢社会PT)から、「『新しい社会保障』に向けて」と題した提言が出されました。

そこで、以前、このPTにも関わっているある議員の方とお話する機会があり、それ以来個人的にも気になっていたテーマ ―家族や親族を前提としない社会をどのように考えるか― について、この提言をなぞりつつ書いてみました。


「身寄りのない独居者」という社会課題

提言のサブタイトルが「若者から高齢者まで誰もが安心して歳を重ねることができるよう、身寄りない独居者等を地域で支える新しい社会の形、地域力の強化(地域共生型セーフティネット・エコシステムの構築)」となっていることからも明らかですが、今回の中心的なテーマは急増する独居世帯です。2050年には44%が独居世帯になるという推計もあり、もはや誰もがその予備群であると言える状況だと指摘しています。

「独居世帯」、どんなイメージでしょうか。元気なうちは、まして都市部であれば気ままな1人暮らしも悪くない…という程度の話なのかもしれませんが、歳を取ったら、いざ病気や大きなケガをしたら、認知症になったら、どうなるか。まして、この場で1人で倒れて死んでしまったらその後の財産や契約・サービスの始末はどうなるのだろうか…

身近に頼れる家族や親族がいればよいのですが、必ずしもそうでない状況に置かれる方も増えてきています。また、物理的に近くに住んでいたとしても家族・親族だからといっていざというときに当たり前のように助け合えるというものでもないと思います。

しかし、現実問題として、家を借りるにも保証人が求められます。入退院の手続きなども自力でできなければそれをすぐに代理をできるのは家族だけ、ということもあるでしょう。日常生活の細々とした「困った」への対処も難しくなります。制度的な観点でも、医療とも介護とも福祉とも言えないような領域の困りごとをサポートする役割はグレーゾーンになっていて、結果的に現場の専門職の方や支援者の方が、本来の権限や業務範囲を超えて対応せざるを得ない状況になっているそうです。

こうした課題を捉えて、当事者・事業者(民間サービス)・支援者の「三位一体」、マルチステークホルダーの取組で、新しいスタンダードとしての「身寄りがない」状態に対応していこう、という点がこの提言のキーメッセージだと理解しています。

自民党社会保障制度調査会幸齢社会PT
「身寄りない独居者等を支える『新しい社会保障』にむけて」より画像引用

1人1人の「脆弱性」と「生活ニーズ」に向き合う

こうした身寄りのない独居者を支える仕組みを考える際には、1人1人の支援ニーズ(「生活ニーズ」と言い替えてもよいかもしれません)に向き合うことが必要です。この提言の中では、「資力」と「判断能力」の2軸・9象限で大まかに表現されていますが、細かく見ていけばキリがない、人の数だけニーズがある、ということにもなりえます。

自民党社会保障制度調査会幸齢社会PT
「身寄りない独居者等を支える『新しい社会保障』にむけて」より画像引用

この多様なニーズにどのように応えていくのか、ということで、提言の中ではいくつかの具体的な提案もなされていますが、私が注目したのは以前ご紹介した消費者政策の議論とのつながりです。

全7回にわたって長々と論じてしまった内容をぎゅっと圧縮すると、消費者は(必要な情報が与えられれば)合理的な意思決定が可能である、という前提に立った現在の消費者政策や法制度は、デジタル化や高齢化の進展により根本から見直しを迫られています。消費者の不合理性や「脆弱性」に正面から向き合い、消費の意思決定の場面のみならず生活全般を通じて、消費者(生活者)の幸福を実現するにはどのような法制度やガバナンスが必要なのか。また、どうしても事業者側が優位に活用しているデジタル技術を、消費者の視点に立って活用することはできないか。こうした議論が今進んでいることを紹介してきました。

今回の提言で「脆弱性」という言葉は使われてはいませんが、根本で向き合っている課題には共通点が見いだせます。これまでは「身寄り」の存在を前提に、1人1人の判断能力の違いや生活状況・ニーズの違いを家族が補完・吸収することを期待した制度設計が、社会保障制度の中でも、あるいは生活にまつわる様々な契約や手続きの場面でもなされてきました。

