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外国で四面楚歌になるときついぞ、という話(後編)

B会社の事務所で働いていたA君は、異国の地で楽しく仕事をしてた。
しかし、ボスが急に帰国して不安を抱えていたが、代わりに来たボスMさんが優秀で、仕事が順調に進んでいた。

【再逆転】
新しいボスMさんも、日に日にA君を信頼するようになった。それも彼にとってうれしいことだった。

半年も経った頃に突然、日本から海外担当部長のTさんと経理部長のRさんが出張してきた。その晩の会食はMさん、TさんとRさんの三人で行われ、彼は呼ばれなかった。なんとなく嫌な予感がした。翌日、彼はTさん、Rさんとランチをすることになった。Mさんはお客さんとの約束があって不在だった。取り止めの無い話が続き、一体この人たちは何しに来たんだろう?と思った。しかし、食事の最後にTさんが急に真顔になって、

「君も頑張ってな」

と言われたのが、ひどく気になった。

二人が帰国した後すぐに、Mさんは日本から呼び出される。戻って来た時には、あの精力的なMさんが全く元気がなかった。そして、ひと月も経たない内に帰国することになった。本社には戻らず、そのまま退社する、ということだった。

前後して、日本に戻っていたTさんが再び、やって来た。諸々の整理ができるまでの間、暫定的に業務全般を統括するという役割で、しばらく滞在することになった。彼はTさんの預かりとなり、何が起こったのか、よくわからないまま事態は悪い方向に急転していった。

Mさんとは、彼が帰国する前に、一度だけ飲みに行った。その日の酒はお互いにあまり言葉も出て来ず、お通夜みたいだった。Mさんは、

「ま、サラリーマンってのは宮仕えだ。仕方ないわな」
とだけ言った。
「空港に送りには来なくていいよ。寂しい気持ちになるのは嫌だからさ」
とも言った。

当時は駐在員がその地を離れる時、残ったスタッフや親しい友人達で空港に送りに行くものなのだけれども・・・。

【万事休す?】
どんな状況にあっても、日は昇り、日は沈む。ビジネスは続いていく。

TさんはMさんとは全く正反対で、自らは陣頭には立たず、戦略も無く、ただ、部下を叱咤するだけの人物だとすぐに理解した。リーダーシップがない人だ、これでうまくいくのだろうかと、A君はひどく落胆した。

つまらない日々。手応えも張り合いも無い日々。

ふと、ローカルスタッフ、特にマネージャーやシニア格の同僚の自分を見る目が変わっている事に気がついた。小馬鹿にしたような、怒りを含んでいるようなそんな目。彼らから見れば、日本人のマネジメントが悪かったせいで業績は上がらず、おまけにローカルスタッフの同僚はリストラの憂き目にあった。間違いなく、避難されるべき側の人間だと考えているのだ。

だから彼らは彼とは逆にTさんが来たのを歓迎していた。彼らにとってはTさんこそ救世主だ。

Tさんは彼を撤退的に無視した。営業の担当から外した。Tさん子飼いのS君が赴任してきて彼の上司になり、扱いは悪いまま。

二人はローカルスタッフに甘く、常に彼を疑っていた。後でわかったことだが、ローカルスタッフから本社に、Kさんの告発状が送られていたらしい。内容はわからない。ある事、ない事も書かれていたのだろうし、Kさんの脇が甘かったのも事実だ。

海外のことは、日本にはわからないだろうという慢心があったのかもしれない。

そして、次に赴任してきたMさんは彼らの意に反して、組織や人事、給与になたを振るったことで再び、告発されたようだった。

その頃から、彼は、家にまっすぐ帰らないで、お酒を飲まずにはいられなくなった。ふらふらと街を歩いていたのを目撃されたのはこの頃だ。

どうにもこうにもならない日々が続く。しかし、ある時、先に昼食に出たT部長の机の上のファイルが開かれているのを見た。

「AはKやM同様に問題ありそうだ」

という文字が目に入った。続けて、いくつかの疑惑が書かれていた。そんなページを彼の目に入るようなところに、大胆に開けたまま外出するだろうか?

わざと見せているに違いないな、と彼は思った。何もかも馬鹿馬鹿しく思えた。

後先を考えずに、翌日、退職願を出した。T部長は黙って受け取り、遺留はしなかった。淡々とT部長とSに引き継ぎをした。彼の退社を知ったローカルスタッフはみんな、うれしそうな顔していた。

【エピローグ】
「でもね、本当に何が起こっていたのかは正直わからないんだよ。ま、わからなくてもいいや。こうやって、また、呼び寄せてくれる人もいたしね。」
彼は、別の国で、ある会社の立ち上げに加わり、幹部として活躍している。
あのまま、B会社の海外事務所にいたのであれば、彼は心を病んでいたかもしれない。

悪いことをしていなくても、こういうこと起こりうる。特にアジアでは。
日本では起こりえないことが起こるのが、海外だ。

時には逃げることも必要だ。
「逃げるは恥だが役に立つ」その通りかもしれない。
ほら、主役の二人も結婚したしね!笑

その後、ほどなくしてB社は撤退したそうだ。

カバー写真:Pexelsのeberhard grossgasteigerによる写真

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