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月は何時になってる? 〜月の時間と地球の時間〜

月面探査がこれからまたブームを迎える。「初の女性を、次の男性を」月面に立たせるNASAのアルテミス計画をはじめ、恒久的な月面基地を設立するために今後10年間に数十ものミッションが予定されている。アメリカやヨーロッパだけでなく中国も独自の動きを見せ、昨年暮れには韓国の探査機が月の周回軌道に乗ったことも記憶に新しい。月の表面(月表?)にはこれから多くのローバーが走り回り「地ならし」をしてくれることだろう。

ただそこで問題が生じる:「どの時間に合わせて予定を進めればいいんだろう?」
というのも、いささか古典的な表現で言えば月面では地球上の時計よりも針が早く進むからだ。

実際には現代の1秒の「定義」はどこであろうと同じ、セシウム原子核の普遍的な物理現象を利用した原子時計に基づいたものである。この「物理」というやつは、宇宙全体、森羅万象の理を記述する学問であるが、ここに時間と重力の要素が入ってくると凡人にはちょっと理解しがたい姿を見せる(それ以前の問題、という話もあるが)。
月の重力は地球のそれよりも僅かに弱い。そのためアインシュタイン博士の特殊相対性理論によれば、月面時計は24時間で56ミリ秒進むというのだ。さらにややこしいのが、月の自転の影響があるため、月面のどこに時計を置くかでこれも微妙に異なってくることだ。

現在考えられている解決策は、月面に少なくとも3台のマスター時計を置き、その情報を合わせてより正確な時刻を設定するというものだ(バーチャル月面時間)。
ただし、それをどのような方法で地上での時間と「同調」させるかが次の問題になる。第一の方法は、バーチャル月面時間を地表の標準時(UTC)に定期的に同期させるというもの。これは地球上で働く我々にとってはもっとも単純で使いやすい。第二の方法は、月面時計の刻む時間を「月標準時」として独立に扱い、地上のUTCと比較しながら使うというもの。これは、月と地球の時間を「断絶」させるものだが、月側で働く機械や近い将来に訪れるであろう人間にとっては好都合である。そういうやり方は、火星などのさらに遠方の星でのミッションにも使えるだろう(UTCへの参照方法はより複雑なものにはなるが)。

NASAの研究者たちは、世界各国の機関やこのところ存在感を増している民間企業が協力して利用できる月面の地形や座標基準を構築することも考えている。月を巡る全てのシステムが互いに情報交換する、地球のインターネットのような単一のネットワーク、LunaNet。それは、いつか太陽系全体をカバーする壮大なインターネットの第一歩となる、と夢は広がっていく。そう、だから月標準時の設定は大きな意味合いを持つのだ。

(本記事は、筆者の感想を織り交ぜながら以下のサイトの文章の一部を意訳したものです:https://www.nature.com/articles/d41586-023-00185-z?utm_source=Nature+Briefing&utm_campaign=cd228ede68-briefing-dy-20230125&utm_medium=email&utm_term=0_c9dfd39373-cd228ede68-42155359

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