見出し画像

外国で四面楚歌になるときついぞ、という話(前編)

二人の上司が相次いで去り、彼(A君)はその仲間だとして、現地のスタッフからだけではなく、日本本社からも疑われた。まるで四面楚歌の状態。
ある国で働いていた友人(A君)に、実際に起こった話
だ。

【プロローグ】
彼はある日本法人に勤めていたが、知人の紹介でアジアに展開するB会社の海外事務所に入社した。初めての海外勤務となった。

海外での仕事にも慣れて大きな仕事もいくつか決め、一年半ほど経った。ようやく手応えを感じていたとき、あっという間に彼を取り巻く状況が変わり、辛い日々が始まった。

辛い。だから、仕事が終わるや否や、近くのバーに駆け込む。昨日よりたくさん、昨日よりも速く、飲めるだけ飲んだ。お酒の力でも借りて、今置かれている状況をひとときだけでも忘れたかったからだ。後日、知り合いから
「A君、数ヶ月前、xxx通りをフラフラと歩いてたのを見たことがありますよ 。きつそうでしたね。お声は掛けなかったですけど」
と言われたこともある。

「nobuさんさん。あの頃は、本当にきつかったんです。フラフラと歩いていた、っていうのはかなり的確な表現だと思います」
と彼は笑った。

【事の始まり】
A君を日本から呼んでくれた上司のKさんが、異動で帰国することになった。現地法人の業績が二年連続して奮わなかった事が理由だが、どうも女性問題も絡んでいたらしい。とにかく、そこから彼の試練の日々が始まった。

Kさんは、現地の言葉を早くから習得し、別拠点での経験も含めて、海外での生活は15年。会社が海外に進出したごく初期から、たくさんの価値ある仕事をしてきた人だった。少し、癖の強い人ではあったが、日本から呼び寄せてくれたKさんに感謝していたし、尊敬もしていた。だから、突然の出来事に驚いた。

これから、どうなってしまうんだろう。

次にやって来る新しい上司が、どういう人で、どんな方針を打ち出すのか。それによっては、自分自身も帰国することを含めて、身の振り方も考えなければいけなくなるかもしれないな、と思ったそう。

【逆転】
でも、世の中悪いことは続かないなぁ、とA君はすぐに思うことになった。

別の海外支店から代わりにやってきた新しいボスMさんが最高だった。昔気質のバリバリの営業マン。口癖は
「A君、営業は足で稼げ!」
(それをさ、こういうふうに自分の足をピシャっと叩きながら言うんだよ、と彼は楽しそうに言った)

仕事への要求は厳しい。粗利率についても口やかましく言われる。一方で、お酒が大好きで、就業時間になると毎晩のように彼を飲みに誘った。
「すみません。まだ、もう少し片付けたい仕事があるんですよ」
と言えば
「えー?もういいから、早く行こうよー」
と子供のように拗ねる人だったらしい。

ボスは豪腕を奮う。一時的にオフィスを縮小し、組織のリストラも行う一方で、次々にトップセールスで新しい仕事をもらい、わずか数ケ月で事務所は勢いを取り戻した。彼はハッピーだった。この人と一緒に仕事をしていけば、きっと面白いことになるぞ、とワクワクした。

A君はハッピーだった。それに嘘偽りはなかった。
けれども、冒頭に書いたように、Mさんもまた相次いで去ってしまうことになる。

束の間のハッピー。続きは後編へ。

カバー写真:PexelsのElliot Ogbeiwiによる写真


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?