【読書メモ】『戦略の要諦』,リチャード・P・ルメルト (著)
▶今回の読書記録『戦略の要諦』,リチャード・P・ルメルト (著)
『戦略の要諦』
リチャード・P・ルメルト (著)
日本経済新聞出版
▶感想
「ミッションやパーパスは無意味である」という筆者の考えに全面的に賛同するわけではないが、これは、ミッションやパーパスを作っただけで満足して終わっていたり、戦略とは何か?を誤解していたり、戦略をトコトン考えていなかったり、戦略策定に当たってまず目標を定めてしまっていたり、目標を決めれば自ずと戦略が導き出されると信じていたりするような会社、経営者が多いことの戒めであると解釈しました。
▶読後メモ
「戦略」とは困難な課題を解決するために設計された方針や行動の組み合わせ
「戦略の策定」とは克服可能な「最重要ポイント」を見極め、それを解決する方法を見つけること。問題解決の一種と捉えるべき。戦略策定がうまくいかないのは、戦略とはあらかじめ定められた目標、とくに業績目標を実現する方法のことだ、という経営陣の思い込みにある。
「最重要ポイント」とは困難で複雑な課題を構成する要素のうち、最も重要かつ解決可能な(妥当な確率で解決できそうな)要素
生産性の高い人は、最重要ポイントに全力で集中することで、直面する課題を乗り越える方法を見つけ出す
戦略の要諦4つのポイント
戦略を立てる最善の方法は、困難な課題に正面から立ち向かう
一足飛びに目標を掲げ、思い描く終着点を語る人が多すぎる。
戦略の策定とは意思決定ではないし目標設定でもない。
卓越した優位性も長期的ビジョンも他社との比較も要らない。
最初にすべきは困難な問題をじっくり見つめ、その構成要素やそこに作用している要因を理解すること。活用できるリソースを確認する
難所をクリアするにはさまざまな能力やツールが必要。気合と根性だけでは乗り切れない魅力的な誘惑に負けたり横道に逸れたりしないように注意する
ミッション・ステートメントは戦略策定の足しにならない。高邁なパーパスを掲げても、戦略にはまったく役に立たない。そんなものに時間と労力を注ぐのは無駄である。
目標管理を戦略と混同してはいけない。四半期業績目標の進捗状況チェックに毎日時間を費やすといった愚は避ける。グループやワークショップ方式で戦略を立てるやり方は落とし穴が多い。一足飛びに結論に飛びつかない。
戦略自動作成機は存在しない
借り物から真の戦略は生まれない
最重要ポイントをトコトン考える6つの方法
粘り抜く:ひらめきが欲しい時に焦ってはいけない。方法は
①上級者になる(訓練と経験を積む)か
②簡単な答えに飛びつかずもっといい答えに対する感度を上げる類推する(アナロジー):類例、前例、模範や教訓を探し、それから類推する。役に立つ類例は他産業、他国、他の時代に見つかることが多い。適切な類例を探すときに幅広い知識や経験が役に立つ
・アマゾン → セールスフォース
・ミラノのコーヒーショップ → スターバックス
・イエローページ → GoTo(オーバーチュアの前進)
・ライアンエアー → サウスウェスト航空
・大学の卒業記念アルバム → Facebook
類例は比喩で探すこともできる(例:この問題はらせん状か閉じた箱か。ペプシは草食動物か肉食かハイエナのような腐肉食動物か。アメリカは紀元前50年のローマか紀元400年のローマか)視点を変える:ズームイン/ズームアウト。この状況は競争相手からはどう見えているのか?顧客からはどうか?高校生からはどうか?法律家や政治家からはどうか?データ管理者、物流担当者からはどうか? 数年後にはどうみられるようになるだろうか?
