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もったいないから生まれる高級日用品

●●「初絹」発掘●●

事の始まりはお寺の物入れから「初絹」と書かれた箱を見つけた事から。


初絹


その箱に恭しくかけられた熨斗紙に「初絹」と書かれていた。開けてみると、ひっそりと薄紙に包まれた白い艷やかな絹の布がお行儀よくおさまっている。明らかに高級そうなその生地は、紅白の糸で纏められ、ご丁寧に房までついている。


●●初絹とは●●

そもそも、「初絹」とはなんぞや。
まず何と読むんだろう。
Google先生にお聞きして返ってきた参考サイトをいくつか読んで見たところによると、 

・はつぎぬと(はつきぬとも)読まれる場合が多い。
・新年に新しい着物や胴裏など、年の初めに身に付ける絹の事を「初絹」と言って、福(服)を招く縁起の良いものとされている。
・初絹の習慣のもう一つに、胴裏の贈り物がある。
縁起の初絹の謂れは、江戸時代に遡る。ある商家で、初荷に絹(この時代は裏絹=胴裏)を受け取った年を境に全てがうまくいくようになり家運が隆盛、これにあやかった人々の間で初絹の習慣が定着し、開運を願う心を絹に託して呉服店などがお得意様へ新年のご挨拶に贈るようになり、現在に至る。
・紅房あるいは赤白の水引きをかけ、紅は魔除けの意味を表し、贈り先の家内安全を祈願するもの。そして、この水引き又紅房は一年間大切に保存するとその間この初絹が幸運を運んで来るといわれている。

そうか、なるほど。この初絹は、おそらくお取引のある法衣店さんからのいただき物だろう。
手触りの良さといい紅房といい、きっとかつてはたくさんの期待と想いを託されてこのお寺に関わる人々に福を運んできたのだろう。


とはいえ、私が嫁に来た20年前にはもう初絹をいただく習慣はなくなっていたので、おそらく30年から40年ほどは(あるいはもっと…)経ってしまっているのだろう。纏めていた紅白の糸をとってみたら、白い絹には色がうつりシミになっていた。
元はかなりのいいお品であることはわかるが、糸の染料がうつったと思われるシミ…これは落ちないものであることは想像できる。

糸の跡がくっきり


とりあえず、もう福の効果はなくなっていると思われる紅白の糸と房、それから箱や薄紙を処分する。


●●絹物を洗う猛者●●


どうせ長い間忘れられなかったも同然な絹物、「洗ってきれいになれば儲けもの」くらいの気持ちで良いだろう。

さぁ、どうやって洗うべきか。

そう思って情報収集していたら目に入ってきた洗剤。
"絹物にも使える洗剤 ザウトマン"
早速入手して使ってみた。

これが…


このくらいに


まぁ、染料のシミなわけだから、ある程度は仕方ない。
暫くの間つけ置きにして、洗って干して…かなりシミが薄くなって生地全体がさっぱりときれいになった。

これは挑戦した自分の勇気を褒め称えたい気分だ。


●●使いみち●●

さて、きれいになったその正絹の生地を、どうしたものか…
着物の胴裏を自力で取り替えるような和裁の技術なんて持ち合わせていない。かといって、そのシミを目立たなくする染色の技術もなければ、人目にふれさせられるような素敵な何かに縫い上げる力量もない。
お寺の物として使うのはまず無理だろうから、処分するよりは個人的に有効活用してもらえればよいと住職・副住職の許可ももらったけれど。

何も思いつかず。使うアイデアが浮かぶまで、しばらく放置…


そしてある時目にしたインターネット広告。
"シルクの枕カバー"

そういえば、少し前に髪がサラサラになるとシルクのナイトキャップが話題になっていた。
でも、夜のリラックスした睡眠時間に何かを被って寝るのは苦手と思って敬遠していた。
でも枕カバーなら使える。
そして何より、多少下手でも人目に触れる事がないのが良い。


●●ジャストタイミング●●

実は…普段使っている枕カバー、何故か片面だけがビリビリに破れているのだ。
裏面を見ぬふりをしてやり過ごす日々に、少し罪悪感をおぼえてもいた。

お恥ずかしい🤭

これはもう、枕カバーを作るべきだとのお告げみたいなものだろう。
絹生地は結構たっぷりある。
ただ、和物の生地なので巾はそこそこ。
生地の巾を活かしたサイズにして、元の枕カバーのファスナーを再利用することにして…
ファスナー部分はサイズ調整が必要だとしても、直線縫いのみで出来るはず。


●●完成●●


シルクの生地に化繊の糸で縫って平気なのかとか、そんな基礎的な知識もなく、とりあえずシミの濃い方を内側にする小さなこだわりだけを持ち、勢いだけは一人前の直線縫い。

さぁ、布をひっくり返して枕を入れて…

完成



思ったより高級感ある仕上がりになった。
まだ寝てもいないのに頬に触れる滑らかな心地よさと翌朝の髪の纏まり具合を夢見る。
きっと高級ホテルに滞在しているような気分で寝られることだろう。



ないもの同然の忘れられた初絹が、高級な日用品枕カバーになるなんて。

もったいないは偉大だ。


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