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説明不足

今日は職場で心に訴えかける系の
セミナーが開催された。強制参加だった。
セミナーなのに。
まあ、たまに開催されるし慣れたものだ。
今回も適度に右から左へ受け流しながら
やり過ごそうと参加。

いざ始まると、今回はいつもと違い
映像を観るセミナーだった。
偉そうなお兄さんが目の前で話す
いつものセミナースタイルではなかった。
話を振られる事はないので結構助かる。

映像が始まるとライオンが走っている姿が映った。
風になびく草も映った。微生物や動物の大群も。
ドキュメンタリー映像ばりだった。
自然系の映像は嫌いではないので、苦ではなかった。
苦の部分を強いて言うなら
椅子が硬くてお尻が痛かったくらい。

セミナーと関係ないんじゃないの?と思いながら
観たけれど、セミナーを忘れてしまえば
こっちのもの。
完全にドキュメンタリー映像鑑賞会として
頭が慣れてきた。

ゆったりとした気分で自然を眺めていると
突然スーツのおじさんが映った。
びっくりした。慣れてきたのに。
沢山の本が並ぶ本棚の前に立っているおじさん。
おじさんが大きな声で名前を名乗った。

その途端、隣に座っていた先輩の体がビクッと
跳ね上がった。それもびっくりした。
セミナー開始前に「寝てたら起こしてね」と
言われたけれど、ほんとに寝るとは思わなかった。
社長が目の前でこっちを向いて着席しているのに
凄すぎる。
流石にその後は、目を覚ますのに必死だったみたいで
スースーするタブレットを一気に5粒は食べていた。

そして再び視線をモニターへ戻すと
やっぱりおじさんが立っていた。
でっかい声で話し始める。凄くでかい。
今からがセミナーの本番だ!みたいな顔をして
おじさんはいきなり言い放った。


"過去は過去。空っぽですよ?振り返るな!
考えるな!それが良い思い出だとしても
その過去には戻れません!今この瞬間だけ考えて!"


名前を名乗った直後に言い放った。
まだドキュメンタリー映像鑑賞会から
抜け出せていないのに。

戸惑ったけれど、似たようなことは
これまでの人生の中でも
耳にタコができるほど聞いているので
飲み込みが早かった。

飲み込んだ上でワタシの言い分が脳内で爆発した。
何せワタシは過去を振り返るのが割と好きなのだ。
嫌な過去も今となっては消化出来ることもある。
出来ないことも沢山あるけれど。
でもそうやって頭の中を整理したりすることもある。
楽しい過去を思い出してもう一度
楽しい時間を過ごした気分になったりするのが
最高に好きなのだ。会えていない人にも
会えた気分になったりもする。

と同時に過去に戻りたいとも思うけれど
戻れないことは重々承知しているので
"戻りてぇ〜"と口に出すことはあるけれど
本気で戻れると思っているわけではないので
そんなに怒った口調で"戻れません!"
なんて言わないでほしい。

考え方は人それぞれと分かっているけれど
何故かおじさんの話が進むにつれ
イライラが募っていった。
あまり経験したことのない形で驚かされたから
少し気持ちが不安定になっていたのかもしれない。

おじさんのことが嫌いとかではないの。
今日のワタシは少し繊細だったみたいです。
ごめんね。

なんて少しだけ反省をしていると
何の前触れもなくおじさんの自慢話開始。
嫌いになりそう。
過去に最年少で偉業を成し遂げたらしい。
過去の話じゃねーか。振り返ってんじゃねーか。
考えてんじゃねーか。
しかも自慢話はすごく長かった。尺が凄かった。
ドキュメンタリー映像と同じぐらい長かった。

その頃、隣の先輩はもう限界。
頑張って目を開けるけれど
勝手に閉じてしまうあの現象の最中だ。
声をかけて起こすと社長の目線が
こちらに向いて寝ていたことが
バレてしまうかもしれない。
ちなみに社長は結構ネチネチ言ってくるタイプで
面倒くさい。
ワタシは肩で先輩の肩を軽く押してみた。
すると、先輩はこちらを向いて微笑んだ。
やった!作戦成功!と思ったのも束の間、
先輩は口角を上げたまま瞼を閉じた。
もうダメだ。

その後もおじさんの話は、過去の自慢話。
"皆さんも過去の自分を振り返ってみて下さい!
何か頑張ったことはありますか?
今に繋がっていますか?"と訴えかけてきた。
凄く矛盾している。矛盾しているが、
これが人間の人間らしさなのかもしれない。
少し可愛く思えた。思ってやった。

そしてセミナーはそのまま終了。
過去は捨てろ話と過去の自慢話と
過去を振り返りましょうの話で
今回のセミナーは構成されていた。完結。

すると社長が立ち上がり、セミナーの
感想を述べ始めた。凄く心に響いたらしい。
ワタシは何も響かなかった。むしろなにか
モヤモヤしていた。心が汚れている気がしたけれど
周りを見渡すとみんな困惑した顔をしていたので
ワタシの感覚は間違っていないかもしれないと
ホッとした。

社長の話が終わると、ちょうど休憩のチャイムが
鳴り響いた。
先輩はチャイムと同時に姿勢を正し、
満面の笑みで目を輝かせながら
"休憩だ〜!!!"と喜んでいた。
あんなに眠そうだったのに凄い勢いだ。
チャイムが鳴ると一気に目が覚めるあの現象は
学生の頃から変わらないものだなと思った。

先輩の居眠りが社長にバレなくてよかったのだけれど
あまりにも大きな声で休憩を喜ぶもんだから
社長はちょっぴり怒った顔をしていた。
けれど先輩は、そそくさとタバコを吸いに
行ったおかげで注意されることはなかった。
よかった。
そんなところも含めてワタシは先輩が大好きだ。

それにしても結局今回のセミナーも
何が言いたかったのか分かるようで分からなかった。
まあ、自然のドキュメンタリー映像は良かったので
よしとしよう。


結局あのドキュメンタリー映像なんだったんだよ。



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