「鳥の眼/虫の眼/魚の眼」と「タイムトラベラー」暗黙の前提を言語化する:問題の見え方がちがってくることがある(例:米大手自動車メーカーは部品出荷用のコンテナを標準化すれば規模の経済が実現でき、部品調達コストの削減にもなると思い込んでいたが、標準化自体はコスト削減になるが、実際は大きすぎるコンテナ内で部品が動いて損傷し修理に余計な手間とコストが発生していた)
つねに「なぜ」と問う:暗黙の前提や慣例や伝統になぜを問うことで既存の枠組みを壊せることがある
無意識の制約に気づく:ひらめきが欲しい時に最大の障害となるのが、無意識のうちに立てている仮定やそうと気づかずに下している状況判断、根深く身についている世界観といったもの。型にはまった古い考え方が重石のようにのしかかり、新しい見方ができなくなってしまう。これまで疑ってもみなかった信念や価値観を捨てることに対する恐怖が邪魔をする
戦略は長い旅路である
戦略とは「勝てる」ゲームをプレイすること
単に売り上げを伸ばすのではなく価値創造による利益を伴う成長を実現する。そのためには以下の7つの要素が必要。
ユニークバリューを提供する
不要な活動を排除する
機敏であれ
合併・買収を活用する
必要以上に払わない
化け物(多くの古い組織の中枢に巣くう仕組みやシステムのこと)を育てない
細工はしない
戦略が権力の行使を伴うことは避けられない
方針と行動の一貫性が大事
戦略はある種の問題解決である。直面する問題を理解するカギは診断プロセスにある。何が起きたか、何が決定的に重要かを理解するには、アナロジー(類推)とリフレーミング(再構成)、比較や分析(物差しやフレームワーク、ツール)が有効
強みを探す。結びつける(意外なもの、例えば新しい需要と古い知識、既存事業と新しい技術を「結びつける」手腕が挙げられる。この優位性は分かりにくいがなかなか強力)、切り離す、統合とアウトソーシング、規模の経済と経験の蓄積、ネットワーク効果、プラットフォーム
イノベーション
・一世紀以上続く「長い波」と目先の「短い波」の両方を的確に評価しなければならない。大企業は目先の利益は短い波に乗って得るとしても、つねに長い波を見ていなければならない。小企業や大企業の個別事業は短い波にフォーカスして戦略を立てると技術やイノベーションの恩恵を最大限手にすることができる。
・また「補完的資産」(=イノベーションや新製品を市場に投入するときや補助的なサービスを提供するときに必要になるスキルやリソースのこと)がイノベーションの成否を分けることがある。組織の機能不全
・必要なスキルが備わっていない
・人材の発掘や配置に関してリーダーシップや組織構造、プロセスに問題がある
→経営陣が組織をどのように設計したか、どう運用してきたかに関わるリーダーの誤解
・企業たるものは「ミッション」を掲げなければならず、すべての意思決定はそれに基づいて行うべきである、
・戦略策定に当たってはまず目標を定める。目標を決めれば自ずと戦略が導き出されると信じている
・戦略と目標管理を同一視する悪い目標は、①裏付けのない思い付きの目標、②的外れの目標
BSCは役に立つ目標管理ツールではあるが、既存事業の見直しや新規事業の開拓には有効ではない。
現在の財務実績は過去の戦略の結果である。
ジョブズから学びたいなら、彼がやらなかったことに注意を払うと良い
ジョブズは「つねに業績指標にフォーカスすることによって事業を成功に導く」ことはしなかった。指標を追求することではなく、よい製品を作りよい戦略を立てることによってアップルに成功をもたらした
ジョブズは「主な成功要因に連動するインセンティブを設けることによって業績を改善する」ことはしなかった。アップルの好業績は、財務目標を実現せよと社員の尻を叩いた結果ではない。
ジョブズは「あらゆるレベルの社員が参加してコンセンサスを醸成し、将来展望や価値観において一枚岩となる」ことによって戦略を立てる気はなかった。アップルの戦略のほとんどはトップダウンで推進された。
ジョブズは「ミッション」「ビジョン」「目標」「戦略」をどうするかに頭を悩ませて時間を無駄にすることはなかった。
ジョブズは「戦略的成長目標」を達成するために買収を行うことはなかった。成長は、製品開発と事業戦略の成功が結果としてもたらされる。
ジョブズはHPのように「規模の経済」を追求して利益率を高めることに興味はなかった
ジョブズは90日ダービー(90日間の間に特定の目標やプロジェクトに集中しその成果を追求するもの)には巻き込まれなかった。
会社を率いるのにビジョン・ステートメントもミッション・ステートメントもいらない。どうしても何かぶち上げたいならモットー程度にとどめる。モットーは格言や金言の類であり、感情に訴え、気分を高揚させる
ポルシェ:ほかに代わるものはない
アメリカ海兵隊:つねに忠誠を
オリンピック:より速く、より高く、より強く
デビアス:ダイヤモンドは永遠の輝き
アップル:発想を変える
サンパウロ市:我は導かれず、我こそが導く
リバー・ルーフィング:あなたを守る
ナイキ:とにかくやってみよう
M&Cサーチ:徹底的にシンプルに
経営幹部にとって特に重要なバイアスは
楽観バイアス:何らかの計画や行動のプラス面を過大評価し、マイナス面を過小評価するという具合に、都合のいい解釈をする傾向を指す。これは人間に備わっている「アニマルスピリッツ」、すなわち将来に対する根拠のない期待からくるものだと考えられる。
確証バイアス:もとから持っている意見や信念を裏付けてくれるような情報や材料ばかりに注意が向き、そうでない情報は無視したり軽視したりする傾向のこと。
経験バイアス:自分自身の経験を過大に重んじる傾向を指す。このバイアスは「勝者の呪い」に近い。
以上です。