宇宙へ続く竹輪
人類が宇宙へ進出してから200有余年。宇宙にはあちこちにスペースコロニーができ、宇宙市民も一世だけでなく、二世、三世も誕生していた。
宇宙市民一世の時代は、大型旅客ロケットで移民団を宇宙へと送り込んでいた。しかし、コストが膨大であり、安全性にも不安が残るものだった。事実、ロケットが墜落して、多数の犠牲者を出したこともある。人類は、そういったリスクと犠牲を伴いながら、宇宙開拓を進めていったのであった。
数十年前からは、安全に地球と宇宙を行き来するために、宇宙エレベータが建設されることとなった。初期の宇宙エレベータは、大量の金属とコンクリートを使用していたが、これも建設コスト、材料コストがかかり、いくら材料を月やアステロイド・ベルトから採取してきても、追いつかなくなってしまっていた。
そこで研究者やエンジニアが目をつけたのは海洋資源、簡単に言えば、食用に適さない雑魚やプランクトンである。それらをどうするのかというと、これが簡単、すり身にして焼き固めて、巨大な竹輪にするのである。これを多数繋ぎ合わせていけば、宇宙エレベータの外壁ができあがり、という訳である。材料コストは、採っても採ってもなかなか減らない雑魚たちである。安いものである。巨大な竹輪を焼くのだって、金属とコンクリートの管から比べれば遥かに安い。
そして、竹輪には利点もあった。隕石などが当たって破損した場合も、魚のすり身で塞いで、バーナーで炙れば修復できてしまう。金属やコンクリートのように固くないので、逆に振動などで折れることなく、しなやかに力を逃がしてくれるというのも利点である。
数年をかけて竹輪の宇宙エレベータはついに完成した。地上も宇宙も歓喜に溢れていた。しかし、思いがけず海洋資源の破壊は着々と進んでいっていたのだ――
それからいく年か過ぎ、世界規模で魚介類の漁獲量が激減していったのだ。世界中の海洋学者たちは、この問題に頭を悩ませた。しかし、宇宙エレベータの建設のために、大量の雑魚やプランクトンが使用されたため、魚たちの餌が足りなくなっていることに、思いを馳せることができた者はほとんどいなかった。
そんな頃、天文学者はにわかに騒がしくなっていた。数百年周期で太陽の周りを周回している彗星が地球に大接近し、その尾の中に地球が入る際、宇宙塵で宇宙エレベータが損傷するのではないか? という推測が高まったのだ。
隕石や人工衛星の欠片なら、レーザービームやミサイルで破壊できる。しかし、相手は数センチから数ミリ程度の塵や氷である。防御する術はない。世界中の宇宙軍も総出になって対策を考えたが、答えは出なかった。そして、ついに地球が彗星の尾の中に入る日を迎えてしまった――
大方の予想通り、宇宙エレベータの壁には無数の穴が開き、ボロボロになってしまった。そして、ついに地球の重力に勝てなくなり、敢え無く宇宙エレベータは崩壊してしまった。
それから数年後――
「おーい! 今日も大漁だな!」
「こんなに網がはち切れんばかりになるなんて、つい数年前では考えられなかったよ!!」
宇宙エレベータの壁は崩壊し、粉々になって地球に降り注いだ。しかし、地球は水の惑星とも呼ばれるように、その多くが海である。元は竹輪でできている宇宙エレベータの壁は、海の中に時間をかけて溶け込み、豊富なプランクトンを育て、そして豊かな海を回復させたのだった。
※画像は『ぱくたそ』様から使わせていただきました。
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