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日本の森林を豊かに。『森林デザイン』という考え方

森林は地球温暖化の防止や災害から人々の命・生活を守る、そして木材としての資源など、私たちが安全に暮らしていく上で多様な役割を担ってくれています。国土の67%を森林が占める日本において、森林の在り方によっては、災害を招いたり、はたまた人々は恩恵を受けることもできます。

先日の記事では、そんな日本の森林をつくる上で欠かせない苗木生産者の話をさせていただきました。
先日の記事:『日本の森林を救う苗木生産者を知っていますか?』

福島県南相馬市にある上原樹苗という会社です。苗木生産では他に類を見ない大量多品種の苗木を生産しているこの会社が大切にしていることは、適地適木を考えた『森林デザイン』という考え方。

今回の記事では、その『森林デザイン』について深掘りしてお伝えしていきたいと思います。

これまでの日本の苗木生産、森林について

日本の林業用苗木生産者のほとんどは、針葉樹苗木生産を主としているというのはご存知でしょうか?針葉樹とは、スギやヒノキのような針のような葉を持つ木で、木材としての利用価値が高いからです。そのため、日本の人工林の97%が針葉樹であるとされています。

ほとんどが針葉樹で構成される人工林

戦後、復興のために木材の需要が高まり、日本国内で水源地の奥山や急斜面の山に至る、さまざまな不整地にまで針葉樹を多く植えてきた歴史があります。しかし、その多くが伐期を迎え、場所によっては人が管理できなくなり、災害の温床になっている所さえあるのです。

手入れができていない昔に植えたスギやヒノキ林

代々苗木生産者として家業を行ってきた上原樹苗の現社長上原和直氏は、そんな日本の森林に一早く疑問を持ち、日本の森林を変えるべく、苗木から「あるべき姿の森林つくり」を支援しているのです。

『森林デザイン』とは。適地適木で森林をあるべき姿に

手入れされているスギやヒノキ林

どの山を見ても、針葉樹だけ、広葉樹だけで構成されている森林はありません。日本という国は、地域によって寒暖の差や気象もさまざまで、人が入れる里山から管理困難な深山など多様な場所が混在しています。

そんな日本の森林を考えていく上で大切なことは、「どこに何を植えるか」ということです。人々が安心して生活を営む上で、資源として森林から恩恵を受けることはもちろん必要です。人が管理できる場所には木材として需要の高い針葉樹を中心として植え、手入れが難しい場所においては広葉樹の森林に変更していくことで、適地適木を考えながら森林をデザインしていく。多様な樹木で森林が構成されることで、森は豊かになり、そこで生きる動物や植物をも豊かにしていきます。

「緑のダム」とも呼ばれる森林

そうすることで、人間と動物の適切な共存や、人々が安全や資源という恩恵を森林からもっと受けられるようになるのではないでしょうか。

森林を支える上原樹苗の取り組み

北海道から九州地方まで全国ネットで苗木を販売

そんな日本の森林を豊かにするために、上原樹苗は現在およそ100種類ほどの苗木を生産しています。まだまだ針葉樹の苗木生産者がほとんどを占める中で、これほどの種類を造林用に大量生産している会社は少なく、全国各地から受注の依頼を受けています。

依頼元は、林業家だけに留まらず、国や行政、一般の方まで多岐に渡ります。指定の苗木を販売するだけでなく、「どんな山にしたいか」や「困りごと」を聞いてどんな苗木を植えたらいいかの相談・アドバイスから行うことが増えています。

例えば、イノシシやクマなどの動物が里山に下りてきて困っているという相談を受けた際には、山の奥の方に実のなる植物を植えて、なるべく動物が人々の生活圏に入ってこないように山を作ることを提案し、それに適した苗木を販売したり。

地域の観光資源として目玉となる森林を作りたいという話があればサクラやモミジなどの見て楽しめる樹木を植えるなど。

植物にはいろんな種類がある分、特徴や使い方も無限大です。木材を採るための森林、山を育む森林、人々の生活を守るための森林、愛でる森林。ただ闇雲に木を植えるのではなく、将来そこからどんな恩恵を受けていきたいかを考えて、向き合うところから始めたいと上原氏は話してくれました。

ヨーロッパ諸国の林業会社・苗木生産会社と技術交流を行う

今では、日本各地や海外からも視察を受け入れ、社長自身も海外まで勉強のために足を運ぶことがあるそうです。上原氏は同業者の方に向けてこんな想いを持っていることも語ってくれました。

ーーうちの会社のビジネスモデルを見て、苗木屋さんってスギの木ばかりじゃなくてもいいんだって実感してもらえたら。上原樹苗を見て、各地域で多様な種類の苗木を生産する苗木屋さんが増えていけば、もっと日本の山は豊かになるし、もっと日本の山の価値は上がると思うんですよね。やはり、自分の会社一つで出来ることは当然限られていて。将来像としては、うちみたいな会社が日本国内で増えてほしいというのが私の目標です。ーー

まとめ

日本の豊かな森林

近年SDGsが世界的に掲げられており、自然や環境に目を向けられる取り組みが増えてきました。森林というのは当然持続可能な資源をつくる場所でもあります。日本では自然や資源に恵まれ、普通に暮らしていると森林の大切さになかなか気がつかないかもしれません。

しかし、ふと考えてみると、

ーーなぜ水道をひねったら美味しい水を飲めるのか
ーーなぜ丈夫で快適な家を建てて住めるのか
ーーなぜ美しい桜や紅葉を楽しめるのか

それは森林のおかげなのでしょう。森林から多くの恩恵を受ける私たち。そして、その日本の森林をつくる人々や森林デザインを支える上原樹苗のような苗木生産者がいることを知ると、もっと森林を身近に感じ、見る目も一味変わるかもしれません。

上原樹苗のSNSから日頃の取組みも覗いてみてくださいね。
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