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お抱え運転手の季節に

 私は運転が下手だ。
免許返納をした義父をお寺の仕事の関係で送迎することが定期的にあるのに、下手なのだ。
住んでいる地域の電車は一時間に2〜3本であるし、徒歩で買い物に行ける店舗が最近はコンビニ程度になってしまったので、それなりに車に乗る機会はある。
なので、運転に関してはそれなりに経験をつんでいるはず。まぁ、言い方によってはお抱え運転手なわけだから。

 運転というのは、上手か下手か以外に慣れというのがあるように思っている。
実際、普段乗り慣れている車じゃないものを運転すると、いつも簡単に曲がれたはずの角で切り返しが必要だったりもするし、慣れた車であっても知らない道で迷って方向転換しようとすると狭い空間のどこまで下がってよいのかわからないことがある。
普段、なんの苦労もなくいつものお店に行って帰ってきて狭い駐車スペースに停められるのは、その動作に慣れていて(過去に何度か失敗もして)、狭い道をどのくらいのタイミングでハンドルを切るとか、どこのスペースが自分にとって停めやすいか、どんな風に下がると位置ぴったりに停められるかを既に知っているからだと感じている。
下手は下手なりに失敗から学び、何度も使う場所での運転は問題なくできるようになる。
しかし、それは恐ろしいことに、運転が上手くなっているのではなくて、「慣れてできることとできないことがわかってきた」だけなのである。


 こういう感覚は元々運転が上手いタイプの人にはなかなか理解されないもので、私の「あそこは難しいから行きたくない」は夫にはまったくない意味が分からない事が多いらしい。



下手な人あるある

  • 自分の乗っている車の長さや幅がわからない

  運転席のあるサイドの幅はなんとなくわかるが反対サイドのギリギリがわからない。前後ぴったりに車をつけなければならない時に、「障害物までだい
たいあと○cmある」がわからない。

 遡れば、教習所でポールみたいなのの間を通る時。「教習所なんだから右側ギリギリに入れば左側は通るサイズ設定のはず」と無駄な確信を持っていたので何の心配もなく「おっ、上手だね!」で通ってしまった。あの時きちんと練習したらよかったのだろうか。


  • 夜のバックが怖い 

 夜の運転、前進するときは明るいライトが照らしてくれるから安心して進めます。でも、ちょっと道を間違えてバックで方向転換をしなければならない時の後のライトの頼りなさ。ほんのちょっとした方向転換なのに、暗くて不安が倍増します。
後にも進める仕様なのに、どうして自動車の後ライトは後を明るく照らさないのか!!


  • ミラーの中の左右に不安あり

 実はそれに加えて、ミラーに映る左右がよく分からなくなります。まぁさすがにバックミラーはぱっと左右がわかる。サイドミラーはそっち側にいるのかがわかる。サイドミラーに映るウィンカーはなんとなく把握。映っている草の茂みを避ける微妙なハンドル操作はミラー越しでは難しいのだ。 なので、暗い道でバックして方向転換は本当に本当に怖いと思う。一番苦手はカーブミラー。角から出てくる車のウィンカーをカーブミラーで見て、とっさにどちらに曲がるのかわからないことがある。だいたいは余裕のある人のフリをして、自分の方に曲がってきてもいいような位置で待ってるので、感謝されて終わるのだが、ごくたまにミラーに映ったウインカーの方向を勘違いすると自分が左右のわからない幼児に戻ってしまったような気分になる。


  • 方向転換の切り返しは90度のみ可能

 夜の方向転換…は最も苦手とするところ。でも本当を言えば明るくても方向転換の切り返しは基本90度しかやらない。教習所かってくらいに。道を間違えて田畑の間の三叉路で切り返しなんて、昼間でも落ちやしないかと怯えながらやることになる。


  • 常に前に進む

 その程度の技量なので、かなり頻繁に道を間違えるけれど、実は一人で乗っている時はほとんど「道を戻ることはしない」のだ。だって切り返しが苦手だから。道を間違ったとしても目的の方向に進めばだいたいはリカバリーできるものだとして生きている。そのため、時間の決まっている送迎は、むやみに進んで遠回りになってしまってはいけないのでとてもストレスがかかる上に苦手な切り返しが必要になり、さらに焦ってミスをする事が多い。


  • 路上の流れを止めたり妨げたりするのは恐怖

 下手を自覚しているので、正当な理由であっても、往来の流れをとめて右折をしたり、店に入る時に混雑していて路上で停車したりするのは恐怖以外の何者でもない。
駐停車禁止じゃなくても、路肩に寄せきれてないのではないかとか、道の端に自分が停めていて後続車や対向車が並んでしまっていたらめっちゃパッシングされたり運転手降りてきて運転席の窓をコンコン叩いて怒られるようなことになるんじゃないかとか思ってしまうわけだ。
高速道路の右車線出口で降りたいときなど、まわりの車に速度を合わせるのに必死になる。
これはもう自分が交通法規に則っている云々ではないのだ。



空間認識能力が弱く、鏡環境で発生する左右盲があり、地図が苦手で経験則から微細な機械操作をすることができない人間が運転免許を持って運転しているのだ。運転していること自体に罪悪感を覚えているようなものだ。



このように「苦手」を言語化して夫に語ってみたものの、全く理解できないとのことだった。
もしかしたら、免許返納が必要なのは私なのだろうとも思う。
そして私同様あまり運転の上手ではないお坊さんもいらっしゃるかもしれない。
…で、何故いまそんな事が気になっているのかといえば、夏のお坊さんはお盆の御棚まわりを車でまわる方もいらっしゃるから。
かくいう私も夏の行事その他諸々を前に、最近は夜に目的地への道のりを予習しながら買い物をしたりしている。
夏頃になると邪魔で下手な運転手が住宅街のそこかしこにあらわれるかもしれないのだ。
そんな時、どうか優しい気持ちで通り過ぎでいただけたらと思う。

でもまぁね、わかりますよね。こちらは下手だから、近づいたら危ないですからね。(脅しや煽りではありません。)

もし、サポートなんてスペシャルな事があったらどうしよう! 写経用紙買って写経して、あなたに幸せがあるように書いて、そして手を合わせようかしら☺