しかし、その「身寄り」の存在がないことを新たなスタンダードと捉えなければならない、という現実を直視した時に、その前提は通用しなくなります。1人1人の生活ニーズをどのように支えていくのか。やはり、その時に必要になるのは、マルチステークホルダーの参画であり、ハードローや国の制度のみによらないガバナンスを考えていくことになります。

提言されている施策は具体的なものも多いのですが、「若者から高齢者まで誰もが安心して歳を重ねることができるよう、身寄りない独居者等を地域で支える新しい社会の形、地域力の強化(地域共生型セーフティネット・エコシステムの構築)」という提言のサブタイトルを改めて見ると、まさにこのことを言わんとしているのだと私は理解しました。

”疑似家族”という考え方

この提言の中で、もう1つ私が注目したのは「疑似家族」という考え方です。これがまさにある議員の方とお話した際に教えていただいた考え方でした。

身寄りのない独居者等に対する支援として、遠方の家族より近隣の住人などが本人の状態をよく理解しているなど、家族以外の人同士が、お互いを支えあう互助的役割を果たしている場合があるとの指摘がある。このような「疑似家族」とも呼ぶべき、家族にかわってお互いを支えることができる互助的な活動は、今度(原文ママ)ますます必要となる。

自民党社会保障制度調査会幸齢社会PT「『新しい社会保障』にむけて(提言)」より

やはり消費者政策の議論の中でも出てきていましたが、成年後見制度というのはハードルも高いし融通も利きにくい中で、(制度自体の見直し議論も当然あるにせよ、)もう少し手前というか、普段から相互に補い合える、助け合えるという関係性や仕組みをどう作っていくか。その課題への、1つの解がこの考え方です。

身寄りの有無に関わらず、家族や親族だから、ということだけをもって、例えば医療に関する意思決定や財産の管理・処分を本人に代わって行うことができるとか、生活が困窮した際には支えないといけないなどというのも、もはや歪な仕組みにさえなってきているように感じます。

むしろ、家族・親族関係に依らずに、信頼できる人に万一の時の意思決定を委ねることができるとか、必要な手続きを代わりにやってもらえるとか、そういう仕組み、社会になっていくべきなのではないかと私も思います。その対象が自然人に限られる必要もないでしょうから、特定の事業者・サービスが家族の役割を果たすとか、デジタル技術(例えば、あらかじめ残しておいた意思表示や、信頼できるアルゴリズム)に委ねるなどという選択肢もあってよいはずです。

こうした考え方が制度的にもサポートされるのであれば、シェアハウスの生活の中で互いに支え合う”拡張家族”といった考え方、あるいは、性別を問わないパートナーシップのあり方など、様々な価値観や新しい支え合いのあり方を包摂する仕組みになるのではないかという期待も持っています。

まだ「提言」という段階ではあるので、実現に向けた動きがどこまで加速するのか、などまだまだ見えないところではありますが、政権与党からこうした議論が提起されたことに注目していきたいです。

なお、提言の中では、「疑似家族」に対して以下の注釈が付されていることも念のため紹介しておきます。

なお、この提言は家族を否定するものではない。従来の家族形成を支援する少子化対策等についてもこれまで以上に政府として取り組むことが重要である。一方で、世帯単位の施策が様々なひずみを生じさせている中で、家族を前提としない個人単位の考え方を提唱することも提言の目的である。

自民党社会保障制度調査会幸齢社会PT「『新しい社会保障』にむけて(提言)」より

さいごに

今回は、自民党から出された提言の1つをきっかけにして、個別の提言の内容というよりはその考え方だったり、他の議論との共通性だったり、今後の期待だったりを徒然に述べてきました。

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(こちらの記事で、消費者政策の文脈で、私たちのサービスの位置づけや期待について論じていますのでぜひ合わせてご覧ください↓)

こうした社会課題に対して、私たちがどう貢献し、ユーザーや社会を前に進める力になれるのか、ということももちろん考え続けていきます。同時に、社会を前に進めようとする活動や提言などをこうして取り上げていくことも、微力ながら貢献になるのではないかと思い、記事を書いてみました。最後までお読みいただきありがとうございました。


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